CHAPTER 18


 ――その後。式に参列してくれていたヒーロー達は、ジークロルフさんの転移魔法によって、それぞれの「世界」へと帰って行った。


 救国の英雄として彼らを歓待したい、というのが輝矢君の意向だったのだが――彼らには、彼らの「物語」がある。私達が、そうだったように。

 だからきっと、これで良かったのだろう。帰るべき世界はずっと、彼らを待ち続けているのだから。


「ここ最近、随分とキレがいいな。数日休むって言い出すから何かと思えば……秘密の特訓でもしてたのか? ”オーバーサイク”」

「あなた達に似たような人と、ちょっとイロイロね――”イーグルガイ”」

「このアーマーにか? 物好きな奴がいたもんだ。……あと、その呼び方はやめろっての」

《バルチャー! オレの名はバルチャー!》

「うるさいぞポンコツ」


 ニューヨークに知れ渡るヒーローとして、闇夜の摩天楼を駆ける「オーバーサイク」こと、ミュールさん。彼女はガンメタリックなアーマーを纏う相棒「イーグルガイ」さんと2人で、今宵も戦いに明け暮れている。


「だからよー! 異世界に召喚されて、魔人の眷属共をブチのめしてたんだっつの! あたしがウソついてるってのか!?」

「いや……あのさぁ、弓弧ゆみこ

「んだよモブ!」

「そういう、魔法みたいな話ってさぁ」

「モブまで! あたしの話がウソみたいだってのか!?」

「普段とあんま変わらなくない?」

「……それもそうだな」


 行きつけの飲み屋で、桃色の髪を靡かせながら――いつもの友人達とお酒を楽しんでいる、「魔砲少女ユミコ」こと朝熊弓弧あさくまゆみこさん。彼女にしてみれば、帝国の未来を懸けた異世界召喚も、「日常」と大差ないのかも知れない。


『全く……なかなか連絡がつかないと思えば、どこまで素潜りしてたんだか』

「よし、いっぱい獲れた」

『頼むぜファラ。一応お前も大事な代理ヒーローなんだからよ……』


 「オペレーター」を務める男性の声など、まるで意に介さず。山のような巨躯と鋼のような筋肉を持つ、「石器時代の勇者」ことファラさん。

 その体格からはちょっと想像出来ないくらい、優しい心を持っている彼女は――無数の魚を湖から掻き集めている。空腹に悩む難民達へと、分け与えるために。


「……ほらよ、今日の飯だ」

「あ、ありがとう……。ねぇトム、お金……」

「子供から金取るほど飢えてないさ。いいからほら、食べな」

「おーう、今日は大漁だなぁトム! 何日も顔見せなかったから、とうとう捕まったのかと思ってたぜ!」

「ハハッ……まぁ、『遠い国』でちょっと、な」


 繁栄の時代を迎えている、とある国の裏側。その路地裏に隠された、下水道で生活している子供達のために――盗んできた食糧を渡す青年がいた。

 「地下民」として暮らす人々に盗品を売ることを生業としている、「Mr.Dミスター・ディー」ことトムさんは今日も――生きるために、抗い続けている。


「お兄さん……今まで、どこ行ってたの?」

「言っても信じないよ、きっと」

「信じる。お兄さんの言うことだから」

「そうか? それじゃあ――」


 10年前と10年後が融合する、時空震という現象が起きる不思議な世界。そこで暮らす「人形遣い」こと栗風礼二くりかぜれいじ君は、黒髪を靡かせる可憐な美少年――のような少女である、六風むかぜつみれさんと共に。

 彼らが身を寄せている「学園」の外で、夜空を仰ぎながら。2人きりで肩を寄せ合い、お気に入りのお粥を味わっている。

 星の大海。その彼方に在る異世界に、思いを馳せて。


「ねぇおじさん、ライオンのおじさん、どこに行ったか知らない? 最近会えないんだよね……」

「……なぁに。もしお前に何かあった時は、どんな世界にいようが絶対に駆け付けて来るさ」

「ほんと!? やったぁ!」

「ただし、お前も母さんの言うことはきちんと聞いて、危ないことはするんじゃねぇぞ。あの半獣人も、困っちまうからな」

「はーいっ!」


 無邪気な少年と並んで街を歩く、筋骨逞しい大柄な男性。ライオンの姿を持つ、半獣人の戦士「ブレイブレオ」ことゴウキさんは、守るべき小さな命を見下ろして――その笑顔のために戦い続けることを、人知れず誓っていた。

 どんな世界に渡ろうと、その信念が揺らぐことはない。


「異世界召喚された勇者が……って、ちょっとベタすぎじゃないですかー?」

「えー、ダメかなぁ? 結構イイ感じに出来ると思ったんだけど」

「それで行くんだったら、せめて締め切りギリギリなんてことにはしないでくださいよー。ただでさえ数日休んでたんですから」

「大丈夫、大丈夫ー。今度はちょっと行けそうな気がするんだよね」

「ほんとかなぁー……」


 担当の女性編集者さんに難色を示されながら、どことなく緩い感じでペンを握る漫画家。彼の名は「雷光鬼らいこうき蔵王丸ざおうまる」――こと、財津原王仁彦ざいつはらおにひこさん。

 陰ながら「鬼」として、人々を守り戦う日常の中で――彼は今日も、漫画家「鬼頭蔵王丸きとうざおうまる」先生として、デスクに向かっている。


優也ゆうや、心配したぞ! どこに行っていたんだ、全く!」

「レーダーからも完全に反応が消えちまってたんだから、アタシ達てっきり……!」

「あはは……ごめん皆、心配掛けちゃったね」

「しかし、奇妙な話だな。人工島アヴァロン内部でいきなり、エンジェルアーマーごと消失ロストするなんて……一体、何があったというんだ?」

「うん。実はね、異世界から来たジークロルフって人が――」


 男性の殆どがいなくなり、女性達がエンジェルアーマーという鎧を纏って戦うようになった世界。そこへ帰還した、「ゴールデン・デイブレイク」こと北条優也ほうじょうゆうや君は、共に戦うお姉さん達との再会を果たしていた。

 彼ら「聖獣セイントビースト隊」の戦いは、まだ続いているのである。


「よし。じゃあグラウザー、もう一度聞かせてくれ。一体、今までどこに行っていたんだ?」

「はい。異世界から来たというジークロルフ・アイスラー氏に救援を要請され、急遽セイクロスト帝国に――」

「あぁ、うん分かったありがとう。……はぁ、これを一体、どう上に報告すれば……」


 2040年代の地球へと帰還したアンドロイド警官――特攻装警第7号機「グラウザー」さん。彼は相棒である若い刑事さんとの再会を、無事に果たしていたのだが。

 持ち前の素直さ故に、セイクロスト帝国での戦いを包み隠さず報告する「いつも」の姿勢に、刑事さんは頭を悩ませる一方だったという。


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