第27話  露璃村大助(露璃村流脱衣術の使い手)VS催示《さいじ》暗《あん》(催眠術師)

 翌日。


 俺たちは寝ている間に見知らぬ場所へと連れて来られていた。


 地下にある建物の駐車場だろうか?


 四方は壁に囲まれ、薄暗いな。


「こちらです。ついてきてください」


 先導するかのように、山田が俺たちの一歩先を歩いていく。


 先頭は俺で、その後ろが姫川さん、彩妹ちゃん、ありさちゃん、みちるちゃんという順番で薄暗い通用を進む。


 服装は、俺を含めて全員学校の制服だ。


「身内のゴタゴタに巻き込んじゃってごめんね」


「露璃村くんが気にすることじゃないよ。

 それに日時と場所が書かれていなかった時点でこうなることは、予想してましたから驚きはありません」


「相変わらず凄い観察力だね、姫川さん」


「お姉ちゃんの言う通りだよ。

 わたしたちは、なにがあってもダイスケくんの味方だから」


「ええ、妾たちも同じ気持ちです」


「主さま、絶対に優勝してくださいね」


 いよいよか。

 

 歩を進めながら、徐々じょじょに集中力を高めていくと、やがて視線の先に光が見えた。


 出口とおぼしき、その光を抜ける。


『それでは、皆さんお待ちかねの『露璃村大助』選手の入場ですわ』


 その瞬間、マイク越しの声とともに大きな歓声が聞こえてきた。


 怒号とも呼べる大声を俺は一身に受けながら周囲を見渡す。


 地下闘技ちかぎじょうとでも呼ぶべき場所だった。


 ドーム状の、広々とした空間。


 その中央はぽっかり開かれており、ど真ん中には司会役とおぼしき女性がマイクを持ち、バニーガール姿で立っていた。


 周囲には金属製のさく円形に並べられていて、その向こう側には多数の観客席が設置されているな。


 そしてその座席はすべて道化師の仮面をつけた観客によって埋め尽くされていた。


 すでに開会式が始まっているのか、場内は異様な盛り上がりを見せており、観客の声によって、建物全体が震えているな。


「それでは露璃村様。

 会場の中心にお進みになってください」


 山田に声をかけられ、俺はちいさく頷き、会場の中心へと歩いていく。


 それとほぼ同時に、他の通用口からも、参加者たちが入場してくる。


『それでは、今大会に出場する選手を、一人ずつ紹介していきたいと思います。

 まずはエントリーナンバー1。

 神速の脱衣師・光月こうつきひかり、光月流脱衣剣の使い手です』


「光月流脱衣剣は、世界最強だと証明するために遠方からきました。

 応援よろしくお願いします」

 

