SCP-020-N 『急用』

今日は金曜日、時刻は午前11時半。定期テストは(無事とは言えないが)何とか終わり、五月がもの凄く歓喜していた。コミュ症はこういう時に感情をコントロール出来ないので、ただひたすらにうるさい。

「やったー! 終わったー! やったー!」

「うるさいですわよ、五月さん」

「うるせえ、黙れ」

二人からまとめて注意を受けてようやく落ち着く五月。だがしかし、まだ興奮が抜けきっていない五月に、笑顔で残酷な現実を突きつける。

「なあ五月、《結果が大事》なんだからな?」

「はうっ!」

「そうですわ。解き直しも大事ですし、必ずやるんですよ?」

「う、うう…分かってるよ、大丈夫」

少し涙目だが、俺達の言ったことをキチンと守るつもりらしい。こういうところは偉いと感じられるので、ご褒美をやることにした。いってもどうせゲームとかだろう。

「まあ、それでもよくやったと思うぞ。俺たちの指導にもよく耐えて。そうだな、お前にはご褒美をやろう」

「えっ!?……えへへ、嬉しいな」

「……えっと、あー、なんというか……」



なんだろう、もっと「もう私も子供じゃないよー!?」とかいう反応が欲しかったのだが、受け入れられてしまった。なんだかやってるほうが気恥ずかしくなるのでやめて欲しい。

「餅屋くん、私、ご褒美は――」

「イチャイチャするのは勝手ですが、私の目も考えてほしいですわ」

「「アッ、すいません」」

そんなことを話していたら、ポケットにある財団用スマホがけたたましく震える。五月と緋鳥に断ってその場を離れるが、この着信音は『緊急用』と決めているので、収容違反でも起こったのだろうかと思い、急いで電話に出る。

「はい、こちら餅屋持葉。何かありましたか?」

「あ~、餅屋く~ん、助けて~!」

「え。一体どうしたんですか?」

電話に出た相手は春夏冬あきなし先輩だった。切羽詰まった様子で、泣きそうな勢いだ。レベル3がそれほど焦るということは、財団でも収容が難しいとされるKeterクラスの収容違反でも起こったんだろうか?

「詳しいことはあとで話すから~! 取りあえず来て~! 牡丹ちゃんが~!」

「は、はい。分かりました。」

何にせよ、早く行くべきだろう。

確保、収容、保護の精神に則って。

まずは、五月と緋鳥に帰ることを告げるべきだろう。

「あ、餅屋くん。ご褒美を考えたんだけど、今から一緒に―――」

「ああ、すまん。少し急用が入った。ご褒美はまた夏休みの時な」

「えっ………」

五月が凄いショックを受けている。何とか考えてくれたんだろうが、それでもしょうがない。非常に申し訳ないが、今は緊急事態だということを伝えたところ、泣きそうになりながらもなんとか理解してくれた。反応からすると、欲しいのはゲームじゃなく、別の何かも知れない。

「う、うう…しょうがない。急がなきゃならないならいいよ」

「ありがとう。じゃあ、行ってくる」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「それで、何の用かと思ったら…。」

「そう~…。棚空ちゃん、なの~」

「ああ、帰りてぇ~」

なんか、五月に申し訳ない。せっかく願いを断ってまで来たのになあ。どうやら、春夏冬先輩は朝からずっと棚空先輩の看病をしていたらしいが、急に抜けれない仕事が入ったらしい。それで、俺に頼んだと。

「僕も僕で、学生としてやらなきゃならない事があるんですけど」

「え~…そんな殺生な~…」

まあ、ここまで来たら断れないし、わざわざ病人を放って帰るわけにもいかない。

「分かりました。じゃあ行きますから、鍵ください」

「やった~! じゃあ~、これが鍵ね~!」

俺が行くと言ったら手のひらを返すように涙が引っ込んだ。嘘泣きだったのか?

そして、病人がいるアパートまで歩き、部屋の前に立って鍵を使う。しかし、感触が少し違う。どうやら既に開いているらしい。

「あれ、普通に空くな…。まあいいか。棚空先輩居ますかー? って、暑っ! この部屋超暑い!」

「……。うーん……あれぇ、餅屋くぅん…?」

棚空先輩が部屋の中央で、心なしか心配した様子の人形に取り囲まれながら、ベッドの上で死体のように横たわっていた。あと、部屋がとんでもなく暑いので急いで窓を開ける。

「はい、そうですよ。大丈夫ですか?こんな時期に風邪なんて」

「ううん…。それよりぃ…ヒ○ピタ替えてぇ…これぬるぅい…」

なんだろう、若干幼児退行でも入っているのだろうか?少し語尾が伸びているし、そもそも俺だと認識できているかどうかすら怪しい。しかし、指示された行動には従うしかない。とりあえず、若い男の目には毒でしかないはだけた服を直す。きっと暑かったから脱いだのだろうが、それにしてもやめて欲しい。その次にヒエピタを張り替えた。

「はい、替えましたよ。他に何かありますか?」

「えっとねぇ…おかゆ…食べたぁい…。たまごがゆぅ…」

「はい、分かりました。じゃあ作ってきますね」

料理に関しては、「あの子は~、これが好きだから~」と言われて渡されたレトルトのたまごがゆがある。用意周到というべきだろうか、昔からの友達である彼女のここらへんは流石というしかない。

「はい、出来ましたよ。口開けててください。あーん」

「あーん…あむ…美味しいぃ…。餅屋くんが優しいぃ…」

「僕そんなに普段ひどいですか?」

そのまま、先輩のわがままを聞きながら落ち着くまで看病していたら、夜になってしまっていた。そのときのことは例によって割愛させてもらう。……いや、何も怪しい事はしてないぞ。

「すぅー…。すぅー…」

「ああ、ようやく寝たか…。なんか疲れたな…。うわっ、めっちゃLI█E来てる」

どうやら、五月が急用で抜けた俺を心配していたらしい。私用のスマホに来ているスタンプがえげつないことになっている。もう既読になってしまったので、「もう終わった。心配かけてすまない。ご褒美は本当になんでもいいぞ」と送っておいた。あの時に断ってしまった罪悪感から、少し色を付けながら。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき

どうも、今朝友達からクロちゃんのマネが上手いと言われました、餅屋五平です。

少し不本意で、少し悲しいです。なんでそないなこと言われなきゃあかんねん。



今さっき、学園祭のコンテンツはどうなってるのか、と聞かれました。そんなこといわれても困る。顧問が全部やってるんだから、聞かれても困る。


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