第11話 初依頼

 レスターから話を聞き、しばらく考え込んでいたクレア。

 色々な可能性は考慮できたが、この情報だけでは、実際行ってみない事には、何も分からないだろう。

 しかもあまり悠長な事を、言っていられない状況かもしれない。

 だがここで、クレアが勝手に受ける訳にもいかないと判断し、先程の受付の青年へと話を通す。


「彼から話は聞いたよ。彼の村が、大変な事になっている可能性は高い。護衛どうこうの話でもなくなりそうだから、私が直接ギルドマスターに話をしたいのだが、いいか?」

「は…はい!むしろ、よろしいんですか?お手間を取らせてしまって。」

「ああ。君も事情を聞いていると思うが、あまり悠長な事を言っていられそうにもないのでな。先程一度呼び出されているし、部屋にいるのは知ってるから、このまま、直接ギルマスの部屋に行く。」

「は、はい!かしこまりました!よろしくお願いします!」


 信頼があり、ハドリーとも親しいクレアだから、職員もあっさりギルマスの部屋へ行くのを許可し、直接話せるが、通常ならば、もう少し時間がかかっていただろう。

 曲がりなりにも、このギルドのトップなのだから。


 一度レスターの元へと戻り、レスターに待つよう伝える。

 ギルマスに直接伝えると言った時、頭を下げ、丁寧にお願いしてきた。

 それだけ彼も心底不安であり、心配なのだろう。

 そしてシリルにだけ、付いて来るよう言い、二人で再びギルマスの部屋へと戻る。

 再び扉を叩き、名を名乗ると、一瞬間があり、そして改めてどうぞと声が聞こえてきた。

 部屋に入ると、グラントとハドリーが何やら相談していたようだった。


「おはよう!嬢ちゃん、シリル。」

「グラント殿。おはようございます。」

「あ、グラントおはよう!」

「お早いお戻りで。依頼が気に食わなかったんですか?」

「い……いえ、違いますよ。」

(あながち、間違ってはいないですが……。)


 しばらくシリルが虫が嫌だと言って、依頼が決まらなかったのは内緒にするクレア。


「実は少々面倒な事が、起きていまして。」

「どういう事です?」


 そしてクレアは、先程起きた流れと、レスターから聞いた内容をそのまま伝える。

 ハドリーとグラントもまた、しばらく考え込んでいる様だった。


「被害報告されたよりも魔獣が隠れていて、魔獣を打ち漏らしてしまったか……あるいは、別の魔獣か……と考えるのが普通ですかね。速達鳥が途中で食べられた、という可能性も無い訳ではないですが、あまり聞きはしませんからね……。」

「ええ……。」

「本当に打ち漏らしなら、前回行った奴らはおしおきだな。」

「まあまあ。依頼はちゃんと達成しているのですから。」


 少し険しくなったグラントを、宥めるハドリー。


「さて、依頼とは別に、早急に調べる必要がありそうですね。ですが――」

「人手不足と…。」

「ええ。職員が言った事は、事実ですからね。今、ある程度の実力持ちは、出払っていますから。グラントも出す訳には、行かないですし。」

「すまんな嬢ちゃん。」

「いえ……。それならば、私が行きます!」

「ダメです。あなた、そう言って赤き猛獣を倒しに行き、何があったかもう忘れたわけじゃありませんよね?」

「分かっていますが、しかしっ……!」

「あなたがお人好しで、人の心配をするのは分かっていますが、やはり反省は必要です。仲間が守ってくれた命じゃありませんか。」

「…………はい。」


 そこで暗い顔をし、下を向き、何も言えなくなってしまうクレア。


「行かせてやればいいじゃねえかよ?」


 そう言ったのはグラントだった。


「グラント……余計な事は、言わないでください。」

「まあまあ。確かに嬢ちゃん一人だっていうなら、俺は絶対に反対だ。だが、シリルもいるんだろ?戦力としては、十分じゃねえか?」

「あのですね。シリルさんは、ランクGなんです。実力は確かにありますが、目立たないようにするために――」

「もう遅いって。フィンはパンチ一発であの怪我、さらにクレアの師匠ってのも広まった。まあそっちは、どちらかというと勝手に俺が広めたがな。」

「いえ、実は私も慌てていて、ついぽろっと恩人や師匠というのは、フィンとオリビアに言ってしまっていて………。」


 呆れるハドリー。

 クレアは素直で良い子だと思っていたが、ここまで隠し通すのが下手くそかと思っていた。

 溜息をつき、ここ二日で何度目の溜息かと考えてしまう。


「……その件については、むしろグラントは上手く動いてくれたと思っていますから、感謝しています。クレアは軽率でしたが、まあ結果グラントの言った事で、真実味が増したのでいいでしょう。」

