正しさ

綿麻きぬ

自問自答

「あなたに聞きます。私は正しいのですか?」



 心の奥のザラザラした感情が私の肌を舐める。ザラリとした感覚は警報を鳴らす。これ以上、考えてはダメだと。


 考えたら、この不安定な均衡で保たれた日常はちょっとした刺激で崩れてしまう。


 それでも私は考えるのを止めない。なにか今の日常から変われるかもしれないから。



「私は今、様々なものを犠牲に頑張っています」



 何を犠牲にしているのかも分らなくなって、ただただ、大事にしていたものを犠牲にしている感覚だけがあって。大事なものを守るはずの犠牲が大事なものすら犠牲にするなんて、とんだ皮肉だ。



「犠牲にしているものは時間でしょうか? 趣味でしょうか? 自由でしょうか? それとも心でしょうか?」



 私にはもうそれらの区別も無くなっています。私にはどれを犠牲にしているかなんても分からない。



「私は頑張ってます。何かをがむしゃらに頑張っています」



 それが何かは分かりません。何を頑張っているかも分からない頑張りなど意味があるのでしょうか? でも何かを頑張っている、それはか弱く脆い柱なのです。ただ頑張ることで自分で存在価値が認められているような気がするのでした。



「だから私は何かを犠牲にして、何かを頑張っているのです」



 そんな私は正しいのですか? 何を犠牲にしているのかも分からず、何を頑張っているのかも分からず。そんな私は何者なのでしょうか?


 ですが、社会は何者かである私を求めます。私は私、私以外は私じゃないはずなのに。



「こんな大人を目指していたんでしょうか?」



 えぇ、知ってますとも。私はそういう人間になってしまったということを。


 未来に希望を持ち、生きてきた、あの人生はなんだったんでしょうか?


 あんなものはマヤカシだった。


 だっておかしいでしょ?


 未来に希望を持って生きていたあの頃が本当に私の人生だったら今はこうじゃない。


 友達とバカなことしてたことだってもう、思い出したくもない、いいや、思い出せない。


 だってさ、タイムカプセルを埋めたことだってもうすべて嘘だから。


 大人になってしまった自分はもう何も過去にやろうとしたことはできない。大人になったらやろうと思っていたこともできない。


 私はもう何もできない。


 大人になるってことはこういうことなんだろう。



「もう一度聞きます、私は正しいのですか?」



 答えはもう出た。



「そう、これが正義、たとえ悪だったとしても」


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正しさ 綿麻きぬ @wataasa_kinu

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