第19話 リベンジ・フェーズ

「痛てぇ、、、。」

 シャドウは体を抱えながら食堂で朝食を取る。

「それで、昨晩はどうだったんですか。」

「最悪だよ!!何で俺の部屋なのに俺が外で寝なきゃいけん無いんだよ!?しかも滅茶苦茶殴ったり蹴ったりされたんだぞ!!流石にあれは気持ち良く無い!!あんな女連れてくるんじゃ無かった!!」

 シャドウは朝から機嫌がとても悪い。リーパーは朝食のクロワッサンを口に放り込む。

「ま、お前のやった事だからお前が責任取れよ。」

「今から海に捨ててくるわ!!」

「まぁまぁ、そのうち良い事あるって。」

―――お~?それは大好きの裏返しじゃないのか~?

 リーパーは内心ではニヤニヤしていたが表情は普通だった。

 リーパーは緑茶を飲みながら端末を開く。今日はここでIRA幹部らが対英国作戦のミーティングを行う事になっているらしい。

「なぁ、今日はIRAがミーティングをするっぽいぞ。」

「あぁ、そうそう。何か国家社会主義連合の幹部も来るって噂が広がってたぞ。」

「ほー、だからナチスが昨日居たのか。」

「そうなんじゃない?知らないけど。」

 ストライク・ブラックは連合組織。世界中から世界を平和にする為、様々な組織が手を取り合い、助け合っている。

「ま、ユーロの連中は嫌いだけどな。ナチ。」

 ヨーロッパではナチスは嫌われているどころか、ナチ式敬礼やハイル・ヒトラーといった言葉を公衆の場で発すると逮捕されてしまうのだ。

 しかし、それを裏返せばナチスは今もなお世界中から恐れられている組織なのだ。

『あぁ、居た居た。私を置いて朝食とは無礼なヤツね。』

「「どの口が言っとるんじゃボケ!!」」

『こら!!日本語禁止!!』

『『イェス・マム!!』』

 食堂にパジャマ姿のバラライカがやって来た。髪の毛はボサボサで所々寝癖が立っている。

「なぁ、お前も一応女なんだから身だしなみってモンをしっかりしないと嫁に行けないぞ。」

「べ、別に良いわよ!!」

―――だって、シャドウ君が旦那様になるからな。

 リーパーは2人のやり取りを腕を組んで観察していた。

「ちょっと、さっきから何よ?」

「いや、朝から夫婦喧嘩かな~、って。」

「「だから夫婦じゃ無い!!」」

「息ピッタリじゃないか。って、痛い痛い、、、。」

 リーパーはバラライカとシャドウにボコボコにリンチされていた。すると、食堂にナチスの親衛隊に囲まれた幼女が食堂に入ってきた。

「そこのお前達!!総統閣下代理殿の前で見苦しいぞ!!」

 シャドウとバラライカは親衛隊員に怒鳴られた。そして、リーパーから離れる。

 リーパーは体が自由になると、すぐに立ち上がり、ナチスの近くに行って右手を斜めに上げる。

「ハイル・ヒトラー。」

「うむ。下ろしたまえ。」

 その幼女―――総統代理はリーパーに手の平を見せると、リーパーは右手を下した。

「さっきは大丈夫だったか?リーパー。」

「えぇ、お気づかいありがとうございます。代理閣下。」

「うむ。だったらよろしい。」

 リーパーは小さな幼女相手に頭を下げっぱなしだ。

「ちょっとあんた?そいつ誰よ?」

「失礼な!!このお方はアドルフ・ヒトラー総統閣下の代理をされているルーン・シーベル閣下だぞ!!」

 バラライカは親衛隊に怒鳴られ、白銀に光っているP-08ルガーを向けられた。

 P-08ルガーとは、ドイツ帝国時代からあるトグルアクション式ショートリコイルのハンドガンである。銃弾を撃った時に銃上部のレバーが尺取虫の様に作動する。しかし、その複雑な構造故によく弾詰まりが発生する。9×19mmパラベラム弾を使用する。