「それにランクの件だって、どうせ他ギルドに名前が売れないためだけだろ?ここのギルドにいるなら、クレアといる時点で目立つからな。」


 グラントの言っていた事は、正しかった。

 ハドリーは、グラントに師匠という事は、言わなくても良かった。

 だが、シリルの実力と性格を判断すれば、必ずいつか目立つ。

 それならば、実力が露見した時に、師匠だから詳しくは言えない、としてしまえば、隠すのが下手なクレアでも、何も言えないよりはマシかと思っていた。

 まさか一日でシリルは問題を起こし、クレアは口を滑らしているなんて、微塵も考えていなかったが。


「いいじゃねえかよ。極秘任務って事にして、口外禁止。俺らの間だけってことでな。」

「ランクGに極秘任務を頼むギルマスが、どこにいますか……。」

「まあ元々、シリルは規格外なんだし、いいんじゃねえか?」

「それに極秘任務にしても、クレアは隠せませんよ………。」

「……すみません。」


 しばらく頭を悩ませるハドリー。

 彼としても、この村の問題は放置できない。

 村の者などどうでもいいと思える程非道でもなければ、もし魔獣の巣窟になってしまった場合、これ以上の被害が出る可能性も考えている。

 しかし、本当にこの二人に任せていいのだろうかと悩む。

 シリルは強いが、やはり子供。クレアは、仲間を失ったばかり。

 グラントに行ってもらえれば話は早いのだが、彼には別件を依頼していた。


「シリルも調査行きたいか?」

「何をするのか分かんないけど、町中で虫退治より全然いい!」

「なんだお前。虫苦手なのか?」

「うん。気持ち悪い。」

「はっはっは!そんな強いのにか。冒険者は選り好みなんて、しちゃダメだぞ!」

「倒さなきゃいけない時は倒すけど、出来れば見たくもない……。」

「そうかそうか。ほらこう言ってんだ。な?」

「な?じゃないですよ……全く関係ないじゃないですか……。」


 深くため息をつくハドリー。

 だがアルマもいる事を考えれば、調査に関してもかなり有用ではと思い直した。


「では、分かりました。かなり異例ではありますが、お二人に今回の調査の依頼をします。」

「はい!」

「分かった!」

「パーティがランクGですからね、一応書類上は、クレア個人に依頼したという方が、自然でしょう。」

「なるほど。シリルは、この依頼には関係ないと。」

「ええ。あくまで書類上は、ですがね。なので、依頼を受けたクレアは、任務中、全責任を負う覚悟をしていただきたい。シリルさんに何かあっても、ギルドは書類上関与していない事になりますから。」

「……はい。」


 覚悟を決め、強い眼差しで返事をするクレア。


「まあとは言っても、何かあればグラントや、私が動きはしますが、そう簡単に動ける立場ではありません。なので、クレア。必ず帰って来てください。無茶は禁物です。何があっても三日以内に戻ってきてください。」

「はい!」

「あと、仮に魔獣がいても極力手を出さず、すぐさま離脱。今回はあくまで調査です。例え村の者を見捨てる事になったとしても、これは守ってください。」

「………村人を見捨てても……ですか。」

「おいおい。それはひでえんじゃねえか?」

「何が起きてるか分からないのです。今回の魔獣達の氾濫も、原因はまだ突き止めていません。その真っ只中、何が起きているか不明な村に行くのです。当然です。これが飲めないようなら、依頼は出来ません。」

