讐撃の機攻少女隊《フルメタル・ガールズ》

KAI@WordsARTWORKS

序章

プロローグ

 発達した科学技術、新たなエネルギー源、そして遥か彼方の新天地への渇望を背景に、人類は宇宙への進出を加速させていた。

 確立された亜空間圏界面波乗り航法により、様々な恒星系へと旅立った人類は、そこで惑星を開拓し、その繁栄は揺るぎないものとなっていった。

 その一方で開拓初期の惑星では、かつてのゴールド・ラッシュのような熱狂の中で、豊かな生活、素晴らしい未来を夢見てもがき足掻く多くの者たちで溢れていた。

 ノックス恒星系第四惑星イルダール。惑星改造テラフォーミングに五十年、そして正式に入植が開始されてから、さらに五十年余りが過ぎ、二十三世紀も終わりに近づいた頃。

 イルダールを統括している地球資本の企業連合テラリスは大量の入植者を送り込み、豊富な鉱物資源の採掘に従事させていた。

 しかしその待遇は酷いものだった。過酷な労働、不衛生な環境、不足する物資、一攫千金を夢見ながらその日の食事にも事欠く生活が続く。テラリス管轄下の一部の都市を除けば、文明が数世紀後退したような有り様だった。

 地球から輸送できる限られた質量では、社会的、経済的インフラの整備は全く追い付かず、後回しにされてきた入植者たちの生活の現状は一向に改善されなかった。

 入植者の世代は二世、そして三世へと移り、数パーセントの地球資本がイルダールの経済の九十パーセント以上を牛耳る現状に不満を募らせ、初期入植者とその直系の世代を中心にしたイルダール同胞団が結成された。

 同胞団は入植者の生活基盤の整備と安定、労働の待遇改善を求めて支持者を集め、次第にその勢力はテラリスも無視できなくなりつつあった。

 同胞団の影響力が惑星全土へと広がっていく中、ついにイルダールのテラリスからの独立の声が上がり始めた。

 南方にある大陸最大の鉱山都市リスタルを首都と定めた同胞団は攻勢を強め、北のテラリス支配地域セリセアの境界線付近では武力による衝突が何度も繰り返された。

 そして徐々に寒さが体を蝕み始めた十月のある日、テラリスはついに集結させていた軍を本格的に動かした。

 後に“イルダール内戦”と呼ばれる戦争の勃発である。

 軍の兵士は少なかった。だが彼らには他に大きな戦力があった。同じ入植者でありながら同胞団からもはみ出した者たち、通称アンダー・コマンド。居場所のない彼らは、裏切り者とそしられながら、かつての仲間に銃を向けることを選んだ。

 軍の目的は境界線に沿って点在する街を襲撃、惑星開拓用重機ビルド・ワーカーなどの脅威となりそうな車両や器機、施設を破壊して同胞団を丸裸にし、最終的にリスタルを陥落させることであった。

 かくして軍による侵攻は開始され、中継都市としてセリセアに近いメイザルの街もまた、その攻撃を受けた。

 そこに住んでいた十七歳の少女ルシルにとって、それは突然のことであった。

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