第24話 第1回 美少女選手権


 それから数時間たったが、いっこうに彩妹ちゃんから連絡がないままだ。


 ありさちゃんは何食わぬ顔で戻ってきたけど、犯人につながる手掛かりは、いまだに掴めていない。


 姫川さんのスマホに非通知で電話が掛かってきた。


 電話の内容はわからないけど、姫川さんの顔色から彩妹ちゃんが人質に取られ、脅されていることだけは、わかった。


 今、ルリエールとみちるちゃんが、殺妹ちゃんの捜索にあたってもらっている。


++++++++++++++++++++++




 学校の敷地にある遊園地。


 ゲートをくぐり中へと入ると、そこには『非日常』の光景が広がっていた。


 地上10メートル上に張り巡らされた『ジェットコースター』。


 左右に大きく揺れる『巨大な船』。


 近隣のビルを圧倒するようにそびえる『観覧車』。


 それらのアトラクションに興じる人々の歓声が、園内の至るところから響いていた。


 俺の頭上を嬌声とともにジェットコースターが駆け抜けていく。


 毎年『ヒーローショー』が行われるステージで『第1回美少女選手権』が行われることになっている。


 美少女選手権とは、校内で『春夏秋冬学園で一番カワイイ女の子』を決めるコンテストのことだ。


 ちなみにスポンサーは姫神グループだ。


 入るとすぐ視線を前のホワイトボードに向けた。


 そこには、大まかな席順が指示されてお前から三年、二年、一年の順。


 俺は決められた席にさっさと座る。


 ちなみに今、スポットライトを浴びているのは、白い半袖のポロシャツに白のスコートというテニスウェア姿のありさちゃんだ。


「エントリーナンバー8。

 跳姫愛理沙です。

 自己アピールは『彫刻刀投げ』です」


 司会者の頭上にリンゴを乗せ。


「見事!? 当てることができましたら、清き一票をお願いします」


 そう言って、愛理沙ちゃんがスコートの裾をめくる。


 すると襞のついた白いアンダースコートがチラリと見えた。


 アンスコは、女子にとっては他人に見せても恥ずかしくないモノなのかもしれないけど、見慣れていない俺にとっては『パンチラ』と大差なく興奮してしまう。


「はっ」


 勢いよくリンゴに向かって、彫刻刀が7本投げられる。


「おおおおおお!!!」


 会場中に拍手喝采はくしゅかっさいが巻き起こる。


 なんと七本すべてリンゴに突き刺さったのだ。


 しかも『北斗七星』を描いていたのだ。


 それからフリフリヒラヒラとした個性的な黒と白のゴズロリファッションや、花柄の浴衣。


 胸の部分が開けたデザインのセクシーなメイド服に、ボディーラインの見えるレオタードにうさ耳と尻尾というバニーガール姿に、真っ白なナース服とナースキャップ。


 ムチムチのボディースーツでパッと見、ペイントとされただけの裸のような完全にラインの出た服を着たヒトもいたし。


 女性警察官の服を着て警帽をかぶり、スカートの裾がやけに短く茶色のストッキングを穿いているからいいものの、もしも穿いていなかったら前屈みになっただけで下着が見えそうなほどで、左手に手錠を持ったクラスメートまでいた。


 俺は変態だが『オタク』ではないからコスプレの『良し悪し』なんてわからないけど、素人目にも凄いクオリティだと思う。


 中には着ぐるみ姿での参加者が、プラカードを手にして楽しそうにクラスの出し物を紹介していく。


 クラス催事の宣伝を『美少女選手権』に取り入れたことで、参加者が増え。


 さらに衣装やアピールタイムなどのバリエーションも明らかに増えているなっ。

 

「それでは、皆さんお待ちかね。

 エントリー番号『28』。

 我が校のアイドル『姫川 理沙』さんの登場ですッッッ!」


 司会役である実行委員の呼び出しに、俺は身を乗り出した。


 ――――つ、ついにきた。


 待ちに待った姫川さんの番だ。


 そしてステージにスポットライトが当てられ、一人の美少女が姿を現す。


 顔以外を白いマントで、覆い隠した絶世の美少女を見た瞬間。


 この日一番の叫び声と拍手が、会場中を揺るがす。


 予想以上の盛り上がりを見て、驚き。


 やっぱりかなりの人気があるんだな。


 学業優秀で教師からの受けもいい、普段は男子とあまり口もきかない、楚々とした感じの学園一の美少女だもんな。


 生まれながらの気品をまとったその美貌には、誰もが釘付けにならずにはいられないことを改めて思い知り、ムカムカムカムカムカムカっ!


