第十三話 ドローン 其ノ一

 次の日、ナナミと二人で銀色卵のある洞窟を訪れると、はすでに空中にあった。


 手のひらほどの大きさで、空中でホバリングしている。


 咄嗟に俺とナナミは左右に分かれ、洞窟の入り口に身を隠す。何の合図もなく、躊躇ちゅうちょすることもなく、前転からの警戒姿勢。


 背中に背負っていたこんを構えて、安全を確認する。


 ナナミと、こんな事が出来るようになったお互いの顔を見合わせて、思わず苦笑を漏らす。


 俺たちはつい一年前までは、普通の……運動不足を自覚する、子持ちのアラサー夫婦だったのにな。


「ふふ、ヒロくん格好いいね!」

「ナナミもな!」


 声を潜めて呑気な会話を交わす。だが二人とも、洞窟から聞こえる、密かな稼働音への警戒は緩めてはいない。


「ドローン?」

「そんな風に見えたな」


 途切れる事なく聞こえる、虫の羽音のような耳障りな稼働音、メタリックで銀色の機体。海鳥や虫などとは考えにくい。


「銀色卵は?」

「昨日置いた場所にあった」


 分離したのか、収納されていたのか。


「どうする?」

「少し様子を見よう」


 ナナミを手のひらで制してから、顔の半分だけで洞窟の中を伺う。


 機体中央のカメラらしき丸いレンズが、ギョロリと動き、俺を捕らえる。


 アニメや映画なら、次の瞬間マシンガン掃射がはじまりそうな場面だ。慌てて顔を引っ込める。


「危険かな?」

「レンズが付いてる。俺たちの存在は認知されているな。警戒度上げて」


 ナナミが表情を引き締めて肯く。危険な物だったら、このまま放置しておく訳にはいかない。街が襲われでもしたら大変だ。


 俺は左腕を失ってから、スリング・ショットを使えなくなってしまった。ルルに、ナナミと同じく棍の指導を受けている。


 だがこんな風に隠れながら、遠距離の敵と相対すると、もどかしさが先に立つ。やっぱり爺さんが来たら、早急に義手を作ってもらおう。


 いつでも動ける体制で、棍を握りしめる。息を詰めて相手のリアクションを待つ。


 一瞬の静寂の後、洞窟内にポーンという告知音が鳴り響いた。



『言語の特定を完了しました。日本語でのアナウンスを開始します』




▽△▽


「ちょっと! ヒロくん、喋ったよ! 日本語だよ! アナウンスだって! どうしよう!!」


 あ、ああ……てっきり攻撃的なものが来ると思っていた。いや、まだ安心するのは早い。ナナミに警戒を促してから、対話を試みる。


「音声対話が可能なのか?」

「当機のプログラムで対応出来る範囲であれば、可能です」


「ふわぁ〜!」


 ナナミが、関心した時のハナの声真似をする。あまりに可愛いので、最近身内で流行っているのだ。


「質問に答えてくれ」

「当機に設定された権限は三段階。開示可能情報の範囲内であれば、問題ありません」


「ふわぁ〜!」


 ちょっとナナミさん! 空気読んで下さる?


「いやぁ! びっくりしたね!! コレ『耳なし=地球人説』が確定なんじゃない?」


「その質問へのこたえは機密事項に抵触します。セキュリティの解除が必要です」


 ナナミの俺に対する言葉に、ドローンの返事が返ってくる。それほとんど、認めてしまってる気がするけど?


「俺たちに敵意はあるか?」

「当機に危害を加えない限り、防衛システムは作動しません」


 防衛システム……攻撃の手段は搭載してるって事か。


「機体の存在理由は?」

「当機は『調査・情報収集・探索』を目的としています」


「その楕円形の物体の、存在理由は?」

「あなた方が『銀色卵』と呼んでいるのは、当機の格納ポッドです。また、当機が収集したアイテムを収納し、輸送します。必要ならば生物を運ぶ事も可能です」


「どこに、運ぶ?」

「その質問へのこたえは、機密事項に抵触します。セキュリティの解除が必要です」


「あなたの、製造年月日は? 設計者の名前は?」

「西暦でおこたえします。当機は2063年三月製造、知的所有権はクロード・アレクセイ博士にあります」



「「…………」」



 その質問を……ズバッと出来るナナミを、俺は心から尊敬する。そして、この地に飛ばされて来て、ハルが最初に口にした質問を思い出していた。



『ねぇ、おとーさん……ここ、どこ?』



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