「…………分かりました。」


 クレアは、悔しそうに拳を握る。

 自分にもっと、それこそシリル殿くらいの実力があれば、全く問題はなかったのにと悔しがっていた。


「それでは、書類はこちらで用意します。グラント、下に行って、村の人と職員に簡単に説明をお願いできますか?」

「ああ。それぐらい構わん。」

「では、よろしくお願いします。」

「分かった。」

「クレア、くれぐれもお気をつけて。」

「はい!」


 そしてハドリーは立ち上がり、シリルの前へと膝を付き、目線を合わせる。


「シリルさんもお気をつけて。クレアの指示に従ってくださいね。」

「んー、なるべく頑張る。」

「……お願いしますよ。」


 そして小声で、アルマにくれぐれもよろしくお願いします。と伝えるハドリー。

 どちらかというと、アルマに言いたかったのだろう。

 アルマは小さな声で、ああと言った。



 そうしてギルドマスターの部屋を後にし、グラントと共に1階へと戻る。

 受付は相変わらず忙しそうだったが、グラントが降りてくると、何人かが、グラントに挨拶をしに来ていた。


「わかったわかった!とりあえず今ちょっと忙しいから、すまんな!お前ら気を付けろよ!」


 そう言われ、はい!と言い、皆戻っていった。

 そして先程の職員をクレアに聞き、話を通しに行った。

 グラントは軽く説明しただけだが、分かりました!と言いすぐに承諾する青年。

 グラントの信用度の高さによるものだろう。

 そして次に例の村人、レスターの元へと行く。

 クレアには離れた席で待っていろと言い、グラント一人で向かう。


「兄さんがレスターっていうロキシ村の人かい?」

「あ……ああ。そうだ。」

「そうか。俺はグラントという。ここで、ランクCの冒険者をやらせて貰っている。あとはまあ、冒険者のまとめ役なんかもな。よろしく。」

「ランクC?え…ああ。よろしく……お願いします。」


 クレアの時とは違い、グラントの威圧感からか、大分委縮しているレスター。


「そんなかしこまらんくていい。話は、嬢ちゃんから聞いた。それで、調査する事になった。まあ、あんたは同行できないが、それは承諾して欲しい。」

「………どういう事だ?だって人が足りないから数日かかるって、職員も言ってたじゃねえか?あれは嘘だったのか?」

「いやそれは本当だ。事実、すぐに調査すること事態が、こちらもかなり無理をしている。」

「…………そうなのか。疑ってすまん。」

「お、もっと噛みついてくるかと思ったが、意外に素直だな。」


 下を向き、膝に置いていた拳をぐっと握るレスター。


「……とにかく、村が心配なんだ。それに、さっき言われたしな。憎まれ口を叩くなって。」

「素直に反省するのは、良い事だな。まあ、そういう事だから、行く事は叶わんが、村の事はこちらで調査はする。今日出発して、3日後には何かしら分かるだろう。」

「………その、調査はあんたが行くのか?」

「いや違う。俺が行ければ、早いんだがな。立場上色々ある。まあ、実力がある奴に行かせるから問題ない。こちらとしても、冒険者を無駄に死なせる訳にはいかないからな。ただ本来は、調査の依頼は受けれない者でな、緊急だからと、お願いしたんだ。」

「そ……そうか。すまん。無理言って。」

「いや構わん。こちらとしても、放置は出来ないからな。それに礼を言うなら、あそこに座ってる嬢ちゃんに言いな。嬢ちゃんがいなかったら、結果は変わらなくとも、ここまで話が早く進まなかったろう。」


