第12話 知られ過ぎてない女
「はじめまして、みなさん。ようこそ盗賊ゴルディの『家』へ」
クレアがよく通るアルトで挨拶をすると、俺以外の全員が息を呑んだ。
「あ、あんたそれで喋れるのかい」
ブルが目を丸くしたまま、問いを投げかけた。
「ええ、喋れるわ。それにみなさんのお顔もよく見える」
再び絶句した面々を前に、クレアはおかしそうに含み笑いをしてみせた。
「クレアの胸のところにダイヤがはまったロザリオがあるだろう。あれは超高性能センサーだ。クレアの神経に直接リンクしていて、俺たちより広い範囲の状況を把握できるんだ」
「そいつはすごいな。……だが、こう言っちゃあ失礼だが、そのなりで表に出たら幽霊と間違われやしないか」
「……そうね、そういう思いも随分としたわ。だから外に出るときはこうして『よそ行きの顔』をつけさせてもらうの」
そう言うとクレアはカウンターの脇の戸棚から、女性の頭部らしき物体を取り出した。
「どう?イミテーションだけど、それなりに決まってるでしょ?」
クレアは自分の首に、ブロンド女性の頭部を乗せた。
「ひゃあ、まるで本物みたいだ」
クレアの『顔』がウィンクしてみせると、ノランがひときわ大きな声を上げた。
「特殊有機素材でできた人工皮膚と、何万というナノモーターが『天然もの』以上に魅力的な表情をこさえてくれるってわけさ」
俺はそう言ってクレアにウィンクをしてみせた。どんな顔を乗せようと彼女が世界一の美女である事に変わりはない。
「大事な機能は全て首から下に収まっているから、頭を打たれてもダンスを続けられるわ」
クレアはそう言うと、これみよがしにその場でくるりとターンをしてみせた。
「しかし……本物の頭は一体、どこに置いて来たんだい」
「それは秘密。でもサイボーグになったおかげで私はどこの国のどんな女性にも化けられるわ。この能力を、私はゴルディのために使うと決めたの」
クレアの言葉に俺の胸は熱くなった。これほど義理堅く純粋な女を俺は他に知らない。
「ふうん、よくわかったよ。なるほど確かに心強い『相棒』のようだ」
「わかってくれて嬉しいよ、ブル。彼女がいなけりゃ俺の仕事は一日だって務まらない」
俺は手近な椅子に腰を据えると、ビールの栓を抜いた。
「ところでゴルディ、仕留め損ねたお宝の方は、どうする気だい。すっぱり諦めるなんてことはないよな?」
ノランがぼやきの混じった口調で言うと、俺を値踏みするように見た。
「そうだな、このままじゃあ確かに気持ちが収まらないな。……だが、もう潜入は無理だ。今度押し入ったらフルオートの防衛システムに切り刻まれるのが落ちだ」
「じゃあ『帰りの便』を襲撃するんだね?給料袋をしこたま積みこんだ奴をさ」
「そうだな、俺の嫌いなやり方だが、外からロケットランチャーか何かでぶっ壊すしかない。暴力的だし、スマートじゃないがな」
俺が肩をすくめて気乗りしないことを示すと、ジムが唐突に口を開いた。
「ゴルディ。そんな目立つやり方で鉱夫たちの給料を奪うなんざ、三流の盗賊がすることじゃぞ」
「じゃあどうすりゃいいんだ、ジム」
「もっと大量のお宝が眠っている場所を狙うことだ。……つまり銀行を直接、襲う」
「銀行だって?馬鹿言わないでくれ、今どきの銀行は軍隊並みの装備じゃなきゃ突破できないくらい、警備がぶ厚いんだ。少数精鋭の俺たちに何ができる?入り口でとっ捕まってその場で蜂の巣にされるか、見せしめのために砂漠に置き去りにされるのが落ちだ」
俺が一言の元に却下すると、ジムは鼻の下の髭をさすりながらにやりと笑ってみせた。
「たしかに警備は厚いかもしれん。……じゃがな、守るのが人間なら、それを破るのも人間だ。ほんのちょっとのオツムの差が勝敗を分けるのだ」
余裕たっぷりに言い放つジムに、俺はにわかに興味をそそられた。
「なにか秘策があるようだな、ジム。良かったら聞かせてくれないか」
「いいとも。じゃがその前に儀式を……悪党同士が手を組む時の乾杯をせんとな」
ジムはそう言って冷蔵庫を目で示した。俺は肩をすくめると「オーケー」と言った。
〈第十三回に続く〉
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