第十二話 手紙 其ノ二

 手紙はそれこそ何十通も入っていた。


 俺、ハル、ハナ宛ての三通書いてくれた人が多かったし、みんなは会った事のないナナミ宛ての手紙も多かった。


 みんな俺たちが再会出来た事を、驚くほど喜んでくれていた。『良かったな! 本当に良かった』『やっと安心できた』『心配で夢に見た』。


 俺たちはずいぶんと、色々な人に心配をかけていたらしい。


 さゆりさんなどは、俺たちがミンミンで世話になっている人に宛てたお礼状まで書いてくれていた。ルルに渡したら、とても喜んでいた。ルルはこの世界で長く暮らしている、さゆりさんにとても興味を持っている。


 何度も読み返し、交換して読んで、互いの手紙の内容について、大きな声で笑いながら話した。手紙の相手を知らないナナミに、三人で競うように『こんな人だよ!』と説明した。ナナミに、みんなを好きになって欲しくて、どうにも止まらない。


 現地の文字で書かれた手紙は、ナナミに読んでもらった。ナナミは仕事で文字を日常的に使っているので、読み書きのレベルは俺の遥か上を行く。


 俺は未だに読み書きは苦手だ。文字の習得に四苦八苦していると、ナナミは『少しは苦労しないと! ヒロくんは絵に頼り過ぎよ!』と、ドヤ顔で言う。


 言葉も文字もままならなかった頃、ナナミ踊りも踊ったが、絵でのコミュニケーションも試みたらしい。そして、ほとんど何も伝わらなかったらしい。


 俺はナナミの絵、個性的で好きなんだけどな! 


 ナナミに読めなかったのは、ハザンの手紙だ。ひどいクセ字で俺も全然読めない。なぜかハルだけは、理解が及ぶらしく、つっかえながらも読み上げてくれた。


 さゆりさんの手紙にあった通り、ハザンとロレンとアンガーで、じきにミンミンの街へ向けて旅立つそうだ。


 ロレンの手紙には『トルルザの本店に用事があって行くので、ついでに足を伸ばす事にしました』と書いてあったが、他の人の手紙には『顔を見に行く』『お前らに会いに行く』と書いてあったから、そういう事なんだろうと思う。


 なんとも嬉しくて、そしてくすぐったい。


「ねぇお父さん! みんないつ頃ミンミンに着くのかな?」


 手紙の日付は一ヶ月半くらい前。俺たちは子連れだったし、寄り道もしたし俺とあくびの怪我もあって『茜岩谷サラサスーン〜ミンミン間』の旅は、三ヶ月近くかかってしまった。


「馬車で飛ばせば二ヶ月くらいか? でも準備もあるだろうし、ロレンの事だから途中で商売もして来るんじゃないか?」


 トルルザの街でレイヤさんと合流するらしいから、もう少しかかるかも。


 いずれにしても、俺たちのミンミン滞在は、また少し延びそうだ。


 銀色卵もまだまだ調べてみたいし、ちょうどいいかもな!



 レイヤさんの手紙には『子供たちに無茶をさせてしまったのは、自分の責任だ。危ない目に合わせてしまい、本当に申し訳ない』と書いてあった。


 ハルの大活躍とその後の逃走劇については、しばらくトルルザ街を騒がせたらしい。


 ザバトランガの人たちにとって、耳なしは邪悪なものの象徴だ。旅の間何度も聞いた。


『火を吹き、鉄の玉を撒き散らして、笑いながら人を殺す悪魔』。それが耳なしだ。


 子供を庇う耳なしや、親を救うために勇気を奮う耳なしの子供などは、物語には出て来ない。


『あなた方が、誰も傷つけなかった事も、正しく伝わっています。教会の石頭が、少しは変わりつつあるのかも知れないですね』


 レイヤさんの手紙は、そんな風にしめてあった。


 きっとアトラ治療師長が、色々動いてくれているのだろう。美味い酒を一緒に呑める日も、近いかも知れない。




 実をいうと俺は、左腕を失った事を、誰の手紙にも書いていない。会えない状態で、心配だけさせても仕方ないと思ったので、ハルにも内緒にするように頼んだ。


 なんとなくオロオロして、言い訳を考えていたりする。


『大して痛くなかった←嘘』

『俺は耳なしだからまた生えて来る←大嘘』

『元からこうだった←支離滅裂』


 学校をずる休みしてゲームやってたら、友だちが心配してお見舞いに来てくれた時みたいだ。


 散々『きっと無事に帰る!』と約束して出掛けて来たからなぁ。


 あっ、でも! 爺さんが来るなら、チート級の義手を作ってもらえるんじゃないか?


 ロケットパンチとか、付けてもらっちゃおうかな!!

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