「どうされますか?閣下。」

「悪いな。こいつは新入りなんだ。見逃してくれ。」

 シャドウは総統代理に頼み込む。

「まぁ、私はスターリンの様に心が狭い訳では無いし、誇り高き党員は心は広く持つべきだな。まぁ、大目に見てやれ。銃を下すんだ。」

「はっ!」

 総統代理の指示で親衛隊員はルガーを下した。

「代理閣下。この後のご予定は。」

 リーパーは今後の予定を代理閣下に尋ねる。

「IRAの連中とミーティングがある。もうそろそろ時間だ。」

「閣下。IRAの代表がご到着なさいました。」

 親衛隊の1人が代理閣下にそう通達する。

「そうか。では参ろう。リーパー。お前も来るか?」

「代理閣下がそう仰るのなら喜んで。」

「うむ。そこの2人も来たまえ。」

 総統代理はシャドウとバラライカを指して自分の所へ呼ぶ。

「はい、ただいま。ほら、行くぞ。」

「ちょ、あんた!」

「いいからいいから。ほら、行くぞ。」

 シャドウはバラライカの右手を引っ張って総統代理に付いていく。

「はぁぁぁぁあ////」

―――お、姫様は顔が真っ赤になられているな。ハッ、何でかは知らんが。

 リーパーは見ていた。バラライカがシャドウに手を引かれて顔を真っ赤にしているのを。

―――まぁ、あれはまだ未完成なんだろうけど。今はこれで良いんじゃないか。



「お待ちしておりました。総統代理閣下。」

 暗いミーティングルームにはIRAの幹部が数名座っており、テーブルに埋め込まれている液晶パネルで顔が照らされていた。

「早速始めましょう。反英国作戦についての話し合いを。さぁ、リーパーさん達も座って下さい。」

 リーパー達も空席に座った。

「ドイツは第一次世界大戦からの仲でしてね。その節はありがとうございました。」

「あれは我が党では無いが、独立が上手くいって良かったな。」

 第一次世界大戦時中にアイルランドはイギリスと独立戦争をしていた。戦争という戦争では無く、IRAが英軍相手にゲリラ作戦を展開していき、さらにIRAはイギリスの敵であるドイツに物資や武器を要請した。ドイツは負けてしまったものの、アイルランドは独立を果たした。しかし、北アイルランドは未だイギリス領であり、今もなおアイルランド島全体の独立を提唱し、暫定IRAなどが対英国テロなどを行っている。

「えぇ、初期のIRAが頑張ってくれたお陰です。しかし、北アイルランドは未だに忌々しいイギリス人共が陣取っています。そして、我々の復讐は終わっていません。長きに渡ったイギリス植民地支配の復讐はイギリスを滅ぼすまで続くのです。」

 IRA幹部の1人は室内の同志諸君に対英国への熱い思いを語った。

「それに、あの国は身勝手だ。そんな坊やにはお仕置きが必要だと思わないかね。」

 ミーティングルームに新たな客が入ってきた。

「遅いじゃないか。EU。」

「うるせぇ、ナチ公。」

 彼はEU諜報部のメイトリクス大佐。火の点いた葉巻を吸っている。

「おい、葉巻を消せ!!体に悪い。」

「ったく、ナチスは吸い物にうるせぇな。」

「総統閣下はタバコを大変嫌っていたようだ。私もタバコは嫌いだ。個人的に。」

 EUとナチスは仲が悪い。一緒にしておくと化学反応の様に何かが起こるのだ。

「よせ、同士討ちをしている暇は無い。」

「マ、マスター!!」

 中央のモニターにストライク・ブラックのマークが表示される。そして、ストライク・ブラックの長官―――マスターの声がする。

 マスターがミーテングに参加すると、争いは一瞬で終わった。メイトリクスも葉巻を消す。

「今の我々はイギリスを潰す事が目的だ。フェーズ1、対イギリスはIRA主導の元、テロをしてイギリス国内で混乱を起こす。軍で干渉は行わない。戦争を回避する為だ。そして、フェーズ2。イギリスが弱った所でEU主導による全面戦争だ。」

 マスターがそう言うと会場の組織の幹部達は一斉に拍手をした。

「そうだそうだ!!」

「流石マスターだ!!」

「ストライク・ブラック万歳!!左手に投票箱を、右手にアーマライトを!!」

「ジーク・ハイル!!」

 マスターの考えに幹部達は賛成をしている。誰1人として反対をする人間はいなかった。

「我々NSはIRAに物資などの支援をしよう。他に何かあれば連絡をしたまえ。」

「心強いです。ありがとうございます。」

 総統代理とIRA司令官は力強い握手を交わした。

「すまない。EUは干渉出来ない。まぁ、頑張ってくれ。」

「ありがとうございます。我々は戦争までに忌々しいイギリスを弱らせておきますよ。まぁ、崩壊してしまうかもしれませんがね。」

 IRA司令官はメイトリクスとも握手を交わした。

「我々からは戦闘員を派遣しよう。しかし、EUの干渉は避けなくてはならない。リーパー、シャドウブラッド。向かえるか?」

 マスターはリーパーとシャドウに問う。

「えぇ、勿論ですよ。マスター。」

「イギリス人共に一泡吹かせてやるぜ!!ハハハ!!」

 2人はあっさり承諾した。

「よろしい。では、イギリスへのテロは全てIRAに任せる。良いな?」

「えぇ、勿論です。早速取り掛かります。」

「期待している。」

 そう言ってマスターは席を外した。IRA司令官は脱帽をする。

「それじゃ、俺達はどこに行けば良い?」

 リーパーはIRA司令官にそう言う。

「まずはアイルランドにいらしてください。そこであなた達に部隊を付けますよ。」

「分かった。IRA本部だな。」

「えぇ、そうです。お待ちしております。では。」

 そう言ってIRA司令官は部屋から出て行った。

「それではリーパー。頑張りたまえ。さらばだ。」

「えぇ、それでは。ハイル・ヒトラー。」

 総統代理も親衛隊に囲まれながら部屋を後にした。

「さ、支度をしよう。明日出発だ。」

 リーパーはそう言うと部屋を後にして自分の部屋に戻った。


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