006-勇者カネミツとの再会

「どっせーーいっ!!」


 俺が盗賊の子分Aを投げ飛ばすと、周りからワッと歓声が上がった。


「おにーちゃん、がんばれー!」


『カナタさん、ふぁいとー!』


 というわけで、俺はリベンジマッチ……もとい、村の平和を守るため、盗賊団と戦っています。


「な、ななな、なんなんだテメエは!!」


「貴様らに名乗る名など無い!」


 一度言ってみたかった!


「なぁにぃ! 言わせておけば調子に乗りやがってこの野郎、ぶっ殺してやる!!」


 敵の親玉が怒りの形相で叫んだ!

 ……が、一向にやってくる気配がなく、村人達は不思議そうに首を傾げている。

 それもそのはず、実はコイツにシーフ御用達スキル「影縛り」をかけておいたので、しばらく動けないのである。


「テ、テメエ、何しやがった! 奇妙な術を使いやがって、卑怯だぞ!!」


「悪党に卑怯と言われてもなぁ……」


 まあ、勇者からも「それ使われると、動かない敵を殴る感じで印象が悪いから、緊急時だけにしてくれない?」とか言われてたけどさ。


「オイ、てめえこの野郎! コイツの命が惜しくなかったら親分を解放しろっ!!」


『きゃっ!』


 いつの間にか、物陰に潜んでいた盗賊の子分Bがエレナを後ろから羽交い締めようとして……


『いきなり何するんですかっ! ウォーターボール!!』


「うおわっ!?」


 バシャーーーンッ!!

