3杯目

それは朝顔が凛と咲く朝。空気の冷たくて心地よい朝。彼が決心をした次の日の朝。

白枝はお腹が空いて朝のかなり早くに起きてしまった。不意にお腹がぐぅうううううとなる。健康そのものだ。

そう言えば今日の朝ごはんは人参と椎茸の炊き込みご飯らしい。あとハマグリのお吸い物。ほうれん草のおひたし、、、、もちろんおかかつき。考えただけでもヨダレが出てきてしまう。だか、今のところご飯のたけるいい匂いはしない。昨日厨房を案内してもらって分かったことだが此処には炊飯器はなかった。朝ごはんのことを考えて廊下を歩いていると門の近くの縁側に雲雀殺がいた。錠がかかっていない所を見ると誰かが帰ってくるのではないだろうか。また脱出が難しくなる・・・・・・。

彼女は静かにそこに佇んでいた。まるでその空間だけ時が止まっているのではないかと思うほどの独特の雰囲気があった。虚空を見つめる彼女が何を考えているかはやはり分からない。

彼、白枝はただ彼女を見つめることしか出来なかった。此方に気づいていないのか一言も喋らない。雲雀殺にとって殺すということは呼吸と同じである。日常の動作の延長線上のことに過ぎない。一度殺すと決められたら二度と生きては帰れないだろう・・・


「・・・・・・・・・・・・可哀想だ。」

白枝にも聞こえない声で彼女は呟いた。それは何を嘆いているのか。知る由もない。



────此処なら

白枝は気づいてしまった。これから紫苑が朝ごはんを作るだろう。昨日同様2人が炊飯当番なのではないか。ということはここには誰もいなくなる。幸運なことに鍵もかかってはいないときた。これはもう脱出するほかない。白枝の勝利だ。あとはどうやって白枝が炊事に呼ばれないか、ということだ。手が少ないから手伝ってくれといわれる確率は高いだろう。



「おはようございます。雲雀殺さん、何をしているんですか?」


「ああ、遠征から帰ってくる人を待っているんだよ。」



やはり誰かが帰ってくるらしい。



「なんで待っているんですか?

あ、そう言えば今日のご飯は炊き込みご飯だそうですね。僕、大好物なんです。雲雀殺さんが作られるんですか?」


「いや、紫苑が。一応・・・待ってる的な。」


「えー、雲雀殺さんの料理美味しいから食べられなくて残念です。」


「いや、そんなもっと上手い人いると思うし・・・でもありがとう。まあ、今日は此処で待たないと。」


いや、それが困るんだって!どうか厨房に行ってくれ!!


「あの、昨日の雲雀殺さんの作ってくれた杏仁豆腐、美味しかったです。また食べたいなーなんて。レシピとか教えてくれませんか?ずっと杏仁豆腐に興味があって。」


紙は此処にはない。故に雲雀殺は移動しなければならない。我ながらいい案だ。


「市販の粉入れただけだけど。」


白枝の表情は一気にかたまった。というかこんな和風な雰囲気なのに市販とかいうことばが出てくるなんて思いもしなかった。くそぅ



「君さ、さっきから・・・」


(しまった。やりすぎたか・・・!?)


つぅっと背中と頬に冷汗が伝わるのが感じられた。一気に体中の熱が無くなっていくようだ。心臓がバクバクと苦しくなって呼吸さえも上手く出来ないと錯覚してしまう。白枝の意図はバレてしまったかもしれない。



「なんか踏んでるけど・・・?」


「うぇっ!?うおおおおぉなんだこれ!!!!!」


靴下越しにむにゅっとした謎の感覚。恐る恐る足を上げてみるとそこにはキーホルダーサイズの小さい古びた人形があった。白枝はその小さな人形を拾い上げた。茶色のけいとの髪を二つ結びにした女の子の人形でほつれかけている赤い糸が雑な曲線を描き、笑顔をつくっていた。くるみボタンの様なものでつけられている目は虚ろでしかもとれかかっているときた。気持ち悪いったらありゃしない。



「・・・・・・いつの間に。」



さっきまでなかったような気もする。



「雲雀殺さんこれどうした「ただい「帰還し「帰ったぞ!」」」・・・・・・・・・。」


「おかえりなさい。」


(いや、いや、揃えないのか・・・?)



3人の男が門を開けて帰ってきた。この人達が遠征に行っていたようだ。1人は白いコートをきた灰がかった黒髪・長髪の眠そうな人。目を閉じている。赤い紐で髪を括っている。


(よく歩けるな、この人。目を瞑っていて支障はないのだろうか?そういえばこの人もかなり眠そうだが雲雀殺さんもいつも眠そうだ。ここは残業が凄いのかな?)


もう1人は白髪の短髪。優しそうな顔をしてさっきからずっとニコニコしている。

そして3人目はさっきから怒っているのだろうか、少しムスッとしている黒髪の青年。他の2人に比べて筋肉があるのだろう。ガタイが良い。黒髪が口を開く。


「おい、お前は誰だ?」


「嗚呼、彼は白枝君。確か2日前に此処に来た子だよ。道で倒れてて、運んできた。」


「あ、そうです。白枝 海斗 と言います。よろしくお願いします。」


(雲雀殺さんが僕を運んできたのか・・・。)


「ああ、よろしく頼む。俺は碧泉《アイゼン》だ。」


「海斗くん、それ何持ってるの?」



白髪の少年が白枝が手に持っているものを指さして尋ねてくる。さっき拾った人形だ。これは白枝にもなんだか分からないが、、、、いや、、、、、。



(雲雀殺さんの罠か・・・・・・、呪いの類か・・・?)



こんなに禍々しくみえる。きっとそうだ、そうに違いない。さっき彼女が足元のことをいってきたのもこれを触らせるためか。昔、本で触らせることで発動する系の呪いがあるということを読んだことがある。この門だけを出ようとすることだけで手一杯で気づけなかった。そういえば彼女は人の心を読み、行動を操るのにたけていた。なんということを忘れていたのだろう。彼女は白枝が脱出を試みることさえも分かっていたはずた。だから、、、、。


(いや、まだ策はある。)








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