第二十三話 泉さんの家族

「本当の私が、どんな人間か知って幻滅しちゃったよね……?

 私たち、別れようよ。月城くんにとっても、その方がいいでしょ?」


 一昨日までの僕なら、間違いなく泉さんを拒絶していただろう。だけど、今の僕は違う。


 僕は首を横に振った。


「どうして? 私は君を利用していただけなのに……」


「そんなの関係ないよ。確かに泉さんは僕を利用していただけかもしれない。

 でも君は、僕のそばにいてくれたし、楽しい思い出もくれた。僕を孤独から救ってくれた。とても、嬉しかったよ。

 それが、僕にとっての真実だ。

 泉さんは僕のそばにいていいよ。僕の両親は農家だから、お米とか野菜は、食べさせてあげれるよ」


 僕は語彙力も説得力も少ないから、僕の言いたいことが泉さんに伝わったのか不安だ。でも、言いたいことは言った、つもりだ。


「月城くんは優しすぎるよ。私はそんな君を騙し続けるのが辛い。だから、別れるよ」

「騙す必要なんてないよ。僕は君が好きだ。だから君がそばにいて欲しい。ただそれだけだよ。君は僕と過ごして楽しかったんでしょ? なら、そばにいてよ」

「ありがとうね。君は本当に優しいよ。でもね、私は君と今まで通り過ごせないと思う。だから、別れるよ」


「……分かったよ。最後に一つだけ教えて」

「何?」

「君が家に居られない理由を教えて。それを聞いてから、君と別れるか決めるよ」

「うん」


 そして――泉さんは僕に家の事情を、とても辛そうに語ってくれた。


 お父さんに虐待を受けていた事、家族の中で見方はお兄ちゃんしかいなかった事。

 詳しい事は話してくれなかったが、辛そうに涙をこぼす彼女を見て、ひどい目にあっていた事を知った。


 ブチッ!


 縄のようなものが、ちぎれた音が聞こえてきた。


 これはきっと、僕の堪忍袋の緒が切れた音だろう。


 僕は今、泉さんのお父さんをぶん殴りたい。てか、ぶん殴ってやる!


「何だよそれ? そんな理由があったなら、最初から話してよ!」

「だって、月城くんに話しても、どうにもならないから」

「家の住所を教えて。どうにもならなくても、やれることはやるよ!」


 なんとなく、ガッツポーズをしてみせる僕。


「どうして……どうしてそんな事を言ってくれるの!? 私は君を騙していたのに……」

「さっきも言ったでしょ? 僕は君がそばにいてくれて嬉しかったって。それに、僕は泉さんの彼氏だから、ね!」


 そう言って、僕はボロアパートを飛び出した。



 目指すは泉さんの家!

 泉さんのお父さんをぶん殴って蹴って、噛み付いてぶん投げて、プチ潰して、反省してもらうぞ!



 夜道をしばらく走って、僕は泉さんの家がどこか知らない事に気付き、元来た道を引き返して、アパートに帰った。



「ごめん。住所聞くのを忘れてた。それと、今日はもう遅いから、明日君の家に行くことにするよ」

「…………うん……」


 泉さんが小さな声で「月城くんはやっぱり月城くんだった」と小声で言った。

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