第41話 缶蹴りをして遊んだ話

数人の子供が元気よく遊んでいる。


「みーつけた!」

「やべ! 急げ!」


見つかった子供は一目散に走り始めた。

隠れる場所の少ない遊び場では、どうしてもすぐに見つかってしまう。

缶蹴りも”探す”ところよりも、”競争”がメインになる。


二人は全力で走る。

地面が大きく揺れ、周囲の小石が吹き飛んでいくほどの勢いで二人は走る。

ほんの少しだけ、鬼役の子供の方が早く到着して缶を踏む。

ドン! という大きな音が響いた。


「くそー! 負けたかー」

「よーし……あと一人だ」


競り負けた子供は、既に捕まっている他の子供たちの列に混ざる。

鬼役の子供はまた周囲を探し始めた。


最後の一人は、というとじりじりと缶との距離を縮めていた。

しかし、身を隠す場所がなくこれ以上は近寄れない。

そこで彼は考えた。


近くで手に入れたボールを遠くに投げる。

ボールが地面にぶつかる音が響いた。


ズシン! という音に、鬼も、捕まっている子供たちも一斉にそちらを向く。

彼は鬼の気を逸らすことに成功した。

その隙に、足音を忍ばせてゆっくりと近づく。


彼は、鬼から見えないように息を殺し、

既に捕まった子供たちの列の影に身を隠して

死角から缶に近づいた。


彼は固唾を飲む。まだ、鬼の方が缶に近い。

焦らず鬼の動きを注視する。

鬼はボールを見ているが、まだ体は缶の方を向いている。


じっと、チャンスを待つ。


鬼が、ボールに近づこうと歩き始めた。

一歩、二歩踏み出して完全に缶を背にした瞬間、

彼は缶に突進した。そしてその勢いのまま、缶を蹴り飛ばす。


ゴン!! という音が響いた。


缶が宙を舞う。

一斉に走り出す子供たちと、目を丸くして缶を追う鬼役の子供。

一人の奇策によって彼らの缶蹴りは振り出しに戻った、

かに思われたのだが……


「おーい。缶が壊れたー」

缶を拾いに行った鬼が声を上げた。

それを聞いて、蜘蛛の子を散らすように逃げた子供たちが

どたどたと集まってくる。


「あー、ほんとだ。砕けちゃってる」

「蹴りまくったからね」

「もう缶になりそうな大きさのビルないよ?」

「みんな使っちゃったもんね」


「ねぇ。さっき投げたボールで遊ばない?」

「そうしよう! ねぇ、あのボールってどこにあったの?」

「海の方。人間がガスを貯めてた玉なんだって」

「人間って、小さいのにすごいよねー」

「ねー。いろいろなおもちゃ作ってくれるから好き」

「わたしもー」


巨人の子供たちは、今日も街を踏み潰しながら元気に遊んでいる。



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