第二十五話 二人で……

「僕はさ、君がいないと、独りなんだよ」

「両親がいるでしょ?」

「僕の親はね、僕と姉さんよりも、野菜を愛してるような人なんだ」

「なんか酷いね。我が子よりも野菜を愛するなんて……」

「僕の母さんと父さんにとって、野菜も我が子なんだよ」

「なんか、納得した」


「僕の親は変わった人でね、野菜を料理したら、本来の味じゃなくなると言って、生で丸かじりさせるんだよ! カボチャとかも!」

「うわぁ……」

「だから、自力で料理を覚えた。母さんも父さんも姉さんも、生のカボチャを丸かじりするような人だったから、料理の『りょ』の『り』の字すら、知らなかったんだよ! 酷くない?」

「う、うん」


 なんか、話がかなり反れちゃった。


「まあ、色々あって、僕は独りぼっちなんだよ。友達も少ないし……。だから、君がそばにいてくれると、嬉しいんだよ。

 孤独という闇から救われるんだよ。


 今になってやっと、僕は泉さんが好きじゃないのかと思って、君は僕が好きじゃないのかと思って、怖がっていた理由が分かったよ。


 僕は、孤独が怖かったんだよ。君が僕のそばからいなくなる事を、酷く恐れていたんだ。


 君が僕を――僕が君を――好きだと思っていない、もしそれが真実なら、僕と君は一緒にいられない。

 そうなるのが、怖かったんだと思う」


 僕は、大きく息を吸ってから――


「僕のそばにいて」

「…………」

「僕の事嫌い?」

「そんなことない。多分私は、君のことが大好きだよ」


 僕はクリスマスの朝の事を思いだしていた。

 僕と泉さんが出会ってすぐの会話を思いだしていた。


 今の泉さんとの会話は、あの時の会話に似ている。


 僕は、大切な思い出の一つであるあの会話を再現しようと思う。

 理由は特にないし、配役も泉さんと僕が逆だけど。


 まあ、いいや。



 僕は「ありがとう」と、含羞を帯びた笑みを浮かべて見せた。

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