グラディエーター~傭兵の闘い方~

@koooum

第1話

【ジリリリリ~】

頭の先で鳴り出したアラームを止めると布団から素早く出て、身支度をする。

食事は、冷蔵庫から取り出したドロドロの野菜や果物・・・スムージーと言うらしい。

一瞬で飲み干すと鞄を持って、部屋を出る。

起きてから僅か10分程である。


寮から出てすぐの階段を駆け降り、改札を抜けると地下鉄が滑り込んできた。

この時間帯は、10分に一度は電車が来る時間なんだから、それほど喜ぶべき事でもない。

吊り輪を持って立っているだけだが、周りから聴こえてくる声は、僕の制服を見て、噂話をしているみたいだ。


『ねぇ、ねぇ、あの子の制服って、グラディエーターじゃない?』

電車の走る音や多数の話し声で聴こえてないと思っているのだろうが、訓練を行っている僕には聞き分ける能力も備わっている。

つまり、丸聞こえなのである。


僕らは、代理戦争Proxy warで闘うべく学園で学ぶ傭兵予備軍なんだけど、代理戦争Proxy warをテレビ中継したり、観客を入れて観戦させたりしているので、僕の様な傭兵を闘技会で闘う戦士グラディエーターと呼んでいる人が多数を占めている。

まぁ、似たようなモノだし、気にしてはいない。

噂話をしている女子高生らしきコ達と目があったので、ニッコリ笑って小さく手を振ると


『きゃ~。』

と黄色い声が上がった。

超常の力を使って闘う姿は、女性から見てもカッコいいらしいし、稼ぎが違う。

僕ら、傭兵予備軍であっても、給料が支給され、学園を卒業した後に傭兵となって、国の代表になれば、年収は億を下らない。まぁ、命懸けで闘っているのだから、それも当たり前と言えば当たり前なのかもしれないけど、命の値段が下がりつつある現代では、破格と言ってもいいと思う。

そう言った理由から、モテるのです。

そりゃあ、そうでしょうね。

結婚したい相手の職業ランキングでも常に1位ですし。

未亡人になれば、二階級特進の上に遺族年金・・・

扶養家族達は、傭兵が帰るのを望んでるのでしょうか?

あぁ、怖い。




『痴漢~!』

大声で聞こえてきた。

すぐ、そこからだ。

電車が動き出して間もないのに。


『違うって、言ってんだろうが!!』

揉めてる様だな。

チラッと声の方を見る。

同じ車両の端である事を確認。

現在地は、車両の反対側の端。つまり、1車両分ほどの距離があり、尚且つ人で鮨詰め状態だ。

何も起こらずに停車してくれるのを願うばかりだな。


『きゃぁぁぁぁぁぁ。』

そんな事を考えていたら、女性の悲鳴が車両内に響くと同時に人の圧力が増した。

簡単に言えば、更に人が増えて混んだ様になった。

全く身動き取れない。

原因は案の定、さっきの痴漢騒ぎの場所。

誰かが通報してるし、すぐに警察が来るだろう。

でも電車は、動いてる。。。。


「ちょっと、ごめんなさい。」

断りを入れてから、大きく息を吸い込む。

吸い込んだ分を一気に吐き出しながら、スルッと人混みから抜け出し、飛び上がる。

天井スレスレで、網棚を蹴って推進力に変えた。

一瞬で目的の女性まで近付いて、制圧対象と相対する。

普通のオッサンなのに刃物持ってるし。

ココは、電車の中だよ。

何するつもりで持ってたのさ。


「落ち着いて下さい。大丈夫ですよ。」

この騒ぎの中で声が届いているか怪しい所ではあるが、一応は声を掛ける。が全く意味を為していない。

聞いちゃいねぇ。


「落ち着いて、武装を解除してください。

今すぐにです。

出来なければ、危険だと判断し制圧します。」

警告を発したが、これも無駄だろう。

でも早く止めないと、刃物男は興奮していて危険だし、周りの人達は、パニックで押し合い圧し合いおしくらまんじゅうして、怪我をする危険がある。

さっさと終えるか。




力を解放すると、すぐに事件を収めた。

電車が何事もなかったの様に停車する。

うん。平和が一番だよ。


駅に着くと、ついでに痴漢を働いたらしい男と女性を駅員に任せてから、改札を抜ける。

二駅分乗った電車から降りて、少し歩けば高い塀が見えてくる。

この塀に囲まれた敷地が、傭兵学校である。

刑務所みたい。


「おはようございます。」

校門に立つのは、警備員などではなく


『おはよう。』

明らかに只者ではない屈強な大男だ。

怪しい人ではなく、この学園の卒業生で元傭兵なんだけどね。

代理戦争Proxy warで勝利した国は、条約や輸出入を有利に行える事から、傭兵の役割は世界的にも大きい。

その事から、傭兵予備軍であっても有望な学生はスカウトがあったり、酷い場合には暗殺なんて事もありうる。

だから、国の宝である傭兵予備軍に対しては、過剰な程の警備が付く事も珍しくはない。

そう言った訳で、学園は宝の山なので、校門をデカいオッサンが守っていてもおかしくはないと言う事なのです。



「おはよう。」

二階の教室では、ほぼ全部の席は埋まっていた。


『今日もギリだね。』

僕の席前の女の子が振り向いて話しかけてくる。


「早く来ても、する事ないし。

間に合えばいいでしょ。」

そう言いながら、席に着く。

ほぼ毎日、同じ事を言ってる気がする。


授業は、語学や数学と言った普通の物から、兵器、格闘術と言ったココだけのモノ闘い方まである。

傭兵に必要不可欠なスキルって事。

戦うだけでは勝てないから、実地訓練だけではなく、座学も多い。



『おいっ、朝から騒ぎ起こしたらしいじゃねぇかよ。』

横から、オジサンに話し掛けられる。


「騒ぎは起こした訳じゃなく、鎮圧したんだよ。」


『バイク通学にしたらいいだろ?しょっちゅうじゃねぇか?民間人は面倒じゃねぇかよ。』

隣のオジサンは悪い人ではないけど、ちょっと口が悪い。


「オッサンと違って、電車に乗るとモテるからいいんだよ。」

思ってもない事を適当に言っただけだけど、前の席から冷たい視線が向かってきてる。

それすらもスルーだけどね。


年齢も性別もバラバラの教室へ傷だらけで、むさ苦しいオッサンが入ってきた。

このオッサンが教師とは。。。

しかも教えるのは数学。

見た目では格闘術の一択でしょ?

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