「国立青少年学習機構」

廊下を歩くジョン太は施設の中を見渡します。


陽光の差し込む建物の中はとても広く、

3階から1階まで吹き抜けになっていて、

空調完備がされているのか心地よい風が

吹き抜けていくのが感じられます。


廊下にはいくつかの勉強机や本棚やのほか、

色とりどりのクッションやソファーベッドまで付いていて、

そこでジョン太ぐらいの女の子やヨシローくらいの青年が、

本を読んでノートを取ったりマンガを読んでごろ寝をしたり、

みんな思い思いに勉強や遊びを楽しんでいます。


「大丈夫?顔色が悪いみたいだけど。」


クロサキと呼ばれる女性に心配されたジョン太は

「いえ、まあ…」と言葉をにごします。


正直、記憶が混乱している上に、

自分がどうしてこの場所にいるのか説明できないので、

ジョン太は困っていました。


「そういえばちゃんとした自己紹介をしていなかったわね。

 非常勤の医務官として働いているクロサキよ。

 ここに来る子の適性検査や健康観察を担当しているの。

 昔、あなたのおじいさんもここで講師をしていてね、

 生徒として私はずいぶんと世話になったわ。」


そうして、クロサキはおじいさんからジョン太を夏休みの期間中、

ここで世話をしてくれるように電話で直接たのまれたこと、

そのあいだ、ジョン太個人の世話もよく焼いてくれないかと

必死に頼まれたことを話し、ついで大きなため息をつきます。


「んー、でもサイトー先生には悪いけど、私には私の仕事があるからね。

 まあ、一応説明しておくけど、ここは学校の勉強だけでは伸び悩む子の

 本来持っている能力を最大限に引き出すことを目的とした施設でね、

 適性検査やトレーニングを行うことで有名選手や研究者になれる子を

 たくさん輩出している場所なのよ。」

 

しかし、その言葉を聞いたヨシローは、

暗い表情でため息をつきます。


「俺も最初の説明会でそう聞いていましたよ…でもクロサキさん、

 あの理事長を含めて会議に出ている人たちはみんなおかしいですよ。

 人の話をまるで聞いてくれないし、ここは子供の意見を尊重してくれる

 場所だって聞いていたんですけれど…ずいぶん話が違いませんか?」

 

その言葉にふところからタブレット式の

健康観察板を出したクロサキは「うーん」と答えます。


「まあ、その話はおいおいにしましょう…人の目もあるし、

 何ぶん今はジョン太くんも含めてみんなの健康状態を見ないとね。

 …えっと、ジュンくんはスポーツ適性があったから先に別の棟で

 すでに健康診断を受けているし…あ、いたいた。アンナちゃーん。」


そうして、クロサキが手を振る先には

ガムフーセンを作りながらソファの上に寝っ転がる少女、

ヘッドフォンで音楽を聴くアンナの姿がありました。

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