第2話 ナオミ

「君たちここで何してるの?この裏路地、怖いお店多いんだよ」


「えっと、あの....」

咎められているような気がして、沙奈はたじろいでしまう。


「え、ええと!楽器屋さんって!ここのどのあたりでしたっけ!」

花音が女に歩み寄った。しかし女には何か有無を言わさぬ雰囲気があり、虚勢を張るような語気から緊張が読み取れる。


女は3秒ほど沈黙した後、

「!

あぁー!島里楽器ならねぇ、ここを真っ直ぐ抜けてから左に歩いて行ったらすぐだよ」

朗らかな声色とともに女がキャップのつばを上げ、初めて顔を見せた。

花音と沙奈の表情からも緊張の気色が消える。


「あっ...ありがとうございます!」

ぱあっと満面の笑みを浮かべて花音が幾度も深く礼をする。

「あのっお姉さん!何かお礼とか!」

「えっ、いいよいいよ(笑)」


勢い余って悪ノリに走り始める花音を、少し困ったように微笑を浮かべて受け流す女。

「あっでもねー....」

すると何か思いついたように右手の人差し指を上げた。


「あのね、お姉さん実は最近この裏路地にお店開いたんだけどねー、場所が場所だからあんまりお客さん来てくれないの。

君たちぐらいの子に便利なアイテムとか扱ってるんだけど、楽器屋さん行った後でいいからちょっと見て行ってくれないかなー...?なんて」


「もちろんですとも!!」

後ろでまごつく沙奈をよそに、花音は鼻息を荒くして答えた。


「ありがとー!あ、私のことはナオミって呼んでね!

それじゃあまた後でー...」


裏路地から手を振って見送るナオミと名乗る女を後に、楽器屋へと向かう。


「ちょっと花音....大丈夫なの?なんか怪しい雰囲気だったよ...?」


「だいじょーぶだって!優しいお姉さんだったじゃん!もしヤバそうな店だと思った時点で帰ればいいし!」


「もう...」


これだ。花音は沙奈と同じく基本的に人見知りだが、彼女の場合一度自分に友好的とみなした相手には必要以上に警戒心を解き、明るく社交的になる。

それが花音の長所であり悪い癖でもあった。しかし、沙奈も沙奈でそんな彼女の気質に救われてきたのも事実だった。





それぞれのお目当ての品を手に入れ、帰途につく。


「ねぇ花音...本当にあの女の人のとこ行くの?」


「一応裏路地沿いの道通ってナオミさんいたらついてってみようよ!流石に完全無視って言うのも気がひけるしさ?」


「ま...いいか」



「やっほー!」

「やっほー!ナオミさん!」


商店街の突き当たりを曲がり、裏路地に続く通りに出たところでナオミとまた出会った。挨拶を交わすと、裏路地に招かれそのまま案内される。


「来てくれてありがとうねー、帰っちゃうかとおもってたよ」


「いやぁそんな...はは」

ぎくりとして愛想笑いを作る沙奈。


「でもねー、あいにく実はさっき閉業時間になっちゃったの!だから売ってるものはこの場でちょっと紹介しちゃうね」


こっちおいで、とナオミが外から見えない死角に二人を招き寄せる。

「実は、こういうのなんだけど......」

「!?」


ナオミがごそごそと内ポケットからとりだしたのは、


色とりどりの錠剤だった。


かの有名なネズミのキャラクターがプリントされた青い錠剤、可愛らしいまん丸なゲームキャラクターがプリントされたピンク色の錠剤、星型、ハートマーク.....


いずれも沙奈と花音が、保健体育の教科書や薬物乱用防止講習の学年集会で嫌という程見せられた『それ』だった。

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