 剣道の道着に木刀を持った可憐な少女が、観客に向かって手を振った。


「絶対に優勝しろよな」


「応援してるぜ」


「ヒカリちゃんラブ」


 それに応えるようにして、観客席から大きな歓声が湧き上がる。


『続いてエントリーナンバー2。

 世紀末の奇術師・催示さいじあん

 5円玉を使った催眠術で相手の衣服を見事、脱がすことができるのか』


 シルクハットに紺色のスーツを着た、見るからに怪しい男性だ。


「催眠術師である俺が参加した時点で優勝は決まったようなものだからな」


 催示さいじはつまらなそうに鼻をならした。


『エントリーナンバー3。

 粘着性の高い糸を巧みに使い対戦相手を操り、素っ裸にする傀儡使い・蜘蛛女くもおんな


 全身を黒の忍装束で身を包んだ儚げな少女だ。


「…………」


『エントリーナンバー4。

 脱衣の魔眼を持つ男・魔王神まおうじん達也たつや


 赤い鉢巻きに学ラン、指ぬきグローブをはめた少年だ。


「おっす!?」


『エントリーナンバー5。

 科学の申し子、ドクターABC。

 衣服だけを溶かす謎の液体の使い手だ』


 白衣をまとったセクシーな大人の女性だな。


「ウフフフ」


『エントリーナンバー6。

 百発百中、一度狙った相手は死ぬまで追いかけるタバスコ使いのハンス』


 保安官のようなコスプレをした女性だ。


「激辛料理は好きか。私は大好きよ」


『エントリーナンバー7。

 世界をまたにかけるむし使い、インセクター鈴木』


 迷彩服を着た不健康そうな男性だ。


「俺の蟲がエサをほっしているぜ。

 上質な繊維をたらふく喰いてえって。

 ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」


『そして最後はエントリーナンバー8。

 主催者の息子にして、露璃村流脱衣術の使い手・露璃村大助選手です』


「よろしくお願いします」


 主催者の挨拶や組み合わせ抽選会などを終え、控え室へ向かった。




 選手控え室


 どれほど鍛錬たんれんを積んでいても、戦いの直線には緊張が走るものだ。


 それが初めて対峙たいじする相手なら、なおさらである。


 第1試合


 露璃村大助(露璃村流脱衣術の使い手)VS催示さいじあん(催眠術師)


 第2試合 


 インセクター鈴木(蟲使い)VSドクターABC(マッドサイエンティスト)


 第3試合


 蜘蛛女(傀儡使い)VSハンス(タバスコ使い)


 第4試合


 魔王神まおうじん達也たつや(邪眼使い)VS光月こうつきひかり(光月流脱衣剣の使い手)


「なるほど、露璃村くんは第1試合か?

 で、この対戦相手の催示さいじあんって強いのかしら」


「どうだろう、実際に戦ってみたいとわからないな」


「こんなペテン師に王子さまが負けるわけないわよ」


「ええ、愛理沙お姉ちゃんの言う通りです」


『それでは、まもなく試合開始です』


 スピーカーから司会役の声が聞こえてきたので、俺は会場の入り口まで移動する。


『まずは、赤コーナー!

 露璃村大助選手の入場です』


 名前が呼ばれたのに合わせて、俺は入場する。


『続いて、青コーナー

 催示さいじあん選手の入場です』


 シルクハットに紺色のスーツを着た、見るからに怪しい男性が姿を現した。


石造りのリングの上には、自分と相手と審判の3人しかいない。


『レディーゴー』


「俺は男性を脱がす趣味はないんだ。

 だから……棄権してくれないか」


「ふざけたことを言うな。

 俺サマも男を脱がす趣味なんて持ってねえよ。

 だからてめえが棄権しろよ」


「やっぱりそういう結論になるよな」


「俺サマの催眠攻撃からは誰も逃げられないぜ。ヒャホォイイイ」


 さっそく催眠術を使ってきたので、俺は鏡を使ってその攻撃を跳ね返した。


 対戦相手は自ら服を脱ぎだし、全裸になった。


『勝負あり』


 同時に、審判が声を上げ、俺を指す。


『露璃村大助選手、一回戦突破です』


「おおお!?」


 その途端、観客席からは大きな歓声が湧き上がった。


「こんな古典的な方法で、負けるなんて」


 催示が悔しそうさを隠そうともせず歯噛みする。


「冷静さをかいた時点で、お前の負けは決まっていたんだよ」


「まだまだ精進が足らなかったということか」


「ああ、その通りだ。

 初心に返って。一から修業をやり直せ」


 その言葉に無言でうなずくと、彼は通用口へ向かった。


 続いて、第2試合が、第3試合が、第4試合が行われ、勝ったのは『ドクターABC』、『ハンス』。『魔王神まおうじん達也たつや』だ。


 そして第2回戦の組み合わせ。


 第1試合


 露璃村大助(露璃村流脱衣術の使い手)VSドクターABC(マッドサイエンティスト)


 第2試合


 ハンス(タバスコ使い)VS魔王神まおうじん達也たつや(邪眼使い)


 以上だ。

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