第38話 強化兵士

 彼らがリーパーに配属されてから3週間が経った。部隊の皆もリーパーには慣れたようだ。

 また今日もロメオ中尉、ガトー少尉、デイリッシュ少尉の3人は、11時頃にリーパーの所へ集合していた。

「今日は休みにする。俺もお前達の面倒に疲れた。」

 リーパーはゼリーを飲みながら手で3人を払った。

 そんなやる気の無いリーパーに、デイリッシュ少尉は腹を立てた。

 そして、リーパーに文句を言う。

「疲れたって言ってますけど、隊長は何もしてませんよね!」

 しかし、リーパーは怒らないで多きなあくびをした。

「あぁ、、、。そうだな。」

「すいません!おい、デイリッシュ!隊長に失礼だろ!」

 ガトーは代わりにリーパーに謝った。そして、デイリッシュを叱る。

 しかし、彼女は、

「ガトー君は黙ってて!」

 激しく反抗されてしまった。ガトーはそんなデイリッシュに怒りながらも、呆れて怒る気力も無くなる。

「どうして隊長は私達に訓練をさせておいて自分では訓練をしないんですか!?」

 デイリッシュはリーパーにそう怒鳴った。しかし、リーパーは今度は持参したモンスターエナジーを開けて、ゆっくりと飲み始めた。

「それで。あぁ、何で俺が訓練をしないかか。」

 モンスターエナジーを1口飲むと、デイリッシュの質問に応じた。

「なぜ俺が訓練をしないか。それは――――、」


「―――俺が強化兵士だからだ。」


 リーパーはそう言った。 

「何ですか。その『強化兵士』って、、、。」

 デイリッシュはリーパーに聞く。

「まぁ、あれは2、3年前の話か――――。」



―――3年前

「それではよろしいんですね?」

「大丈夫です。」

「では、この書類にサインを。」

 ストライク・ブラックに入って間もないリーパーは、ストライク・ブラックのある施設に来ていた。

 手渡された書類をよく読み、サインをしようとしているところだった。

「リーパー!何やってんのさ!?」

「師匠、来ていたんですね。」

 後ろから、メガネをかけた女―――リーパーの師匠が急いでやって来た。

「貸して!」

 師匠はリーパーから書類を取り上げた。

 そこには、『強化兵士』とそれになる為の要綱が記してあった。

「リーパー!何で君は―――、」

「良いんです。自分はこれで死んでも。上手くいったらそれはそれで良いし、失敗して死んでもそれで良いと思ってます。」

 強化兵士になる為の道のりは、ギャンブルだった。失敗すれば死に、成功すれば強大な力が手に入るのだった。

「そんな事しなくても、僕が君を訓練すれば良いじゃないか!」

「自分は劣った人間です。この実験に優秀な人を使う訳にはいきません。」

 すると、近くに居た職員にナイフを向ける。

「君達が何かしたんじゃないろうな!?」

「師匠、これは自分の選んだ道です。」

「、、、。」

 リーパーがそう言うと、師匠は黙ってナイフを下げた。

 そして、リーパーの肩を強く持った。

「君は死ぬのが怖く無いのかい?」

 すると、リーパーはこう答えた。


「いいえ、生きている事の方がよっぽど怖いです。」


 すると、師匠は彼を放した。

 そして、近くの職員の胸倉を掴む。

「僕のリーパーに何かあったら容赦しないよ。」

「我々も彼の命を無駄にはしません。」

 職員の眼差しも本気だった。

 師匠も彼を信用し、彼の胸倉を放す。

 そして、生きる事に絶望していた少年にこう言った。

「大丈夫。生きている事は怖くなんか無い。絶対に僕の所へ戻って来てくれ。」

「あなたがそう言うのならば。」

 そして、自身の手で書類にサインをした。



 翌日。リーパーの体には肉体改造の為に大量の薬品が投与された。

「リーパー、目を覚まさしてくれ!頼む!」

「うぅ、、、うあぁぁああ!」

 リーパーは薬品のショックで気を失ったが、師匠の必死の呼びかけに目を覚ました。

 しかし、彼の体を感じた事の無い程の激痛が襲う。

「ハァ、、、ハァ、、、ハァ、、、ウハァァッ!」

「リーパー!しっかりしてくれ!リーパー!」

 師匠はリーパーの手を握る。

 しかし、彼の体からは力が抜けていった。

「よし、何とか生体反応はあるな。順調だ。」

 主任研究員はそう言って、大量の薬品をリーパーに投与し続けた。

 そんな彼に師匠は銃を向けた。

