公開処刑


 その夜、滝沢は王城に出向き、出頭した。


 兵士に捕まってから二時間が経った。


 閉じ込められたのは、いつもの牢獄。


 両腕には手錠。

 前回、脱走をした事もあってか、壁に鎖で繋がれていた。


 これから何が始まるのか、自分の身がどう扱われるのか、滝沢は知っている。


 ご丁寧にも国王が直々にやってきて、色々と説明してくれたのだ。



 公開処刑は、今夜開催。


 召喚された勇者ということもあり、処刑の舞台を飾るのは小さな闘技場で行われる。


 さらに、王国の貴族たちが既に集っている模様。


 衆人環視の中で、滝沢の処刑が行われる。




 午後11時。


 滝沢は牢屋から連れ出された。


 武装した男たちに囲まれながら階段を上り、外に出る。

 そして王城横の闘技場の門の前で停止。


 扉が開き、目の前に広がったのは、砂の広間。


 三階席まである場内に、既に大勢の貴族たちが集っている。


 そして囲むように中央に存在しているのは、大胆な断頭台だった。



「さっさと歩け」


 手錠といい、男たちの扱いといい、まるで罪人の気分だった。


 ならば、罪とは何だろう?

 自分の犯した罪とは、いったい何なのだろう?



 しばらく歩いたところで断頭台に立たされた。



「──これより悪の勇者、滝沢の公開処刑を執り行う!!」


 二階席から、国王が声を張り上げた。


 滝沢が立ち尽くす間にも、国王は演説を続ける。

 そして有りもしない罪名を声に出して話している。



 演説が終わると、前方の門から人影が出現。

 重々しい足取りで、その人物がこちらに歩いてきた。


 国王が用意したのは、見上げるような大男。


 鎧に身を固めた、騎士団長。



「……あんたか」


「感謝するがいい。このような場で処刑されるのは光栄なことだぞ」



 騎士団長は断頭台の鎖を引くと、首を跳ねるための刃が上昇していく。


 複数の男たちが滝沢の頭を鷲づかみにして、台に首をはめた。



 そして、国王は手を上にかざした。


 処刑の瞬間──



 その手を振り下ろそうとした時、後方で、門を打ち破る音が響いた。



「──お待たせしました、滝沢様」



 そう言ってこちらに歩いてくるのは、戦闘屋の執事。


 場内がざわめく。


 執事は白い手袋を床に捨て、兵たちに向かって歩いていく。



「何者だ──ッ!!」


 一人の兵が槍を構え、突進して行く。


 素早く槍を回避し、執事の裏拳がその顎を打ち抜いた。

 衝撃で男の首が曲がり、白目を向いて崩れ落ちる前に執事は跳躍。

 疾風のように振り抜かれた右足の蹴りが、並んで立っていた男二人の鼻を削ぎ落とす。

 着地と同時に、執事は別の兵の喉を貫手で潰し、最後の一人の股間も蹴り潰した。

 そこでようやく、最初に裏拳を喰らった兵が床に倒れる。


 一人は気絶し、残り四人は床の上で痛みにもがいているのを確認してから、執事は騎士団長の方を向いた。



「くっ……戦闘屋を雇っていたか!」


 騎士団長は腰に据えていた剣を抜いた。


 執事に向かって走った騎士団長が剣を振るう。



「沈め」


 執事の右足が緩やかに可動し、加速。

 空気を切り裂くような下段蹴りが、騎士団長の膝を粉砕。

 あっけなく傾く巨体に、執事は追撃の足刀。

 狙いは顎。顔の下半分がぐしゃりと潰れ、「ぐっ」と短い呻きを漏らし、巨体は倒壊。


 手から剣が零れ落ち、数秒の痙攣に続いて、騎士団長は白目を剥いた。



「終わりました、滝沢様」


 執事は滝沢の両手の手錠を手刀で切断する。



 闘技場は、完全に静まり返っていた。


 処刑されるはずの罪人が、いきなり戦闘屋を入れて現れるやいなや、逆転勝利。

 あまりに想定外の展開に、貴族の誰もが、どう捉えて良いのかわからないのだろう。



 さて……問題はここからだ。


 二階席から飛び降りてきたのは、──剣の勇者、安藤由香。



「申し訳ありませんが、ここで処刑させて頂きます」


 大剣を握り締め、向かってくる安藤。



「……執事さん、悪いけどあいつは倒さないでもらえるか」


「かしこまりました」


 執事は静かにその場から離れた。




 滝沢に向かって大きく振り上げられた剣。



 ──刃を跳ね除けるかのように対峙したのは、大きな鎌。



「悪いけどね、この鎌は飾りじゃないんだよ」



 振り向くと、そこには墓守の姿があった。

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