 エレナの水弾に吹っ飛ばされた子分Bは、哀れにも大量の水と一緒にたるにハマってしまい、溺れそうになっていたところを村人に救出されていた。


『か弱い女性に乱暴するなんて、けしからんですよプンプン!』


 どうやら精霊の世界では、か弱い女性が大柄な男を宙に舞わせるらしい。


「なんだって辺鄙へんぴな村にこんなバケモノばかり居やがるんだ! ちくしょう! 野郎共、撤退だーーー!!」


 影縛りの効果が切れるや否や、盗賊の親分は脱兎のごとく逃げ出した。


『あっ、悪党共が逃げますよカナタさんっ! こらーっ、逃がしませんよーー♪』


 何故か楽しそうに追いかけていくエレナに、俺たち兄妹は思わず顔を見合わせた。


「聖なる泉に居た頃は、もっとおとなしい感じだったんだけどなぁ」


「ずっと閉じ込められてて鬱憤うっぷんが溜まってたんじゃない?」


 ……と、そんなたわいもない会話をしていると、盗賊連中が逃げていった先で再びざわめきが起こっていた。

 俺達が急いで駆けつけると、不運にも盗賊の親分は「本来自分をやっつけるはずの天敵」と遭遇していた。


「な、なんなんだテメエはっ!」


「貴様に名乗る名など無い!」


「また同じ事言われたぞチクショウ!!」


 地団駄じだんだを踏みながら悔しがる盗賊団の親分が何とも哀れ。

 だが、そんな事をつゆ知らない天敵は、笑みを浮かべながら腰の剣を抜いて宣誓した。


「まあ良いだろう。――この勇者カネミツ、貴様らを成敗してくれるっ!」


『「「思いっきり名乗ってるーーーーーーっ!!」」』


 思わず俺達が突っ込むと、勇者は少しムッとした顔でこちらを一瞥いちべつし、そのまま盗賊達と戦いを始めてしまった。


『アレが例の勇者なのですね』


「だなー」


「なるほど、あれがおにーちゃんを捨てたと噂の人か」


「その言い方は色々と誤解されそうなので勘弁してくれ」


 俺がゲンナリした顔でサツキに文句を言っていると……



「うふふ。あなた達、強いのね」



『!』


 のんびりと勇者と盗賊の戦いを眺めていた俺の横に、セクシーなオネーサマがやってきた。


「実はさっきの騒ぎも見てたけど、あんな厳つい大男達を相手に怯むことなく軽くあしらっちゃうなんて、ビックリしちゃった」


 この方はメアリーさんといって、ここからしばらく南に行ったところにある、エメラシティという街の劇団員だ。

 実はセクシーな見た目とは裏腹に本職は聖職者プリーストで、勇者と一緒に居る理由は、エメラシティまでの帰り道を護衛してもらうためである。

 つまり……俺がかつて盗賊に袋叩きされた時に治療してくれた方であり、俺が旅に出たきっかけを作った張本人である。


「勇者カネミツだって強いじゃないか。しかもイケメンときたもんだ」


「あら、君も悪くないと思うけど? 私、強い男が好きなの」


 これだよこれ!

 これにコロっとやられるんだよ!!

 ちなみに前回は「よく頑張ったわね。辛かったでしょう? 今はゆっくりお休みなさい」でした!


「せっかくだし、君にも護衛をお願いしちゃおうかしら?」


『ダメーーーーーーっ!!!』


「どわあっ!?」


 いきなりエレナが抱きついてきた!

 そのまま押し倒される格好で、俺はドテッと尻餅をついた。


「いててて、何なに、どしたの?」


『なんでもないです』


 何だそりゃー!?

 いきなりの状況に目を白黒させている俺や、ふくれっ面のエレナの様子に、メアリーさんはクスリと笑った。


「あらあら、ごめんなさいね。つい年下のオトコノコを見るとつい、ちょっかいをかけたくなっちゃうの」


 メアリーさんはそう言い残すと、盗賊達をコテンパンにやっつけたばかりの勇者のところに駆け寄っていった。


「うーん……一段落したみたいだし、俺らも帰るかなぁ」


『……はい』


 俺はエレナの手を取って立ち上がると、一緒にサツキのところに戻った。


「つーか、おまえ何ニヤニヤしてんの?」


「うへへへ~、良いモノを見させて頂きましたぞよ~」


 何その口調!

 だが、俺がサツキにツッコミを入れようとしたその時……


「やあ、初めまして!」


「っ!」


 まさかの勇者との遭遇エンカウント

 思わず無言で殴りそうになったけど、どうにか理性が勝ったので俺エライ!

 そもそもこの時点のカネミツと俺は初対面だし、コイツに恨みは無いわけだし。


「メアリーに聞いたが、君一人であの盗賊達をほとんどやっつけたというのは本当かい?」


「え、あー、うん」


 実際にはエレナも盗賊の子分を一人ぶっ飛ばして水責めしてたけど、俺は適当に茶を濁しておくことにした。


「おっと先に自分の名を名乗るべきだったね。改めまして、僕は勇者カネミツ。魔王を倒す旅をしているんだ」


 うん、知ってる。

 と、喉元まで出かかったけど、ぐっとこらえた俺エライ!(2回目)。


「勇者である僕が旅をしている理由は言わなくも分かると思うんだけどさ。君、僕と一緒に来ないかい?」


 勇者の言葉に、村人達はざわついた。

 それもそうだろう、勇者の肩書きは才能に恵まれた者のみに許される特権であり、国王から直々に与えられたモノだ。

 そんな勇者から直接オファーされるのは最高の名誉であり、しかも勇者パーティというだけで王宮に顔パスで入れたり、人様の家のタンスだって開け放題取り放題~……って、これはさすがに問題ありすぎるので、個人的には窃盗くらいは処罰すべきだと思うけど、世界最大の脅威たる魔王を倒す才能というのは、それほどまでに優遇されるモノなのである。


「どうかな?」


 爽やかな笑顔で再びカネミツは俺に回答を求めてきた。


「そうだなー……」


 理屈では分かっている。

 ここで承諾すれば再び勇者パーティに戻れるし、今度はお荷物になる事も無いだろう。

 そして世界を救い、英雄の一人として伝説に名を残せるかもしれない。

 理屈では分かっているんだ。


 ――そんな理由で納得できる程、世の中はカンタンじゃないって。


「お断りだ。おとといきやがれ」

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