 そう言って、座っているクレアを親指で、指差すグラント。

 クレアとシリルは何か会話をしているようだったが、こちらまでは聞こえなかった。


「そうか……。分かった……。」

「こちらからの話は以上だ。そっちから何かあるか?」

「……本当に依頼料を払わなくていいのか?」

「ああ。近隣の村の危機は、放置すればこの町の危機でもあるからな。調査するのは当然だ。」

「……ありがとう!」


 レスターは立ち上がり、頭をテーブルに叩きつけるのか、という勢いでお辞儀をした。

 気にするな。と言い、グラントも立ち上がる。


「それじゃあ俺は、戻るからな。あの嬢ちゃん達にも、ちゃんと礼を言っておいてくれ。」

「もちろんだ!」


 そうして、先に席を離れ、クレア達が座っている所に来て、小声で絶対に死ぬなよと言いながらクレアの頭を軽く叩き、上へと上がっていくグラント。

 はいと返答し、その姿を見送ると、レスターがやって来た。


「クレアさんとシリルさんだっけか……。最初は馬鹿にして申し訳なかった!話を聞いてくれて、ここまでしてくれて、本当にありがとうございました!」

「気にしなくていい。当たり前の事をしただけだ。」

「いえ!二人のおかげで、こんな話が早く進んだんだ!本当にありがとう!このお礼は必ず!」

「気にしなくていいって!それにまだ調査も始まってないんだ。そういうのはせめて、調査が終わった後だ。」

「俺はなんもしてないけどねー。」

「いやそれでも、話が進んだのはお二方のおかげなんだ!本当にありがとう!必ずお礼を!」

「いいって!」

「いやでも――」


 終わらなさそうだったので、じゃあいつかな。と言って、しょうがないといった感じで笑ったクレア。

 レスターはその笑顔を見て、顔を赤らめるが、首を振って、再び最後にありがとうございました!と深々と頭を下げ、立ち去って行った。

 それを見送ると今度は、オリビアが来た。


「忙しくて見れてなかったけど、なんかあったのー?」

「まあ色々とな。そうだ。シリル殿の宿の件だが、三日程依頼のため、出て来る。なので、三日後にまた受付しようと思うんだが。」

「あら。そうなの?シリル君と会えなくなるなんて、お姉さん寂しい!」


 そう言いながら、シリルを抱っこするオリビア。


「俺は寂しくないけど。」

「冷たーい!三日も会えなくなるのよ?」

「シリル殿、相手にしなくていい。」


 そう言われ、ちぇーっと言いつつ離すオリビア。

 そして、それを見ていたクレアが、突然思い出す。


「あ!そういえばシリル殿の魔石を、売るのを忘れていたな。」

「あ、そうだ!」

「シリル君魔石持ってるの!?すごい!いくつ?」

「6個くらいかな!」


 そう言うと、腰にある雑嚢からはいと手渡す。

 大きめの魔石が6つ手渡された。


「シリル君、よくこのサイズ、その腰の鞄に入ってたわね……。」

「うん。無理矢理入れてた。だから、形なんか変わってたんだ。」

「てっきりただの袋かと思ったら、綺麗に四角かったんだねそれ……。」

「うん。」


 そしてちょっと待ってて、と言いオリビアは一度裏へと入る。

 クレアと話しながら待っていると、裏からうそー!?えー!?などの、驚きの声が聞こえた。

 しばらくして、パンパンに膨れた袋を持ってきたオリビア。


「はい。シリル君これ。大切にね!」

「ありがとう!わあ!金貨もたくさん入ってる!」

「クレア……先に言って、欲しかったわ……。あれ全部、高魔力の魔石じゃない……。しかも多分全部Dクラスよ……。」

「あ……ああ。すまん。私も把握してなかったんだ……。」

「本当にシリル君って何者よ……。」


 そう言い、呆れながらお金を抱え喜ぶシリルを見る二人。


「ま、いいわ!これでも一流職員ですからね!気にしません!」


 そう言い胸を張る、オリビア。

 それを聞き助かると礼を言った、クレア。


「さてとそれじゃ、本当に気を付けてね。依頼とはいえ、ランクE以上の人達も、外に出て予定通り戻れてない人も出てるから……。」

「分かってる。気を付ける。」

「シリル君もね。」

「大丈夫!」

「そっか。」


 そうしてオリビアに見送られ、ギルドを後にする二人。



 今回は向かうのに1日、調査に1日、戻るのに1日という計算でいる為、色々と必要な物を買う事に。

 治療薬や、魔力回復薬、携行食に、野営するための道具等、前回の赤き猛獣との戦いで大半を失ってしまっていたため、それらを用意する必要があった。

 あとは、アルマの使役魔獣の証も購入しなければならない。


 出費は嵩むが、報酬がその分上乗せされるとの事だったので、とりあえず気にせず買う。

 そして最近巷で噂の圧縮袋も購入した。

 この圧縮袋は、口に物を当てると、自動で吸い込み、圧縮して小さくしてくれる、とても便利な品だ。

 だが、高額であり、更に固形物のみで、液体は不可。

 なので取り出す時に、血の通う手すら入れられず、いちいち逆さまにして出さないといけない不便さはあった。

 魔法陣のせいでそうなっているらしいが、製作段階で人間が吸い込まれ、死んだ状態で出てきた所為だ、と巷では噂になっていた。

 真実かどうかは不明である。


 そして買い物を終え、武器屋に再び行く。

 ここで使役魔獣の証を作って貰う。

 基本的に魔法で縛っているので、大して難しい事はなく、登録者の名前と種族、そして魔獣の種類のみ書かれた物を、首輪なり、腕輪なり、その魔獣がはめられる物に付けるだけだった。

 一応強制ではないが、これを付けていないと、町中では大騒ぎになる場合が多い。

 ただ、一つ問題があった。

 二人はすっかり忘れていたのだが……。


「すみませんお客様。こちらの、魔獣の種類はなんでしょうか……。見た事がないもので、その資料にも載っていなくて……大変すみません……。」


 アルマが影から出てきたときに、店員は驚いていた。

 影の中に入れる魔獣は確かにいるが、目の前に出てきたのは、見た事もない魔獣だったからだ。


「アルマだよ!」

「アルマ…ですか……聞いたことのない種類ですね……。すみません……。」


 本当は種類ではないが……と思ったが、面倒だったので、そのまま作って貰う事にするクレア。

 そうして、首を傾げつつも分かりましたと言い、何に付けますか?と聞かれる。

 最初は首輪はどうかと言っていたが、シリルがどうしても、首輪や腕輪などはやだ。と言っていたのだ。

 結局色々悩んだ末、耳に付けるリングにする事に。

 付ける際、皮膚を貫通させて、しっかりと付けるので痛いらしいが、アルマはしれっと付けていた。

 そしてこれで、堂々とアルマも町中を歩けるようになった。


「アルマ痛くない?」

「大丈夫だ。付けてすぐは、違和感があったが、もう平気だな。」

「そっか!かっこいいよ!」

「ありがとう。」

「しかしアルマ殿は、目立つな……。」


 行き交う人々が、アルマを見ていた。

 ある者は見た事ない魔獣だと、ある者はその綺麗な容姿に魅了され。

 ただ当の本人とその主は、全く気にしていなかったが。

 

