第6話 ハイエナ
「なんですか貴方たちは? どうして、私たちが見つけたものを渡さないといけないのですか!」
「ほぉ、なかなか威勢のいいねぇちゃんじゃねぇか」
「しかも胸デケー! こりゃお宝が一つ増えたな」
「あぁ、女も頂いていこうぜゲヘヘ」
「な!?」
突如現れ、2人が見つけたお宝を奪おうとする連中にメリッサが抗議の声を上げた。
だが、3人の好色な瞳に彼女は思わず胸を隠すように両腕を回し身を捩る。
「へへ、しかし情けねぇな。彼氏の方は何も言えずブルってるだけじゃねぇか」
「え? か、彼氏?」
しかし、3人組の1人が発した言葉で、今度は頬を染めるメリッサでもある。そんな彼女を庇うようにしてヒットが一歩前に出て3人と対峙した。
「お前たちは盗賊なのか?」
「盗賊? 馬鹿いえ、俺たちは歴とした冒険者だよ」
「え! 冒険者!?」
メリッサは驚いているが、ヒットには合点が言った気がした。
「つまりハイエナって奴か……」
「へっ、その言い方はムカつくな」
そこでそういう言葉が出るということはきっと本人たちにも自覚があるのだろう。
そしてこのハイエナというものはゲーム時にも存在した。ハイエナと呼ばれるプレイヤーは自分たちでは大した活躍もせず、それでいてちゃっかり出現したアイテムだけは取っていくような相手だ。
だが、それならまだ可愛いもので、中には苦労して見つけた隠し通路が現れた瞬間にどこからともなくあらわれ真っ先に中に入りアイテムを奪ってトンズラするようなのもいた。
またプレイヤーがボスなどで疲弊したところを狙ってPK、つまりプレイヤーを殺しにくるものまでいた。
今回の場合、後者2つを合わせた複合系のハイエナと言うべきであろう。
「お前らはゴブリンがお宝を隠す性質を知っていたということか」
「あぁそうだ。そしてこの場所はずっと前から俺らが目をつけていた。こっちからすればテメェらの方がハイエナみたいなもんだ」
柄に手を添えつつ問いかけると彼らはそう答えた。メリッサはゴブリンの隠し通路について詳しく知らなかった。だがこの冒険者は知っている。
やはり一部の冒険者は知っているのだろう。だが、その情報は共有されていない。知っていても話さないのが大きいのだと思われた。
考えてみれば当然の話と言えた。下手に話して噂が広まれば手に入る可能性はグッと減るのだ。
そして同時にこのような輩が現れる要因にもなった。敢えて自分たちでは何もせず、他の冒険者に巣のゴブリンを駆除させ、後は悠々と隠し通路の先からお宝を持ち帰る。
彼らにとって今回誤算だったのはヒットが隠し通路のことを知っていたことだ。しかしだからといってこのような真似が許されるわけもない。
「つまりお宝を頂戴するのも、俺らが狙っていた獲物を横取りしたわびとして女を差し出させるのも当然の権利というわけだ」
「そんな、無茶苦茶です……」
「無茶だろうとなんだろうとそう決まってんだよ。あんたも痛い目をみたくなきゃおとなしく言うことをきいたほうがいいぜ? 女とお宝を置いてけば命は助かるんだ。安いもんだろ?」
やってることは盗賊と変わらないな、とヒットは思った。そして当然連中の要求を受けるつもりはない。そもそも従ったところで本当に見逃すとは思えない。
メリッサにしてもそうだ。あまり考えたくはないが用がなくなればきっと生かしてはおかないだろう。ゴブリンの巣に向かった冒険者がいなくなってもゴブリンに殺されたぐらいにしか思われないだろうし、何よりメリッサは一緒に来たパーティーに見捨てられている。
その連中がどう報告するかはわからないが、生きているとは言わないだろう。つまりメリッサがここから戻らなくても不自然ではなくなってしまう。ヒットに関して言えば存在すら知られてないのだ。
「やるしかないか――」
ヒットは剣を抜く。その姿に目を丸くさせる3人の冒険者だが。
「はは、マジかよ」
「ナイト様気取りってか? 気に入らないなぁ」
「ま、どっちにしろ殺すつもりだったがな」
ヒットの予想が当たったことは内の1人がぽろりとこぼした言葉で判明した。
「ヒット、この3人は」
「おっと、それ以上喋ったら先ずあんたをやるぜ!」
動きやすそうなズボンとフード付きのケープといった出で立ちの男がクロスボウをメリッサに向けていた。
余計な真似をしたら射つという意思表示だろう。メリッサの目に緊張が滲む。
ヒットは改めて3人を見る。残り2人は見たところ戦士系、ジョブでいえばファイターかそれにマジシャンといったところか、と考える。
そしてクロスボウを向けている方はシーフと言ったところだろう。ならば、とにかく先ずは危険な方を排除しようと動き出す。
「キャンセル」
「あ? え? なんで――」
