土曜の午後のくもり空

@marukiti

第1話

最近は眠りが浅く、寝てもすぐに起きてしまうことが続いていたが昨日はぐっすりと眠ることができた。今朝の天気は曇り空だが、ここのところずっと天気がよくない。曇りと雨が交互にやってきていた。暗く濁った空なのだけれど、気持ちは爽やかだ。


2時間ばかりかけて誰にでもなく手紙を書く。直筆で手紙とはいったい何年ぶりだろうか。


オーダーで仕立てたスーツを着る。ネクタイは赤がいいだろう。締め方を覚えていないほどずいぶんと長いことネクタイを締めていないのに気づいた。


しっかりと身支度を整えて屋上へと向かう。10階上へ上がるが階段で向かう。ゆっくり自分の足音を聞きながら踏みしめて上がって行こう。急ぐ必要はない。魂の午前3時に間に合えばいいのだから。


屋上へ上がると風が心地よい。ひたいから当たった風がつむじを通して耳の脇へと流れる。曇り空でこれだけ風があると、もうすぐ雨が降るだろう。それでも心地よいのだ。曇り空も今の僕には爽やかな快晴に見える。カブトムシの幼虫のような厚い雲もにっこりと微笑んでくれている。色々と気づくことがあったのも僕の中の穏やかな感情のせいかもしれない。

そして午後の忌憚のない時間の流れも、風に溶けていくだけだろう。ぴょこぴょこ歩く三羽のカラスがエサを探しながらこちらを覗き込み、よく来たなと笑う。

きっと大丈夫だ。誰にでもあることじゃないかと、落ちているコンクリートのかけらを見て思う。

そうだ、もう怖いものなど何もないのだ。

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