第2話待ち時間 悪魔

「あーあ、やっちまったな」


けらけらと、

にやにやと、

黒い小さな『ソイツ』は笑う。


「これは大失敗だ、致命傷だ。まだ出会って間もない彼女と二人で、この待ち時間」


とても愉快で仕方がない、という風に、

小さな翼をはためかせて。


「某ネズミの国で付き合いたてのカップルが別れるというのは良くある話だがーー良かったな、ある意味お前は最高に幸運だ。わざわざ千葉まで行かずとも、その経験を味わえるのだからな」


頭に生えた、

二本の触覚のようなものが、小刻みに揺れる。


『ソイツ』は時々、現れる。

僕が失敗した時に限って現れる。

何をする訳でもなく、

ただただ、僕の失敗を嘲りにやってくる。

非常に不愉快なことに、外見は……正しくは顔だけだが、僕に良く似ている。


悪魔のコスプレをした、僕のような姿。


手のひらサイズ、

僕にしか見えない、

僕にしか聞こえない、

僕の悪魔。


何か悪さをするわけではない。

状況が収束すると、勝手に消えていく。

ただ鬱陶しいだけの存在。

消せることに越したことはないけれど、消し方が分からない。

それに、『悪魔が見える』なんて誰かに助けを求めることの方が問題である。

慣れれば、どうということはない。

無視すればいいだけの話なのだ。


好き勝手に持論を振りかざす、テレビのコメンテーターのよう。

それに対する対策は相手にしない、

またはテレビの電源を落とす、だ。

後者については、僕そのものの命を終えることと同義なので、実行は不可だが。


ーーだが、まあ今回についてはこの悪魔野郎の言うことも確かだ。

この状況は非常に不味い。

食事中の会話が持つように、いくつかの話のネタは用意してきた。

しかし、追加の1時間も持つような内容ではない。

それ以前に、

昼前の空腹感、

立って待ち続けるという倦怠感、

弱冷房の廊下の微妙な熱気の不快感、

彼女も人間である以上、その感情を抱く可能性は十分にある。

だからこそ、ネズミの国ではカップルの喧嘩が多発するのだ。


「さてさて、列は動かず、二人の間の空気は重い。最悪の滑り出し。さあ、ここからどうする?」


悪魔は笑う、

僕の顔で、

僕の声で、

僕の不運を。


そして、僕を残して消えていく。

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