かくれんぼの話

日也

かくれんぼの話

「こんな話があるんだ。友達から聞いたんだけど、実際にあったことらしくてね。

 その友達の知り合いさんが住んでいたのはごく普通の住宅地で、近くにはごく普通の公園があったらしい。本当によくある、滑り台があって、ブランコがあって、砂場があって、よくわからない土管みたいな遊具があって……。近所には小学校も中学校もあったから、そこの子供たちがよく来ていたって。特別に寂しいわけでもないけど、特別に騒がしいわけでもないような、そんな公園。

 住宅地だから、夜になると明かりなんてポツポツとしかなくなるんだ。公園の中なんてなおさらで。公園の電灯は、ぐるっと取り囲むように数本あっただけなんだ。だから全然明かりなんて足りなくて、一応隅っこのほうにベンチがあるんだけど、そこにはが届いていなかった。

 ある日、その公園の近くを、塾帰りの中学生が通りかかった。塾帰りって言っても、その子は途中でサボって帰ってきただけなんだ。でも、このまままっすぐ家に帰れば親に怪しまれる。そう考えて、その公園で時間を潰そうと思いついた。住宅地だったから、夜だけれども、人通りが無いわけではないから、通りがかりの人に不審に思われないように、遊具の土管のようなものに入って隠れることにした。

 その土管をのぞき込んでびっくり。中にはなんと男の子がいた。小柄で、小学校低学年くらい。さすがに夜の八時にまだこんな小さな子が独りでいるのはおかしいぞってことで声をかけた。

『どうしたの?』

『かくれんぼしてるの』

『でももう暗いよ。友達はみんな帰ったんじゃないかな』

『かくれんぼしてるの』

『家は? お母さんは?』

『かくれんぼしてるの』

 同じことしか言わない。もうその土管の中に入るのは諦めて、ベンチに座っていることにした。謎の男の子が不気味だったから、通りがかる人に見つかることよりも安心できることを優先して、なるべく明るいところを選んだ。

 その時に、親に怒られることなんて気にせずに、家に帰っておけばよかったんだ。

 時間を潰すためにゲームをし始めた。イヤホンもつけて、周りのことなんか気にしないようにして。

 ふと顔を上げると、土管の中にいた男の子が目の前に立っていた。本当に目の前。つま先とつま先がくっつくぐらいの距離。

『かくれんぼしようよ』と男の子が言った。『おにいちゃんがおにだ』と。

 いきなり目の前に現れてこんなことを言われたら気味が悪くてたまらない。無視してもう帰ろうとベンチを立って、公園の出口へ向かった。

 ところが、なぜだかどうしても公園から出ることができない。どれだけ歩いても、必死で走っても、まったく公園の出口に近づけない。足踏みしているような感覚だった。

 諦めて足を止めた。もしかして、あの男の子を見つけ出したらここから出られるんじゃないか。その考えが頭に浮かんだ。いつの間にか、あの子は見えなくなっていた。だから男の子を探すことにした。

 でも見つからない。いくら小柄でも、公園内で隠れられるような場所はそう多くない。植込みの下も滑り台の下も、まさかとは思って砂場も調べたけれど、それでもいない。

 何度も同じところを見て回って、すっかり疲れてしまった。ちょっと休もう。そう思って、土管の遊具の中に寝転がった。

 どれくらいの時間がたったのか。『どうしたボウズ』と頭の上から声がした。見るとそこには、ホームレスのような男がいた。

『かくれんぼをしてるんだ』男にむかってそう言った。『次はおじさんが鬼だ』


 気が付くと、公園のベンチに座っていた。家に帰るにはちょうどいい時間だった。

 ちょっと気になって遠くから土管の中を覗いてみると、そこには人影があった。

 怖くなって走って公園から出た。




 ……っていう話。今考えたんだけどね」

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かくれんぼの話 日也 @hinari_s

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