第25話

「ヨハン・フォン・クロイス少将閣下」


各級司令部や海空軍の圧力もありロクソニア旅団とイェーガー戦闘団の兵員はそれぞれ昇進した。20万を超える大量の捕虜に反戦運動を抑えきれなくなった合州国は大きな戦果を求める様になる。


「ルーデンドルフ元帥閣下。」


お互い目を合わせ、野戦服に身を包み参謀本部から送られてきた中佐の軍使を見下ろし嗤う。


「今更かね中佐。参謀本部は皇帝陛下が願われた立憲君主制を愚弄し悪用する凡愚の集まりかと思っていたのだが。我らに最早帝国を救う術はないぞ?」


「全くのその通りだ。ルーデンドルフ閣下。西方総軍を東方にピストン輸送しても最早間に合わん。親衛軍は抑えきれん。」


「…ですが、参謀本部総長閣下よりルーデンドルフ閣下より御助言を頂けるようにと。」


「答えだ。現在の防衛線を捨てさらに後退せよ。後は我々で肩をつける。」


「マリア中佐、指揮下からクルーガー中尉の小隊を引き抜く。西方総軍の魔導部隊を引き抜き増強中隊をクルーガー中尉に任せるぞ。」


「ヴァルト少佐、貴様もだ。クロイス少将の指揮下に入れ。」


「はっ!」


西方総軍司令部隷下第108独立魔導猟兵大隊指揮官のクルト・ヴァルト魔導少佐を指揮下に入れロクソニア旅団にベルン連隊の代わりに配備する。


「ルーデンドルフ閣下、貴方にロクソニア旅団の指揮権をイェーガー戦闘団を拡充します。第150独立混成旅団"イェーガー"をもって戦線を単独突破する。」


装甲連隊2個、装甲擲弾兵連隊1個、魔導連隊2個の混成旅団。構成は完全に突破。


親衛軍の間隙を突き、トファチェフスキーの殺害のみを目的にモスコーを目指す。


「あぁ、貴官に武運を。」


のは嘘だ。


赤軍が理想とするのは物量に任せた、全縦深同時攻勢。

ならば我々は一点突破で殺そう。


「閣下、敵攻勢予想と限界攻勢点です。」


「ご苦労。」


「あの、元帥閣下。クロイス閣下は何をするつもりなのでしょうか?」


「敵地浸透と補給拠点の破壊。そして、第2梯団の粉砕だ。」


「可能な限りのサボタージュですか?」


「それもある。」


帝都の軍務省に隣接する参謀本部の建物。内部で執務するルーデンドルフ元帥とそれに質問する副官。


「…帝国は勝てるのでしょうか。」


「…中佐、生き残れば我々の勝ちだ。帝国さえ残れば。」


「元帥閣下、失礼致します!」


「何事だ!」


「我らがクロイス閣下より入電。花は開いた。繰り返す花は開いたであります!」


「東部戦線に送電!フランツラインまで再前進!」


「閣下!」


「やってくれるなヨハン!敵司令部破壊だ!」



「死に損ないは?」


「108名中、58名生存です。」


生き残りは俺が隷下に置いた1個大隊とその他のみ。生存者を問う俺にマリアが魔導部隊の残存兵員を回答する。


「…済まないな。」


「いえ、閣下の指揮下でなら彼らも本望でしょう。」


「ハイダー中佐。…そうか。下がる。他の部隊報告は?」


「装甲部隊損耗軽微。補給は敵軍より確保。連邦製兵器は乗り心地最悪と、降下猟兵大隊は人員損耗軽微なれど、武器払底著しく、連邦製短機関銃を多数確保したと、砲兵隊は多数の火砲・弾薬を鹵獲。閣下帰還後パーティを始めると。」


