後輩掌編集

大宮コウ

特別な夏の雪を君と

 後輩がかまくらに入りたいと駄々をこねてきた。もう夏であるのに。

 俺は雪を調達してかまくらを作る。欲張りな後輩はこたつとみかんも所望する。俺は言われるままに用意した。後輩は満足そうにかまくらに入り、こたつに潜ると、糸が切れたように意識を失う。

 それからというもの、街では雪が降るようになる。後輩はどうやら神様だったようで、こたつは祭壇で、みかんは捧げものだった。神様こと後輩は、天変地異もなんのそのと気持ちよさそうに眠り続ける。

 降雪は秋も冬も春も、そしてまた夏が来ても続く。やまない雪のせいで学校も休みだ。後輩を置いていけるわけもなく、俺は長い夏休みをかまくらの増築に費やす。後輩が起きたら驚かせようと張り切り、今では立派な一軒家になった。

 けれども彼女は一向に目覚めない。仕方なしにかまくらを崩し、みかんを回収し、こたつの電源を切れば、何もなかったみたいに彼女は目を覚ます。

 寝ぼけ眼の後輩は、雪合戦の夢を見ていたと話す。夏の日差しで雪はみるみる溶けるが、かまくらの残骸はまだ形を保っていた。俺は後輩に向かって残骸を投げる。彼女も真似して投げてくる。残り少ない夏の雪を二人で一緒に無駄にする。

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