2章 6

 大通りを進んで進んで大きな交差点を曲がって、少し進んだ所で一行は休憩を兼ねて足を止めていた。

 男性連中は交差点に人が運べる程度の瓦礫を積み重ねて、奴らの進行を曲げさせないようにしていたが、実際に作業をしている誰もが無駄だろうと、そう思っていた。だが可能性がほんのちょっとでもあるのならばと手を動かす。


 休憩を終えて再び歩き出すが、この頃には誰もが無言でただひたすら歩き続けていた。今日たどり着く目的地は決まっていない。行けるところまでただひたすら歩き続けるのみ。ゴールのないマラソンでは安息の希望も見えてこない。やがて無言が続く中、弱音が漏れ始めた。最初は疲れたや足が痛いなど。それが続いていってまだ歩くのかといったいらつきも。リーダー格の男性の耳にもそれらの言葉は届いている。だから彼自身歩く速度を早めて多少先行し、ひとつの建物の中に入っていく。

 遅れて進む集団がその建物の辺りまで到達した頃、中から出てきて

「この建物ならしっかりしている。今日はここで夜を明かそう」

 すると全員から安堵の声が漏れる。ただ一人を除いては。

「もうちょっと進んだほうがいいんじゃないですか?」

 一人だけそう提言したのは水無月だった。

 リーダー格の男性のもとまで進んで

「ここじゃ奴らの進行方向と近すぎます。

 もうちょっと離れたほうがいいんじゃないですか」

 しかし男性は首を振る。

「いや、これ以上歩くのは危険だ。夜も近いしなにより皆の士気が落ちている。ここからさらに無理に歩かせてしまったら明日に響く。

 それにそうは言っても結構離れたんじゃないか?

 これだけ距離が空いていれば大丈夫だろう」

「……はい」

 それ以上はなにも言えなかった。きびすを返して秋山のところまで戻る。


「急にどうしたんだい?」

 話の内容までは聞こえてこなかったが、真剣な顔をして向かっていって消沈した顔で戻ってきたのは分かった。

「……なんでもないです」

 明らかにそうは思えなかったが、それ以上問い詰めることも出来なかった。

 水無月も、またなにも出来なかった。


 事態は深刻化していた。

 まだ日が昇るには遠い深夜の時間帯。しかし寝ていたはずの全員が起き上がって息を殺してすぎるのを待った。

 自らの死期がすぎるのを。


 暗闇の中で、それでもなんとか慣れてうっすらと見える視界の中で、男性連中が指の向きと形で合図しながら散開する。

 目視できただけでも10を超える奴らに建物は取り囲まれていた。今のところ幸いなのが奴らが囲むことを無事を目的としていたわけではなく、通り道にこの建物があっただけということ。不幸なのはそれが移動する奴らの一部でしか無いということ。

 進路を変えたのかもとより横に広がっていたのかはわからない。それはこの際重要ではない。今ここで必要なのはどうにかしてここから逃げ出すこと。このまま奴らが通りすぎるのを待つことも手段の一つだが、紙一重で死神がカマを振り上げている状況に、子供だけでなく男性たちも紙一重の精神状態。


 リーダー格の男性の提案で一点集中でここを脱出することを決めた。秘策はある。彼を含む数名が持っている、大量の光を発するスタングレネードだ。

 奴らは直接光を当てられることを何よりも拒絶する。スタングレネードを投げつけることによって死地を脱出する道を作る。


 仲間同士最終確認をして、他のみんなとも確認して、リーダー格の男性が飛び出すと同時にスタングレネードを――

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