第15話 玉の輿ゲッドで人生逆転


 オリエンテーション


 2日目。


「一生遊んで暮らしたいか!? 玉の輿に乗りたいか!? 大金持ちになりたいか!?」


 ルリちゃんこと『ルリエール・ド・ビクトエール』がマイクを片手に言った。


 それはよく響く、よく染みいる声だった。


 容姿が美しいのはもちろんだが、その立ち振る舞いは洗練され、さりげない動作のひとつひとつにまで、冒しがたい気品が漂っている。


 広い、いかにも格調高い木造の講堂。


 野外活動の真っ最中だが、俺と姫川さんはルリちゃんが主催するセミナーに参加することになった。


 参加理由は、ルリちゃんがひた隠しにしていた『一冊のノート』を読んでしまったことに起因する。


 俺がノートを盗み見ることも、ルリちゃんの計画に含まれていたのではないだろうか。


 彼女の目的は『俺を世界の王にすること』だった。


 なぜ、そんな発想にいたったのかまではわからないけど、お高くとまった名前も知らない女性と結婚させられるかもしれないと知ったら、黙って見過ごすことなんてできないだろう。


 俺が好きなのは姫川さんで、結婚したい相手も、もちろん姫川さんなんだよ。


 それ以外の女性とは、死んでも結婚したくないんだよ。


 だから俺は姫川さんを誘って、セミナーに参加することを決めたわけだ。


 絶対に姫川さんには優勝してもらわないと困る。


 でも、そんなに心配はしていない。


 だって、姫川さんが負ける姿なんて、まったく想像できないからだ。


 参加者は全員『ウチの学校制服』を着用している。


 演壇で固まっている俺を、名家のお嬢さまたちがキラキラした眼差しで見上げている。


「彼がどれほどの変態なのかを、皆さまに見てもらいましょう」


 ルリちゃんは演説台に腰をかけ、真っ赤なハイヒールと真っ白なニーソックスを脱ぎ捨てる。


 ふっくら柔らかそうなふくらはぎが露わになり、その下にすぅっと浮かび上がった美しい腱、細い足首、可憐な爪先からくるぶしは、思わず撫でてみたくなるほど、絶妙な丸みを描いていた。


「ルリたんの足にキスをしなさい」


 流し目を使いながら、ルリちゃんは微笑みを浮かべて


「その無様な姿を大勢の人に見てもらいましょうね」


 それはまぎれもなく『屈辱的な』行為に他ならないのだが、身体が自然と動いてしまう。


 もちろん頭では理解しているのに、女性特有の魅惑的なフェロモンに引き寄せられてしまう。


 蝶が花の蜜を吸うように、俺は彼女の白く透き通った生足を舐めていた。


「ふぁっ、あぁ……本当に舐めてる……ルリちゃんの足の指、舐められちゃってるよぉ……んんんっ。ごく自然ことのように、なんの躊躇ちゅうちょもためらいもなく。

 指の隙間まで、丁寧に舐められちゃってるよぉ……ふぁっアアア!?」


 生足を舐めていた。


 ぺろぺろしていた。


 きゃはははん、うふふふと楽しげに舐めていた。


 ーーああ、完全に『変態』だ。


 人として大切な尊厳を失った。


 でもまあ男なんて生き物は結局ところ、幼い女の子達には、かなわないんだよな。


 つまるところ『可愛いは正義』だ。


「あれが『変態』というモノなんですね。

 初めて見ましたわ。

 なんて男らしい姿なんでしょうか」


 ありさちゃんの漏らした、そのつぶやきが、ゆるいアーチを描く漆喰しっくいの天井にまで届く。


 政略結婚、そんな時代錯誤な言葉がまかり通ってしまうぐらい、しがらみが多いお嬢さまたちは『変態』というモノに興味津々みたいだな。


 背後の垂れ幕には『玉の輿ゲッドで人生逆転』と書かれていた。


 ずらり並んだ木の椅子に、育ちの良さを一目でわからせる完璧な姿勢で座っている。


 そこには殺妹ちゃんや跳姫姉妹の姿もあった。


 彼女たちも『花嫁』候補ということか?


「そして勝負方法は」


 ルリちゃんは、会場全体をしっかりと見渡した。


 会場全体が緊張に満たされている。


「『チョコ食いレース』です」


 チョコ食いレースとは、100個のチョコレート中から1つの当たりのチョコを見つけだす勝負だ。


 パン食い競走と同じで、手を使用は禁止ですが、妨害工作は自由。


 まきびしや、落とし穴、バナナの皮何でもアリだ。


「説明は以上です。

 さあ皆さま、ルリたんが用意した衣装に着替えて、勝負開始です。

 更衣室はあちらになっています。

 ロッカーにはきちんと名前が書かれているので、くれぐれも間違えないでくださいね」


 姫川さんを筆頭にお嬢様たちは、更衣室のなかへと入っていた。


 ちなみみちるちゃんは、審判兼カメラマンなので特別個室へと入っていた。




『理沙視点』


「な、なにコレ!? こんな破廉恥な衣装に着替えなければいけませんの?」


「ワタクシの衣装なんて『ヒモ』よ。

 破廉恥きわまりないわ。

 それに、これ、いったい……どうやって着るのかしら?」


「ちょ、ちょっと待って……わたしの衣装……くまの着ぐるみなんですけど。

 これを着て、チョコ食いレースとか? ハード高く過ぎなんですけど」


「よかった? 私のは普通のランニングウェアみたいで」


「お先に失礼するわ、理沙さま」


「お互い悔いのないように頑張りましょうね、理沙さま」


 シノビの衣装に着替えた愛理沙さんが、一足先に更衣室を出ていってしまう。


「お姉ちゃん、わたしも先に行ってるね」


 続いて、見慣れた新体操のユニフォーであるレオタードに着替えた殺妹も更衣室を出ていしまう。


「あっ!? いけない。

 わ、私も早く着替えないと」


 慌てて自分のロッカーを開ける。


 ロッカーの中に用意されたコスチュームは『メイド服』だったわ。


 私は素早く体操服を脱ぎ、下着姿になると脱いだ体操服をキレイニ折り畳んでロッカー中に入れ。


 素早くメイド服に着替えました。


 自分の姿を鏡に映し、身だしなみのチェックをする。 


 妙な着方をしていないかと心配になり、私は何度も確認した。


 青と白の水玉模様のフリフリしたエプロンドレスは、とても可愛らしいモノでドット柄のフリルに飾られたスカートは、まるで満開の薔薇のようだわぁ。

 

 うん。


 ヘンなところはないわね。


 完璧だわぁ。


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