「何が順調だ!意識が飛んでるじゃないか!もう止めてくれ!」

「私の計画は順調なのだッ!黙って見ていろ。」

 主任研究員は師匠の銃を吹っ飛ばして、師匠に怒鳴った。

「つまみ出せ。」

『ハッ!』

 近くにいた警備兵が、師匠を取り押さえた。

「放せッ!」

『失礼しますよッ!』

 師匠が激しく抵抗した為、警備兵がスタンガンを当てて気絶させた。

 そして、警備兵は彼女を別室に連れて行った。

―――リーパー、、、頑張れっ、、、、。



―――一体、ここはどこだ?

 リーパーは死体がゴロゴロと転がっている荒野に居た。

 足元の地面が血の色に染まっている。そして、薬莢がゴロゴロと転がっていた。そんなリーパーに純白のワンピースを着た少女が手を振っていた。この世の物とは思えない程の美女だった。

「こっち。」

 その少女は真っ赤な川を挟んで向こう側で手招きしている。

 しかし、その先は明るく光っているだけだった。リーパーにはその先は分からなかった。

「その先には一体何がある。」

「あなたにとっての楽園。全てが1つになって、どこからどこが自分かが分からない。何も感じないし、誰もあなたを傷つける事も無い。」

「俺は死んだのか?」

 リーパーは少女に尋ねる。

「いいえ、あなたはただ生と死の狭間に居るだけ。さぁ、こっち。」

 少女はリーパーに手招きをする。

 しかし、リーパーは少女に背を向けた。

「すまない、俺はまだ死ぬ訳にはいかない。」

「どうして?生きていればまたあなたは他人と傷つけ合うのよ?死はあなたも望んでいたでしょう?」

「あぁ、1度は望んだかもしれない。でも、まだでやり残した事があってな。師匠を待たせているんだ。そっちに行くのはまた今度の機会にする。」

「必ず人は、命は死ぬのよ。」

「分かってる。でも、出来るだけこっちでがんばってみる事にする。」

「そう。あなたは生きる事を望んだのね。」

「生きる事を望んだ訳じゃ無い。ただ、そこには人との繋がりってモンがあるだけだ。」

 そう言ってリーパーは血だらけの大地の向こうへ歩いていった。



「そんで俺は目覚めた。どこに歩いていって、どうなったかは思い出せないままだ。」

 リーパーは自身の話を終えた。

「すみません!私、隊長の事全然知らなかったのにヒドい事言って、、、。」

 デイリッシュ少尉はリーパーに謝った。

「別に構わない。分かったらさっさと休暇だ。」

「は、はいっ!ありがとうございます!」

「「失礼しました!」」

 そう言ってリーパーは彼らを追い返し、3人はどこかへ行ってしまった。



 その晩、リーパーはミーティンググチャットに参加していた。

『マスター、スターストライプス島の襲撃作戦要綱が完成しました。皆さんにもデータを送ります。』

 ストライク・ブラックの作戦本部課長のヴァルター中将が、作戦要綱の説明をミーティングチャットで開始した。

『我々は、反アメリカ戦争参加阻止作戦のスターストライプス島襲撃作戦を『ダークマター作戦』と呼称し、実行します。まず、スターストライプス島近辺の海域にイージス艦3隻、カシワギ級原子力航空空母『カシワギ』を配備し、カシワギには、歩兵輸送用のオスプレイ12機を配備。上空には、AC-1302機を配備します。スターストライプス島は、元となる島の周りを囲むように3つのプラントが海上に存在し、行き来出来るようになっています。元となる島を『アルファ』。そして、ここを『ブラボー』、その隣を『チャーリー』、そして、最後の島を『デルタ』と呼称します。そして、それぞれの島に3機ずつオスプレイで兵員を輸送。1つの島に72人の兵士を送り込み、制圧します。作戦時間は最大で24時間です。1つの島ごとに指揮権を持つ人間を1人ずつ配備します。マスター、指揮権を持つ4人を指名してください。』

『ダークマター作戦における現場指揮権をギャラルホルン、ゴースト、プレデター、そしてリーパーに付与する。良いな。』

 マスターが指揮権をリーパーを含めた4人に付与した。

『それでは、作戦は5日後の午後11時に開始します。2日後にカシワギ級に集合でよろしいですね。』

 ミーティングチャットは、1つの組織を除いて賛成で可決された。

 唯一反対をしたのはバチカンだけだった。

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