上田俊の話③

上田俊は依然として雪の中をかき分け、金色に輝く指輪を探しながら。白い息を吐き出して、横で一緒に探す金谷美花に問いかけた。

「それで、幽霊になった理由を探している内に指をなくしてしまったんですね?」

「ええ、そうです」

彼はそんな彼女に、ふと疑問を投げかけた。

「これは経験談なんですが。死んでも尚、幽霊としてこの世に存在する人たちの多くは生きていた時の後悔、例えばあの人にもう一度会いたいだとか、やり残したことがあるとか言うんです。けど金谷さんはそういう気持ちは本当にないんですか?」

その質問に、彼女は静かに答えた。

「確かに、やり残したい事とか会いたい人が私にもいる。けど、そうやって後悔をしていつまでもそんな気持ちになっていても何かが変わるわけじゃない。私はその気持ちを決して忘れるわけじゃない。その気持ちを想い、受け入れて前を見る事にしたの」

「金谷さんは強いですね。普通はそんな簡単に受け入れられないですよ」

それは、これまで彼が多くのモノに関わって来たから言えたことだった。

「上田くんは何か後悔しているの?」

金谷美花の言葉に上田俊は頭の中でつい3ヶ月前のことを思い出していた。


 3ヶ月前、上田俊が睦月雪との付き合いを解消した大きな理由はお互いの性格にあった。

 どちらも秘密を隠す性格で、会話も一歩引いた所から相手を見て詮索するような事はしなかった。というのも、互いにそれが相手のためだと思っていたから。

 しかし、そんな二人の関係は、お互いも知らぬ間に離れていった。

 3カ月が経った今でも上田俊に湧き上がる感情は次第に後悔へと変容していた。


「ねぇ、君どうかしたかい?」

突然聞こえた見知らぬ声に、上田俊は落としていた視線を向けるとそこには如何にも好青年と呼ばれる男が朗らかな笑みを浮かべて自身に話しかけてきていた。

「いや、ちょっと探し物をしていて」

「一緒に探してあげようかい?」

「え?そんな大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。金色の指輪だね」

そういって雪の中をかき分けるように腰を屈めると探し始めた。

突然現れたその男性に面食らいながらも、人手が増えた事を頼もしく思いながら再び雪をかき分け始めた。

「あれ、指輪のこと言ったっけ?」

上田俊は目の前の男を見ながら昔懐かしいような感覚に苛まれながらも再び雪の中をかき分けて指輪を探し始めた。

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