第13話 史上中くらいの作戦
「ニューワールドバンク、エンパイアスター銀行、グランドトラスト銀行……ゴルディ、お前さんならどの銀行を襲撃する?」
周囲五十キロほどの範囲にある著名な大銀行の名を次々に挙げ、ジムが俺に尋ねた。
「そうだな……俺なら『エンパイアスター銀行』を襲うな」
「ほう……わざわざここから三十キロも離れた銀行をね。……なぜかな?」
ジムが丸眼鏡の奥から鋭い眼差しを寄越した。
「潜入しやすいのさ、この地域は。……まあどちらにせよ、いまどき銀行強盗なんてのは盗賊にとっちゃ危険ばかり多くて割に合わない仕事だがね」
「……で、どうやって侵入するんだい?地面の下にトンネルでも掘るのかい?」
ノランが興奮した口調で問いかけてきた。
「馬鹿いうな、最近はどの銀行も頑丈な金属の箱を地下に埋めて、そいつにお宝をしまいこんでるんだ。穴も開かない箱の下に到着したところで、すごすご引き返すのが落ちだ」
「じゃあ、どうすりゃいいんだい」
「正面玄関から押し入って天井に向かって銃をぶっ放し「命が押しかったら金庫に案内しな」って言うのさ。どうだい、いかすだろう」
「本当にそんなんでいいのかい、ゴルディ」
「まあ少しばかりアレンジはさせてもらうがね。いずれにしろ、やるときゃ堂々とやるさ」
「ふむ、何か策がありそうだな。……まあいずれゆっくりと聞かせてもらうよ」
ジムはそう言うと、満足げに煙を吐き出した。
「……さて、難しい話はこのくらいにしてシャワーでも浴びて来たらどうだ。ここの下には上質な地下水が豊富に流れる水脈がある。……ブルの旦那、あんたがたっぷり浴びても困ることはないぜ」
「そうだな、使わせてもらうよ。……だが、先にノランの小僧に浴びさせた方がよかないか?埃まみれで身体中が泥と同じ色だぜ。俺はこう見えても綺麗好きなんだ、後でゆっくり浴びさせてもらうよ」
「……だとさ、ノラン。シャワーはカウンターの後ろのドアから行ける。先に浴びてきな」
俺が目で奥の扉を示すとノランは一瞬、何か言いたげに口を尖らせた後「わかった」と言って俺たちに背を向けた。
「ところでゴルディよ、これだけでかいアジト、いくら岩山に隠れてても位置を特定されちまったらやばいんじゃないか?」
静まり返ったバーフロアでブルが声を低めて切りだした。
「まあな。だが少なくとも外からの攻撃に関しちゃ心配はいらない。こう見えてもただの炭鉱跡じゃない。ミサイルの直撃でも受けない限り、破壊されることはないのさ」
「だがお前さんの首を狙ってるのはレンジャーだけじゃない。空中戦を交えた連中のように、商売敵に先駆けようと血眼でアジトを探してる賞金稼ぎたちがわんさといるはずだ」
「かもな。そういう意味じゃ警戒ももちろん、怠りはない。各種センサーで周囲百メートルに近づく物体を常時監視してるさ。そうじゃなくともこのあたりは『呪われた土地』として敬遠されてるがな」
「呪われた土地だと?」
「そうさ。このあたりを通ると村人の幽霊に捕まって呪いをかけられる、レンジャーたちの間でそう噂になってるんだ」
「なんだか出来過ぎた話だな。どうせお前さんが一枚かんでるんだろう」
「さあな、そいつは想像に任せるよ。……さて、俺は『ティアドライブユニット』のメンテナンスでもしてくるかな。残ったビールは開けちまって構わないぜ。もうぬるくなって泡も出ねえだろうがな」
「さっきから見ててわからねえか?俺は酒が飲めねえんだよ」
ブルは全く減っていないグラスを俺の目の前にかざしながら言った。
「そうか、そいつは気が付かなかった。でかいなりをしてるから、てっきり底無しだと思ってだぜ。あとでキャンディでも用意しとくよ」
俺はブルたちをフロアに残すと、地下の動力室へと向かった。
〈第十四話に続く〉
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