 旅立つ前の最後に、お金を預けに行く。

 シリルも別で預けるかどうするか、クレアは悩んだ。

 ギルドカードがあるとはいえ、まだランクGの子供なのだ。

 預ける際に、金額も金額なので、色々と疑われるだろうと考えた。

 何より、完全に一人になるのが不安だったのもある。

 信用してくれるなら私に預けて欲しいというと、あっさり渡してきた。

 シリルはあまりお金に、頓着がないようだった。



 お金を無事預け、荷物の整理も終わり、門へと向かう一行。

 違う門から出れば多少早いのだが、そこまで大幅に変わらないのと、ガストンに話をするため、そちらへと向かう。

 立っていた門番に話しかける。


「すまない。ガストンはいるか?」

「ガストンさんですか?……お知り合いでしょうか?」


 どうやら、クレアを知らない門番だったようだ。

 仮面をしているシリルを、怪しんでいる様子だった。


「ああ。知り合いだ。クレアと言ってくれれば、分かるだろう。」

「……分かりました。」


 そう言った彼は、近くにいた者を呼び、小声でクレア達を監視しとくように伝え、門の間の扉に入っていった。

 監視している門番は、ずっとシリルやアルマを、怪訝そうにじろじろ見ていた。

 しばらくして、ようやくガストンが来た。


「よう!お二人さん!付いてきな!」


 すぐさま扉の中に案内され、前回と同じ部屋へと通される。

 部屋へ向かう途中、なんだその犬は!?とアルマに驚いていたが、クレアが、彼の使役魔獣ですと説明すると、そうか。凄いな!とそれだけで済ましてくれた。


「さて元気だったか?クレアに……シリル!」

「ああ。」

「うん元気だよ!ガストン!」

「おお、覚えていたか!」

「ううん。クレアがさっき言ってた。」

「そうか…。」


 少ししゅんとするガストン。


「それで、シリルの件なのだが……。」

「おお、そうだそうだ!んで。どうなった?」

「ああ。冒険者登録をして、出身地もここという事になった。」

「ほお!あのハドリーが冒険者登録を認めたか!ってことは、強いのか?」

「ああ。かなりな。」

「そうかそうか!分かった。俺が何か手伝う事はあるか?」

「いや大丈夫だ。それより昨日は、本当に世話になった。」


 深々と頭を下げるクレアを見て、マネするシリル。


「まあ気にすんな!とりあえずギルドカードがあるなら、出入り出来るし、問題ねえな。良かったな。」

「ああ。本当に。ガストンのおかげだ。」

「いいって!あ、そうだ。シリルに言っておくぞ。町中じゃまだいいが、門を通る時は仮面を外すか、ずらすかして、顔を見せる様にしとけ。怪しまれるからな。」

「うん。分かった!」


 よし!と言って、シリルの頭を撫でるガストン。

 彼は特に振り払う様子もなく、されるがままだ。


「それで、お前たちは依頼か?」

「ああ。三日程出てくる。」

「三日もか………。大丈夫なんだろうな?ハドリーにも言ったか?」

「大丈夫だ。ハドリーから頼まれている事だ。」


 彼はその真っ直ぐな目を見て、嘘も誤魔化しもないだろうと判断した。

 何よりハドリーが許可を出したのなら、俺が言う事でもあるまいと思った。


「分かった。二人共絶対待ってるからな。帰りもこの門から、必ず、帰って来い。そして、俺に必ず声をかけろよ。」

「ああ。分かった。」

「分かった!」


 そうして話が終わり、ガストンの案内の下、今度は町とは逆の外へと向かう。

 まるで、何日ぶりかのように感じるクレア。

 たった一日で、色々な事が起こったのだ。

 起こり過ぎていて、もう何日かいた気がしていた。

 シリルは外ー!と喜んでいたが。

 クレア達は、ガストンに振り返る。


「それじゃあ、ガストン。行ってきます。」

「いってきまーす!」

「ああ。必ず帰って来いよ!」


 そうして、二人と一匹は町を後にした。

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