「おはよう」


「おはよう」


 この言葉を聞いたことがない人はいないだろう。もちろんこの言葉を言ったことがない人もいないだろう。

当たり前だろうと思われるかもしれないが…

 時間が流れる中でこの言葉を忘れる。またはこの言葉が消える世の中になった。

 挨拶の減ったその中で、政府はある法を作った。


【挨拶基本法】


 国のトップは新しい時代の流れでできたこの法を説明するために会見をしている。


「どうしてこのような法を作ったんでしようか?」


当たり前のことを聞く記者に国のトップは遠くを見ながら

「挨拶が少なくなり、人との関係が気は希薄になっている」と答えた。

「いつ頃執行するんでしょうか」

「それについては…後日書面で」

この言葉を最後に記者会見は終わった。


「例のほうの試験のことなんですが…」

「どうなった」

「一人。見つかりました」

「じゃあ、そいつでいこう」


 黒のスーツにばっちり決めた髪型で、真っ赤なスポーツカーに乗ろうとした男に数人の女性が近寄る。


「須藤康夫(すどう やすお)40歳、独身ですね」

「なんで…あんたら。誰」

「政府の者です」

「ハッ…政府の人間が何」

「挨拶基本法はご存じですね…今回その試験も兼ねてあなたに試験体になっていただきます。」

「いきなり来て、はい。やりますなんて言うか。帰れ帰れ」


そう言い須藤が車に乗ると助手席に数人のうちの一人の女性が何も言わず乗った。

「おまえ!いきなり…」

「簡単なことですよ。一か月おはようと挨拶するだけです。それだけで見返りがあります。」


「見返り…」



「おはよう」

 須藤はその日からいつもは絶対しない言葉を口にしながら自分の席まで歩く。

 言われた側の様子は何が起こったとばかりにざわざわと騒がしい。普段は人を見下し、プライドが高い

そんな日が20日以上過ぎたある日だった。


「おはよう」


須藤がいつものように挨拶すると全員から返事が返ってこない。

「俺が挨拶したのに、お前ら挨拶なしか」

そう言うと一人の社員が席から立ち上がる。

「いつものあんたと同じことをしてんだよ。数日ぐらいで…今までのがチャラにはならないんですよ」


その言葉は須藤には効果的だった。


次の日の朝

須藤は挨拶をやめた。


「あなたたち誰なんですか」

須藤が挨拶をしなかった数分後

須藤の部署にガタイのいい男たちがドシドシ歩き、須藤を連行していった。


「なんなんだよ。お前らは!!」


会社の出入り口まで連行されるとそこに助手席に乗ったあの女が立っていた。

「須藤康夫。挨拶法違反で連行します」

「そんなこと聞いてねぇぞ」

「言いました。あなたが聞いてなっただけです。」



無慈悲に連行された須藤

「被告人 須藤康夫! 被告人に【無期の24時間挨拶し続ける】をいいわたす」

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