Vampire night(10)

 着いてこいと言われるままに着いて行く。まるで見えない縄に縛られて引っ張られているようだ。


 無言の圧力。こんな男に感じたくはないが、独特の風格のようなものに僕は気圧されていたのだ。


「着いた。ここだ」


 クソオヤジの視線の先は商業ビルの地下。下り階段の前に看板で[メイド喫茶 めいどり〜む]と可愛らしい丸文字で書かれている。


「おいこら。これはなんの冗談だ?」


 事態は急を要するというのに、ふざけてる場合じゃないだろ!


 ギロリと睨み付けると、クソオヤジは真剣な顔を作る。


「.....ダメか?」


「ダメに決まってんだろ」


 そんな問答があったのにも関わらず、結局メイド喫茶に僕たちはいた。


 食事を注文してしばらくするとオムライスが運ばれてきた。


「ではでは!美味しくな〜れの魔法をかけちゃいましょう!さあ、ご一緒に!」


「イッェエエエエエエエイ!」


「......」


 白メイドがニコニコとそんなことを言ってのける。

 しかし、この中年ノリノリである。


 メイドが音頭をとる。


「手でハートを作って〜」


「「「おいしくな〜れ、おいしくな〜れ、萌え萌えキューン!」」」


「いっそ殺してくれ......」


 美味しくなる魔法をかけ終わるとメイドは去っていった。


 羞恥でこの場から逃げ出したくなるのを堪えつつ、美味そうにオムライスにパクつくクソオヤジを問い詰める。


「テメェ!いい加減にしろよ。魅夜は今頃どうなってるか......


 もしかしたらさっきのやつらがまた魅夜を襲うかもしれないんだ!こんなことしてる暇はねぇんだよ!」


 僕の言葉にため息をつくと、同時にスプーンを置く。


「あーあー、これだから童貞はやんなるぜ。お前、早漏が嫌われるとは言わないが、早すぎるのも問題だぜ?」


「てめっ!こんな人が多いところで......!」


 クソオヤジは僕の顔を見てヘラヘラ笑っている。


 イライラが募っていく。なんでこんなやつに着いてきてしまったのか。威圧感だのなんだのと恥ずかしいっ!


「もういい!僕は帰る!お前は一生メイドカフェに入り浸ってればいい!」


 帰ろうと立ち上がって出口に向かおうとすると、手首を掴まれる。


「まあまあ落ち着きなさいよ。今帰ったら後悔するぜ?」


「うるさいっ!」


 振り解こうとするが、手首を強く掴まれて振り解けない。というか痛い。


「座れ。魅夜ちゃんを助けたいのならな」


「......」


 無理矢理怒りを抑えて無言で席に着く。


「これから話すファンタジーな話しはフィクションでもなんでもない。


 だから、話を最後まで聞け。


 まあ、【エルフ】とももう会ってるんだ。そう呑み込めない話しじゃねぇだろ」


「んなっ?!」


 このクソオヤジは知っていた。いやどこまで知っているんだ?


 驚く僕の表情を見て満足そうにケラケラと笑ったあとこう続けた。


「さて、それじゃあを始めよう」

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