全てをいい切る前にヒットはクロスボウを下ろした男の首を切り裂いていた。パクっと裂けた傷口から噴水のように血が吹き出ていく。
間違いなく死んだと確信。
「な、なんだと!」
「くそ油断しやがって! 我が手には火、射抜くは赤の衝撃――」
「キャンセル」
「ファイヤーは?」
詠唱が必要な魔法はキャンセルにとっては絶好の的だ。詠唱が完成する前にキャンセルを発動すれば詠唱そのものが無駄になる。
そして多くの者はこれを受けたときギョッとする、それは明確な隙だ。
「が、あ……」
ヒットの鋼の長剣がローブを着た杖持ち男の脇を貫いた。魔法さえ使わせなければこの手の相手は怖くない。
「ち、畜生!」
残ったのは戦士系の男だが、ヒットのキャンセルを警戒したのか大きく後ろに下がってきた。顔に緊張の色が見える。
流石に余裕は綺麗サッパリなくなっている。あっさり2人が死に、むしろ追い詰められていると言っても良い。
ただ逃げる素振りは見せない。やってることは盗賊だが一応は維持は持ち合わせているようだ。
相手は警戒しているが、ここでヒットは一つ技を試してみることにした。さっき指南書を見て覚えた新しい技だ。
「爆砕剣!」
「な!?」
ヒットは地面に剣を叩きつける。途端に地面が爆散し砕けた礫が男に襲いかかった。
この技は直接相手に攻撃を加えるのではなく、地面を爆散させたときに生じる礫で視界を奪った上でダメージを与える。
熟練度が1だと射程は最大3m程度といったところか。散弾みたいなものなので距離が開けば開くだけ威力は減る。今の一撃にしてもダメージは大したことがないだろう。
だが、相手の視界は妨げたわけであり。
「ぐぇっ!?」
何かがヒットの真横を横切り、かと思えば男のうめき声。見ると喉に矢が突き刺さった男が呻き、必死に喉を掻き毟っていた。
だが、その動きもだんだんと弱まり、最後には物言わぬ骸と成り果てた。
地面に3人の死体が並ぶ。若干の忌避感はあった。当然ヒットは人を殺したことなどない。だが、思ったよりも気持ちは落ち着いていた。
ふと、さっき嵌めた指輪に視線を落とす。精神力強化の指輪……これが結果的に心を強くさせたのかも知れない。
「よ、よかったぁ……」
振り返るとメリッサが胸をなでおろしていた。豊かな果実が呼吸に合わせて上下する。
最後の矢はメリッサが放ったものだろう。砕けた土塊で視界を防いだ隙を狙ったのだ。さすがアナライザーだけあって判断力がある。
「メリッサ、今更だがこの連中は冒険者だと言っていた。なのに殺してしまって大丈夫だったか?」
どっちにしろ殺らねばこっちが殺られていた状況だ。行為自体に後悔はないが、冒険者のメリッサに何か処罰が下りはしないかと気になった。
「それは大丈夫です。むしろ冒険者同士なので同胞を殺そうとした時点で殺されても文句は言えないのです」
「そうか……」
納得はしたが、問答無用で殺してもいいとなるあたりやはり異世界は殺伐としている。
「相手から仕掛けてきたというのは証明は可能なのかな?」
「はい。そのためにギルドカードを持っていきます。カードには依頼を達成できたかなどが記録されますし、犯罪に走った場合も記録されるのですぐわかるんです」
「そうなんだ。でも、そんなすぐ判るのに、よく犯罪に走れたらこいつらは」
「このクロスボウを持った人はシーフですからね……シーフは偽装系のスキルを持ってますので」
シーフは盗賊系のジョブの一つだ。メリッサの言うようにかつてのゲームでもシーフはステータスやアイテムの偽装が出来ていた。
その他は罠の解除や罠の設置、そして盗みがメインのジョブでもある。
「シーフでも冒険者になれるんだな。盗賊っぽいのに」
「ジョブは適正で神様に与えられたものですが、シーフのジョブだからといって盗賊になると限らないというのもありますからね。基本ジョブだけで判断はしないのですよ。見ての通りファイヤーやマジシャンのジョブ持ちでも罪を犯したりしますし……」
言われてみればそうだなと納得するヒット。基本盗賊であることとシーフのジョブ持ちであることがイコールするようなことはないようだ。あくまでジョブはジョブ、犯罪は犯罪である。
それから2人は3人の死体を物色し所持していたギルドカードを手に入れた。その他の所持品もこういった場合はヒットたちに権利があるそうなので所持金や役に立ちそうなものは持っていくことにする。
とりあえずナイフは手持ちのより良さそうなので交換した。所持金は5千ゴルドほどになった。
「それじゃあ町までいいかな?」
「はい! では向かいましょう!」
こうしてゴブリンの巣を抜けた2人はメリッサが所属している冒険者ギルドのある町に向かうこととなった。
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