第十八話 知らなきゃいけない

「――というところが、僕の知っている全てだよ」




 パパの話を要約すると。




 この《悪の掟ヴィラン・ルールズ》に集う彼らは全て、現実の存在――つまり正真正銘の怪人たちらしい。言い換えると突然変異種ミュータントの人たちってことらしく、その見た目や言動・能力から差別的な扱いをされてきた人たちなんだって。


 それを見かねて彼らに居場所を作ってやろうとしたのが銀じいだ。


 そのままの姿で接しても良かったんだろうけど、昔からこのテの特撮ヒーロー番組に目がなかった銀じいは、悪乗りしてパパに悪の首領、そう《アーク・ダイオーン》と名乗るこのアバターとゴーグルと指輪、そしてあのタライさんを作らせたのだった。この地下施設は、タライさんの指示の下、怪人たち皆で構築したというから驚きである。ちなみに、ゴーグルはあくまで施設の機能のコントロールと制御のためのツールであって、アバターを生み出し、現実の物に見せかけているのは指輪の方らしい。


 ともあれそんな経緯で出来上がった《悪の掟》というこの組織は、その名が示すとおり、彼らに一定の決まりと規則を与え、使命と任務を――この世界に生まれ、生きている意味を与えた。




 つまり銀じいは、彼らにとって親同然。

 ……なんだけど。




「ねえパパ? あたし、どうしたらいいと思う?」

「うーん……」


 今世間で起きている、我らが《悪の掟》が引き起こしているであろう事件についてはもう説明済みだ。しかし、パパの返答はやけに歯切れが悪かった。


 ――すぐやめさせないと!

 てっきりそういうとばかり思ってたんだけどな。


 ああでもないこうでもない、と頭をひねひねり考えた末に、パパはあたしにこう言った。


「その前にさ、麻央は彼らのことについて、どのくらい知ってるのかな?」

「……それって、どういう意味?」

「えっと、言葉のとおりなんだけど」


 パパの言いたいことが分からず、少し、むっ、と顔をしかめるあたしを見つめるモニターの中の顔は、ふざけているどころか真剣そのものだった。


「まずは直接麻央自身の目で、彼らが一体どういう人たちなのかを知るべきなんじゃないかなって思ってさ」

「だって、怪人だよ? 悪の組織の構成員だよ?」

「それでも、だよ」


 パパはゆっくりと頷く。


「麻央は彼らの名前、全員言えるかい? 銀じいは言えた。誰一人欠けることも、間違えることもなかったよ。麻央はそれすら知らないんじゃないかな。ん?」

「そ、それは……そうだけどさ。でも……!」

「だったら、まずはそこからはじめないと。可哀想じゃないか。考えてもごらんよ。良く知りもしない人が勝手に麻央の悪口言ってたら……どう思う?」

「そ、そっか」


 確かにそれは嫌だ。

 酷いや、って思う。


「まずはそこからやってみるね」

「うん。それが良い」


 パパはにこにこと笑った。


「今起きてる事件だって、誰も怪我したり物をられたりなんてしてないんだろ? だったらあせらなくても良いと思うんだ。もっと良くないことが起こり始めたら、その時また改めて考えてみようよ。いいね?」

「了解!」

「あー。あとね?」


 最後にパパは苦笑しつつこう締めくくった。


「えっと……次の時は指輪外して、そのアバター解除してね?」



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