 している自分がいた。


 はらわたが煮えくり返るほどの怒りが、同時に身体の奥底からこみ上げてきていた。


「では、姫川さんのによるセクシーアピールの時間です』

 

「うおおおぉぉおおおぉぉぉぉ」

 

 ふたたび歓声が上がり。


 スポットライトに照らされた彼女は、白いマントを脱ぎ捨てる。


 なんと姿を現したのは『宮廷ドレス』を身に纏った可憐なお姫様スタイルだった。


 凝った刺繍やフリルがふんだんにあしらわれているセパレートタイプで、いかにも上品なその雰囲気にはよく似合っているな。


 また全体的に無垢で、清純な印象で綺麗に整った輪郭に、澄んだ瞳やすっと通った鼻梁はなすじが奇跡的なバランスで配置されている。


 頭を飾るのは『小さな黄金のティアラと猫耳を組み合わせたモノで、一見しただけだと本当に猫耳が生えているように見え、それが『神秘的』あり『荘厳』だった。


 髪型も可愛らしいツインテールに結び、猫耳と合わさるとその破壊力は凄まじいものになっていた。


 背丈にぴったりのサイズで、上着は胸の膨らみがピッチリと浮き出たタイトなデザイン。


 胸元が大きく開き。


 ヘソも両肩も丸出し状態で、細い腰をキツく締め上げ。


 乙女の柔らかなボディーラインをくっきりと浮かび上がらせているのに、下品さなどは欠片もない。


 生クリームのように繊細な白さと柔らかさを兼ね備えた肌に、女神のごとく均整の取れた魅惑的な肢体。


 高校生離れしたプロモーションのよさと、そのボディーラインを剥き出しにするコスチュームの相乗効果で、その姿はエロい。


 スカートももちろん超ミニサイズで、タイトなデザインだ。


 青と白という王道の縞のニーソに包まれた彼女の美脚は、きわどいところまで露出しているけど、ギャルとは違うみやびな空気を漂わせている。


 お淑やかな彼女のカラダは、色っぽさとは別の清楚な魅力を纏っていた。


 そのすべてが、高貴な血筋を証している。


 遊園地の全体を揺るがす興奮した男性たちの大歓声が一向に静まらない。


 昔の俺なら、みんなと同じように『素直』に興奮していたと思う。


 けれど今はすぐにでも目の前の『ステージ』に駆け上がり、彼女の頭から布か何かを被せて、連れ去りたくってたまらなかった。


 その衝動を、下唇を噛み締め、拳を強く握りしめ、必死になって耐えている。


「エントリー番号28。

 姫川 理沙です。

 よろしくお願いします」


 しかしそんな俺の気持ちとは裏腹に、彼女は『並みのアイドル』を遥かに凌駕する極上の笑顔をみんなに振りまきながら、少しでも動くとその動きにあわせて、ミニスカートがひらりひらりと揺れ。


 俺はそのたびに苦しげな悲鳴を何度も何度も上げた。


「こんな私を推薦してくださった皆様には、誠に申し訳ありませんけど」


 聞くだけで身が引き締まるような涼やかな声と共に、年齢に似つかわしくない威厳と気品を見るモノに感じさせ。


「辞退させていただきます」


「えっ!?」


 辺り一面にどよめきの声が広がり、ショックのあまり真っ白な姿になって、口からエクトプラズマを吐き出している多数いた。


 一番驚いたのは、俺だった。


 事前に何も聞かされていなかったからだ。


「ふ、ふざけてるんじゃねえぞ。

 じ、辞退なんて許されるわけねえだろう」


「きゃあ!? モノは投げないでください。

 落ち着いてください」


 進行役が叫び声を上げ。


 姫川さんはその場にカクンとしゃがみ込んでしまう。


 完全に血の気が引いているようにも見える。


 ヒトの悪意とは、これほどまでに恐ろしいモノだった思いしなかった。


 選考委員の人たちもフォローできずに固まってしまっている。


 ――助けなきゃ。


 その光景を目にした瞬間。


 俺の身体は勝手に動いていた。


 姫川ファンクラブのメンバーであろう人達を、強引に掻き分けて、ステージによじ登る。


「えっ! ろ、ろり、むら……くん?」

 

 目に見えて動揺している彼女が俺のことに気付くと、そのキレイな金色の瞳を丸くした。


 俺は、他の生徒からの視線を少しでも遮るために『壁』になった。


「露璃村が、どうして……ここにいるの?」


 ドレスの前を両手で掻きあわせ、とても弱々しい声で……ちょっと涙目になっていた。


「姫のピンチに駆けつけるのは『騎士の本懐』ですから」


「露璃村くんが騎士……全然似合わないわね」


「一夜限りの騎士ですから。

 大目に見てください、姫」


 彼女のキモチを落ち着けるために冗談めかした口調で叫び。


 俺は姫に絶対の忠誠を誓う騎士の心境で、手の甲に誓いの口づけをする。


 姫川さんの手はほのかに冷たくて、滑らかで、いい匂いがした。


 優しく高貴な印象の香りでありながら、胸を怪しくときめかせる艶やかさも含んだ芳香だった。


 とにかくこの場から離れないとまずいな。


 しゃがみ込んでしまった彼女の手を取り、立たせようするが。


「あ、あれれ、可笑しいな。

 力が、入らない……や…………い、イヤァッ!? なにこれ……」


 姫川さんは苦しそうにカラダ中を掻きむしり、掻きむしったところから血が噴き出し、体育館中に血の雨が降り注いだ。


 そして血で真っ赤に染まったドレスは強い光を放ち、真っ白なスクール水着に黒ストッキングに再構成され。


 透けるような白な肌は黒い毛で覆われ、鋭く伸びた牙に真っ赤に充血した目は、まるで獣のようだった。


 そして体育館は、真っ白なスクール水着に黒ストッキングを身に着けた異形化した学生で溢れていた。


 男女問わず『真っ白なスクール水着に黒ストッキングを身に着けた『黒い獣』になっていた。

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