Vampire night(11)

「単刀直入に言うと、魅夜ちゃんはオレの子供じゃない。知り合いの吸血鬼から預かった子供なんだよな〜」


「はぁああああああ?!お前の子供じゃないのかよ!23番目の妻が〜とか言ってたろうが?!」


 ツッコミを入れるが何食わぬ顔で話を続ける。ぐぬぬ......


「人と吸血鬼のハーフ。さながらハーフヴァンパイアといったところか。


 吸血鬼の特性を引き継ぎつつ、殆どの弱点に対する耐性を獲得している。


 だが、強烈な吸血衝動だけはどうにもならない。あとはそれに付随した味覚だな。血以外は砂を噛んだような味しかしないらしい」


 僕の作ったクソまずい料理を食べて美味しいと言っていたのはそういうことか。そもそも味がわからないのだ。


「吸血衝動はヤバいクスリの依存効果と比較にならないレベルで強烈なんだ。


 1週間血を飲めなくて気が狂ったやつも出たくらいだからな。


 オレも対策はとっていたんだ。輸血用の血を用意してたんだが、何者かに邪魔されていたらしくてな、どうやら1ヶ月以上魅夜ちゃんは血を飲んでなかった。


 実質、絶食してたようなもんだ」


「そんな......でも、そんなことは一言も......」


 毎日顔を合わせていたのに何も気付かなかった。毎日味のしないものを食べて、毎日お腹は空っぽで。


 いや、体調を崩していた。そのときも変わらず笑顔を見せた。


 ––––––なんで何も言ってくれないんだよ。


 モヤモヤした気持ちで胸が重くなる。


「まあ、そこらへんのことは自分で聞け」


「......わかった。でも魅夜が狙われたこととどう関係するんだよ?」


「恐らく心臓だ。


 ハーフヴァンパイアの心臓はあらゆる魔術の触媒や金持ちの好事家の間で高値で取引されてる。


 輸血用の血を奪って、吸血衝動を抑えきれなくなった吸血鬼を炙り出すことを考えたんだろう。


 そして、刺客を放った。それがさっきの2人組だ」


 マジかよ。これって結構ヤバい話だな。普通に話してるけど、周りが聞いたら指差して笑えるレベルだ。僕も笑ってただろう、これまでだったら。


「じゃあ、あの姉妹は所謂、傭兵?みたいなもんなのか?」


「ま、そんなもんだ。どっかの金持ちに雇われてんだろう。ったく、相当なやり手だぞ、あいつら」


 そう言ってクソオヤジは頬杖をつく。


「って、それだったら早く魅夜を探さないとだろ?!今にもあの姉妹が魅夜を狙ってんだから!」


「それは今のところは問題ない。充分な牽制はしておいたからな」


「は?牽制?」


 ん。と自分を指差すクソオヤジ。


「あはははははは」


 冗談だろう。ただのハーレム野郎が何を言い出すかと思えば。もうちょっと上手い冗談を言ってほしいものだ。


「お前、笑うならもうちょっと上手く笑えや」


 しかし、あの楠姉妹はクソオヤジを確かに警戒していた。


「確か、旅商人と財貨の紋章エンブレムとかなんとか」


 それを確認してから、楠姉妹は引いていったのだ。


「ああこれな。一応、脅しには充分だったろう。あっちも慎重にならざるを得ない。でも、そう悠長なことも言ってられないだろうな。時間の問題だ」


 自身の紋章エンブレムを指差すと自慢げにしている。


「さて、そろそろ行くか。魅夜ちゃんも、もう帰ってきている頃だしな」


「は?!?!」


 帰ってきてる?あんなことがあったら僕だったらまず帰らないぞ。


 少なくとも涙を流した魅夜を見た僕からしたら帰ってきてるようには到底思えない。きっとまだ僕の知らないことがある。


「それじゃ、残りの話しは家に帰ってからすることにしよう」


「よいしょ」と掛け声と共に立ち上がると伝票を持ってさっさと行ってしまった。


 僕は何も知らなかった。きっと今も知らないことの方が多いんだろう。魅夜のことも、この世界のことも。


 渦巻く不安の種を抱えながら僕たちは家へと向かった。

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