第2話 重要分岐点

一人旅、 何者からも縛られずに自分のペースで物事を運ぶことができる

唯一無二の癒しの時間。 都会の喧騒から離れられ一人の時間を自由に満喫する、

それこそが旅の醍醐味。

心身共に休むことのできるかけがえのない瞬間だと分かっているからというのも

あって筒城一つつしろはじめは旅先へと足を運んでいた。

しかしながらそんな淡い期待はすぐに打ち崩されることとなる。


 —――――――――――――――――――――――


「すみません、 電話させていただいた筒城というものですが 」


 筒城は民宿に着いて早々、 その宿の主とわれる男性に話をかけた。

玄関先にいたその男性は振り向くとすぐに優しい笑顔で挨拶を交わし

家の中へと案内をし始めた。


「いやぁ、 まさかこんなボロい所にお客様が来てくださるなんて」

「何言ってるんですか、 全然綺麗じゃないですか。 海も近いし最高ですよ 」

「ハハッ、 そう言って貰えると嬉しいんだけどね、 まぁ一週間ゆっくりしていくといいさ」


 二人は軽く会話をしながら二階の方へと上がっていく。

途中、すれ違いざまに女の子がこちらを見ていたが、筒城は気にすることなく

その男性の後へとついていった。


「この部屋で良かったら好きに使ってくれて構わないから。

では私は下にいますので。」


 男性は軽く頭を下げ、下の階へと降りて行った。


「ふぅ。 しっかしいいところだな、 人は良いし眺めはいいし、 何より静かだし 」

「・・・ 二番目は少し意味合い間違ってるよ 」

「何を言って、 優しい人たち・・・ って・・・ うわぁっ! 」


 窓の外を見ていた筒城が振り返ると、 先程すれ違った少女が

いつのまにか部屋の中へとはいっていた。


「いつからそこに!? 」

「あなたが外を見始めた辺りから 」

「わりと最初からじゃん! って、 さっきの言葉はどういうことさ 」

「話した通りよ、 優しいのは表面だけ 」

「まさか、 物凄く凶暴な・・・ 」

「いや、 それはない。 あの温厚夫婦に限って 」

「ないのかよ! じゃあなんなんだよ 」


 すると少女は少しだけ真剣な顔立ちになって、

筒城に話し始めた。


「実はこの家は今、 ある重要な局面を迎えてるの 」

「まさか店が潰れそうとか・・・ 」

「両親が離婚する一週間前 」

「案件が重たすぎる!!! 」


――全く、 何てタイミングで来てしまったんだ。

せっかく羽を伸ばせると思っていたのに、 これじゃあ逆に気が

休まらないじゃないか。 そういう理由なら明日にでもここを・・・

そういえば何でこのは俺にこんなことを言って来たんだ?


筒城は俯き考えていたが、 ふと顔を上げると少女が

笑顔でこちらを見ていた。


――おぉ、 俺の勘が言っている。 この後絶対に面倒な展開が待っていると。

これ以上目を合わせたら、 確実にやられる!


「離婚の阻止を手伝って? 」


――ほーら来たよ! やっぱりきたよ!


そう思っていた筒城だったが、少女の言葉攻めマシンガントークがそれを逃がさなかった。


「手伝ってくれるよね? きっと手伝ってくれるよね?まさかこんな可愛い女の子の頼みを断るわけないよね? いやぁ助かるなぁ、 こんないい人がいてくれて! 」

「いや、 ちょ、 話を・・・ 」

「あ、 ついでに連泊できるように宿泊日数伸ばしておいたから! あ、 お金のことは心配しないで、 私のポケットマネーから出しておいたから 」

「職権乱用!!? てか、 何気に逃げられないように自分のお金使ってるし! 」

「ドヤァ 」

「ドヤァじゃないわ! 俺に何をさせようと! 」

「この問題だけでいいから協力して欲しいの。 お願い、 もしうまくいったら何でも一つだけ言うこと聞いてあげるから 」

「・・・ハァ、 分かったよ。 学生の分際である俺に何が出来るか

分からないけど協力するよ 」


そして筒城は少女によって強制的に協力することとなった。

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