笑ってしまう。俺の部下は誰一人諦めてはいない。なら、俺も諦められない。


「…ったく、誰に似たんだか。参謀本部に送れ、花は開いた、繰り返す花は開いた。」


「了解です。」


「こちらL1特務戦隊。我が戦友諸君聞いて欲しい。これより敵首都を加速装置を用いて粉砕する。」


『イェーガー01。了解した。好き語れ。』


「感謝する。いえ、感謝します閣下。我らは死ぬ。決死の突撃となる。小隊諸君。帝国の命運を担うに相応しいと認められた事を誇り死ね。祖国への献身を。陛下に忠誠を。

閣下、家族へは。」


『…勿論だ。全員分の遺書は私が責任をもって届けよう。』


「…ありがとうございます。」


中央軍から派遣された我ら精鋭小隊。モスコー粉砕の為に決死の突撃を行う。


『ヨハン・フォン・クロイス少将閣下より訓示!』


クロイス少将閣下の副官が口を開く。


『偉大なる献身を感謝する。中尉誇れ、祖国は貴様らによって救われる。多くは語らん。ヴァルハラで会おう。それまで、暫しの別れだ。諸君らの功績は語り継ぐ。さらばだ。』


その言葉を最後に護衛に来ていた魔導反応が遠ざかる。


アフターバーナーが点火される。

最後が近づく。


『祖国へ敬礼。』


刹那、光が見えた。


「中尉、いや少佐ご苦労であった。」


眼下の爆裂。挺身攻撃。奴らの地下構造物ごと粉砕する用途で突き進んだ箒星はモスコーに着弾。イェーガー旅団の欺瞞行動に踊らされ、モスコー全面に魔道戦力や航空戦力を集中したことで、元々困難な迎撃は不可能となり、戦果詳細は不明だが、突如モスコーの一箇所へ通信量が増大した事を掴んだ。


「戦友諸君、わかっているな。対地襲撃隊形。我先導する。」


連隊分の魔導師が、通信量の増大地点つまり、トファチェフスキーが居たと思われる地下壕を奇襲する。


『了解!旅団長先導、第1大隊続け私が先導だ!』


マリア少佐の号令が響く。第2大隊、第3大隊が左右に展開し、僅かに残る魔導師を撃ち落とす。地下壕の入口を砲撃で吹き飛ばし、強引に入る。突撃銃を注意深く構えつつ、火災の中を駆け抜ける。


「クリア!」


「こちらもクリアだ。」


『確保!パッケージ確保、直ちに合流を望む。』


「良くやった!各位、合流だ。」


東部戦線フランツ防衛線

「フランツラインで本日も一進一退の攻防ね。」


「大尉殿?」


「いや、気にするな。」


重砲群の砲撃。つい先日、奪取されかけた陣地が敵の122mm榴弾砲により助けられた際には恭しく、連邦砲兵隊を2級従軍章を授与する旨が恭しく新聞に取り上げられた。


「第471連隊、第6中隊長!」


「はっ、私であります!」


部下の上等兵と会話していると、中佐の階級章つけた、魔導将校が接近してきた。


「そうか、大尉。貴官の中隊を下げる。とある収容所の管理を勤めてもらう。少佐への辞令と配属命令書だ。中隊と共に今すぐ後退し給え。」


訝しげながら敬礼にて答礼し、荷物をまとめる。

列車にて後方に輸送されると前線後方の森林の中に隠された収容所にたどり着く。


「きな臭い。」


「ご苦労だ、少佐。」


「ク、クロイス少将閣下!」


慌てて、大物の将官に敬礼する。すると、見事な答礼を返され、口を開く。


「少佐も、不審に思う点が幾つかあるだろう。所長室へ向かうぞ。」


暫く、口頭での説明が続き、終わる頃には少将閣下の副官が用意した珈琲も冷めきっていた。


「つまり、閣下の部隊が確保した連邦上層部が収容されていると?」


「ああ、更に次期指導部はベリアらしい。」


「鬼畜ですか。割れますね。」


「その通りだ。貴様の中隊を核に複数の部隊を配属し2個大隊規模の警備兵と2個中隊の魔道部隊を配置する。任せるぞ。」


「感謝します」


大任に顔が引き攣るし、どうしたら、連邦上層部を拉致できるのか。国際法的に問題ないのか、等疑問点は兎に角山積みだが、口は挟ませないと言う。

仕方あるまい。

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ロクソニア戦記 佐々木悠 @Itsuki515

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