第3話 新たな刺客

セオは震えをひた隠しながらその背にアイラを庇う。

先ほどの戦闘をみるにセオがまともに立ち会うには危険すぎる相手だった。


「……なっなんなんだよ!あんた……」


黒い甲冑の騎士は金属音を軋ませながらゆっくりとセオの元へと近づいてくる。

男は全身が黒い甲冑にすっぽりと覆われておりその容貌を伺い知ることはできない。


「お前たち……いやそこの娘からは異質な匂いがする。

おい、娘。『悪魔の右腕』という単語を聞いたことがあるか?もしくは何か知っているか?」


それを聞いたアイラがセオの背に身を寄せながら一瞬身体を強ばらせる。

そして首を横に振り黒い騎士の質問を否定した。


「知らない!私は何も知らない!」


付け根から無くなった左腕を右腕で抑えながらアイラは全力で首を振り続ける。

セオは明らかに怯えているアイラをますます庇うようにして近づいてくる黒い騎士に拳を振り上げた。


「おい!オッさん!

アイラも何も知らないって言ってんだろ!

俺たちにはデミウス教だとか悪魔だとか関係ねえ!何も知らねえ!」


「……少年よ、お前はそうだろうな。

しかしその娘は何か知っているようだ。

俺はそれを聞かなくてはならない……!

例えそれがどんな瑣末な情報であってもな」


そう言って黒い騎士はセオを片手で跳ね飛ばしアイラの肩へと手をやった。

跳ね飛ばされ地面に這い蹲ばりながらもセオは必死で声をあげる。


「くっ……!おい!やめろ!」


「はなしてよ!何なの⁉︎」


アイラは戸惑いながらもがくが少女の力では黒い騎士の拘束を解くことはできない。

黒い騎士は表情の見えない甲冑の顔を少女に突き合わせながら懐から小さな瓶を取り出すと諭すように語りかけた。


「手荒なマネはしないさ。

ただ俺は悪魔どもを殲滅しなくてはならん……!

何があってもな……!

とりあえずこいつを飲んで貰おうか」


「やだっ……!くっ!セオ!」


アイラの口に手をやり瓶の中のものを飲ませようとする黒騎士にセオは後ろから突進をかけるが敢え無く跳ね飛ばされ再び地面へと倒れ伏す。


「やめろ!アイラをはなせっ!」


「セオ!セオ!」


「……大人しくしてろ、ただの自白剤だ」


しかしアイラに自白剤を飲ませようとしていた黒騎士のその手が止まりその視線は斜め後ろの樹々の方を向いた。

アイラを掴んでいた手は外れ急いで少女はセオへと縋り付く。

何事かとセオたちが訝しんでいると黒騎士は懐からボウガンを取り出し腕へと装着し何やら睨みつけている樹々へと向けて狙いを定め始めた。


「ちっ、そこで大人しくしてろよ小僧ども。珍客が来やがった」


そう言うとガチャリという金属音と共に風切り音が唸り目にも止まらぬ速度でボウガンが狙いの場所へと発射された。

それと同時に何かの影が動いたようであった。

次々とボウガンの矢が発射されるがその動く影に当たる様子はなく徐々にそれは近づいてくるようであった。

しばらく黒騎士がその影を目線で追っているとガサガサと樹々の合間から青白い肌の男が出てきてこちらへと近づいてきた。


「誰だ貴様は。

まあ名乗ろうが名乗るまいが殺すがな」


黒騎士が低い声で問いかけると青白い肌の男は不気味な笑みを浮かべ名乗りをあげた。


「俺はピーター……

|毒蛇(パウム)は役立たずだったようだな。

デミウスの名において俺がお前を殺してやるぜ、黒い甲冑の男よ」


「だまれ狂信者め」


黒騎士は背の長剣を引き抜き横向きへと構えた。


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黒き戦士血風の荒野を往く ラルフドングラン @iozpeapk5681

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