第二十七話 パパはパパ

 ところ変わって。




 いや、変わらず。




「ねーねー? パパー? どうしても駄目ー?」

「い、いやいやいやいや!」


 モニターの向こう側で引きった笑みを浮かべたパパが必死に顔の前で手をぶんぶん!と振っている。


「ま、麻央!? そんな捨て猫拾って来ちゃったー的なおねだりされてもさ、パパ、即座に、うん、って言えないって!」


 隣で声を殺して苦笑しているのはルュカさんだ。


「だ、大体さ! 二代目アーク・ダイオーンを引き受けちゃったーって話だって、僕、今さっき聞いたところなんだよ!?」

「……あーあ」


 あたしは椅子の上でうつむき、足をぷらぷらさせた。


「やっぱり、パパはパパだったな……。君が決めたことをパパは応援するー、とか超恰好良いこと言ってたのにさ。あれ、嘘だったのかなー……?」

「う、嘘じゃない! 嘘じゃないってば!」


 痛いところを突かれ、パパは慌てに慌てた。


「ああ、もう! そういうところもママそっくりで僕はびっくりだ! 参った! 降参だ!」

「いえーい」


 若干棒読み気味に言い、モニターと、あたしの隣で身体を折るようにして悶絶しているルュカさんに向けて勝利のダブルピースをしてみせる。


「ぷっ……くくくくく……い、いや、これは失礼」

「おっと。君がルュカ君だね? このたびは麻央が随分とお世話になっていて済まない」

「いえいえ――」


 すっ、と一息吸うといつもの冷静沈着なルュカさんに戻る。

 こういうとこ、さすが名参謀。


「麻央様の御聡明さには頭が下がるばかりで。我々こそ日々学ばせていただいております」

「有能な技術者がいるんだって? 君を筆頭に?」

「……さあ? お目に叶うかどうか」

「謙遜するね。嫌いじゃないよ。アメリカこっちじゃ損するだろうけど。早速、紹介して欲しいな」




 あたしの思いつきとは。


 ルュカさん配下の情報処理班の皆さんに、パパの会社の仕事の一部を任せてみようと思ったのだ。こういうの、アウトソーシングとか言うんだっけ?


 何事にも控え目なルュカさんにはいつも笑って躱されてしまうけど、彼は相当頭が良い。部下の構成員の皆さんだって、以前のお宅訪問(?)で見聞きした限りではルュカさんには多少劣るかもしれないけど、皆知的で、聡明な人たちばかりだった。




 すぐにも招集された情報処理班の面々に対し、パパは一人ずつかなり時間をかけて質問していった。あたし自身、仕事モードのパパを間近で見るのは初めてだったので、新鮮で、正直ちょっとやるじゃん、って思いながら、ぼけーっ、と見とれていた。




 随分時間がかかったと思う。


 知りたいことを全て知り終えたパパは、一つ溜息をいてからゆっくりとこう切り出した。


「ええと。あのね、麻央、正直な意見を言うよ?」

「う、うん。どうぞ」


 そこでパパは子供みたいな無邪気な笑顔を見せた。


「凄い! 凄いよ、彼ら! こっちの技術者が三日かかるプログラムを一日で完成させるスキルレベルなんだ! これならこっちから頭を下げてお願いしたいくらいだよ! あ、麻央の推薦だからじゃないぜ? これはマジだ! 超クールだよ、クール!」

「お褒めに預かり光栄です、正義まさよし様」

「ルュカ君? その施設には、もちネット環境あるね? トロい奴じゃ駄目だぜ? 太い奴!」

「上りは10Gbps、下りは最大50Gbpsあります」

「ワォ! ザッツ・クール! クレイジーだぜ!」


 よほど興奮したのか、パパはまたもひっくり返りそうに仰け反りながら手を打ち鳴らし、奇声を上げている。


「じゃ、早速パーティーを始めようぜ! 君たちとなら、最高にメチャクールなセッションができそうだ!」


 叫ぶや否や、途端にリズミカルにキーボードを叩きつける音がこっちにまで響いてきた。




 うまくいった……のかな?




 そして、前言撤回。

 やっぱりパパはパパだ。


 ホント、子供みたい。

 呆れて笑っちゃう。



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