始まりは、シャンパントリュフ

片山心愛(カタヤマココア)、22歳。


3月も終わり近くなったこの日は、大学の卒業式だった。


大学の卒業式を終えた夜は学部の仲間たちと集まり、店を貸し切ってのパーティーである。


お気に入りのドレスに身を包んだ私は、そのパーティーを楽しんでいた。


「またこうして、みんなと会えるといいね」


そう言った友人に対して、私はそうだねと言って笑いかけた。


パーティーが終わりに近づいた頃、私はトイレの方へと足を向かわせた。


用を済ませて鏡の前でメイクを直していたら、私の唇からため息がこぼれ落ちた。


「――来月で、私も社会人か…」


来月から私服じゃなくてスーツを身につけて、学校じゃなくて会社に通う日々である。


もう学生ではなくて、社会人である。


何より、

「大好きなチョコレートの会社なんだもん」


私はそう呟いて、鏡の中の自分に笑いかけた。


私が来月から社会人として働くことになった会社は、チョコレート専門メーカー『キルリア』である。


2月14日のバレンタインデー生まれで、名前も“ココア”とチョコレートに関係している私は子供の頃からチョコレートが大好きだった。


いつかは自分の好きなチョコレートを集めた、チョコレートのセレクトショップを持つことが私の夢だ。


数あるチョコレート専門メーカーの中で『キルリア』の出す商品が好きだからと言うことから、私はそこに就職をする決意をした。


採用の面接時に語った私のチョコレート愛が通じたのか、見事に『キルリア』に採用されたのだった。


「さて、と…」


メイクポーチをカバンの中に入れると、トイレを後にした。


すると、前から1人の男性がこちらに向かって歩いてきた。


うわっ、かっこいい…!


彼のその姿を見た私の心臓が、ドキッ…と鳴った。


ゆるくウェーブがかかったサラサラでツヤのある黒い髪は、柔らかそうでさわってみたいと思った。


一重の切れ長の目にスッと通った鼻筋、形のいい紅い唇――それを整えている顔立ちは、まるで俳優のようだ。


黒いスーツに身を包んだその躰は華奢で、身長は180センチくらいはあるかも知れない。


とにかく、かっこいいなあ…。


そう思っていたら、

「何か?」


彼が私に視線を向けて、声をかけてきた。


しまった、見過ぎた!


私、言われなくても不審者だって思われた!


「い、いえ…ごめんなさい、失礼しました!」


ペコリと頭を下げてこの場から立ち去ろうとしたら、

「かわいいドレスだね」


彼が微笑んで声をかけてきた。


声優なのかと聞きたくなるくらいのテナーのよく通る声に、私の心臓がまたドキッと鳴った。


「はい、ありがとうございます…」


そう言った私の声は、彼の耳に届いただろうか?


「パーティーか何かの帰りかな?」


そう聞いてきた彼に、

「はい、先ほどまで卒業パーティーを行っていました…」


私は答えた。


「そのパーティーは、もう終わったのかな?」


「えっ…ああ、はい」


その質問に、私は首を縦に振ってうなずいた。


今から二次会に参加しようかどうしようかとトイレの中で考えていたところである。


「もし君がよかったらだけど…」


彼は微笑んで、私に手を差し出してきた。


差し出されたその手は大きくて、華奢だった。


「僕と一緒に、どこかへ行かないか?


君にはここは似合わない」


そう言った彼に、私は自分が恋に落ちたことに気づいた。


心臓がドキドキと、うるさいくらいに鳴っている。


私の目の前にいるのは、極上なまでのいい男である。


まるで、ドラマか小説のようなシチュエーションである。


「…い、いいんですか?」


呟くようにそう聞いた私に、

「もちろん」


彼は笑って、首を縦に振ってうなずいた。


そっと彼の手に自分の手を置くと、その手を繋いでくれた。


私の小さな手は、あっと言う間に包まれてしまった。


うるさく鳴っている心臓の音がこの手を通じて、彼に伝わっていないだろうか?


「行こう」


彼はそう言って、私の手を引いた。


店を後にして、タイミングよくきたタクシーに乗って到着したところは、ホテルだった。


ここって、確か“セレブご用達”とテレビで紹介されていたところだよね?


彼と手を取ってついてきてしまった私だったけど、今さらながら彼は何者だと思ってしまった。


こんなところに泊まっているって言うところは、相当なまでの金持ちってことだよね?


「ここのスイートルームに部屋を取っているんだ。


きっと、君も気に入ると思うよ」


彼はそう言って、私をエレベーターの中に閉じ込めた。


す、スイートルームですか!?


スイートルームって、あのスイートルームですよね!?


その後でエレベーターに乗り込んできた彼の顔に、私は視線を向けた。


よくよく考えてみたら、密室で2人きりである。


「そう言えば、名前を聞いてなかったね」


彼が思い出したと言うように声をかけてきた。


「そ、そうでしたね…」


そうだ、まだ名前を聞いてない…。


「僕は飛永詩文、君は?」


彼――飛永さんが自分の名前を名乗った。


詩文さんって言うんだ。


「…片山、心愛です」


呟くように自分の名前を名乗った私に、

「心愛ちゃんか、かわいい名前だね」


飛永さんが笑いながら褒めてくれた。


「ありがとうございます…」


お礼を言ったらエレベーターがポーンと音を立てて、最上階のスイートルームに止まったことを告げた。


エレベーターを出て、赤いじゅうたんのうえを歩くと重厚そうな茶色のドアが見えてきた。


ここが、飛永さんが宿泊しているスイートルームみたいだ。


カードキーを使ってドアを解除すると、

「どうぞ」


飛永さんがドアを開けたので、私は部屋の中に足を踏み入れた。


「うわーっ…」


部屋の中は、予想以上に広かった。


ここがスイートルームなんだ…。


大きな窓に視線を向けると、そこにはたくさんの夜景があった。


「キレイ…」


その夜景に呟いたら、

「お気に召しましたかな、お姫様」


飛永さんは執事のような口調で言って、私の前で跪いた。


「はい、とても…」


私がそう言ったら、

「君をここへ連れてきた甲斐があったよ」


飛永さんは笑ったのだった。


「今からルームサービスを頼んでいいかな?


さっきまで仕事をしてたから、まだ夕飯を食べてないんだ」


そう聞いてきた飛永さんに、

「はい、どうぞ」


私は返事をした。


すごい、すご過ぎる…。


広いテーブルのうえに並べられている料理の数々に、私は絶句をしていた。


ルームサービスと言うくらいだから軽食が出てくるのかなと思っていたら、それ以上である。


サンドイッチにフルーツの盛りあわせ、ケーキやマカロンに、シャンパンまでついてきている。


軽食、ではないよね…。


「どれでもいいから好きなものを食べなよ」


飛永さんはそう言ってサンドイッチを口に入れた。


「うん、美味い。


遠慮しなくてもいいよ、僕が言ってるんだから」


「じゃあ、お言葉に甘えて…」


食べたばかりだから、特にお腹は空いてないんだけどな…。


そう思いながら料理を見回していたら、皿に盛られたトリュフがあった。


わーっ、美味しそう。


トリュフに手を伸ばして、1つつまみあげた。


柔らかいトリュフをつまんだだけなのに、今にも崩れ落ちそうだ。


口の中に入れた瞬間、フワリと洋酒の香りが広がった。


これ、シャンパントリュフだ…。


舌のうえで滑らかに溶けて行くチョコレートとシャンパンの香りが鼻を抜けて行く。


トリュフは、あっと言う間に口の中で溶けて消えたのだった。


「美味しそうだね」


その声に視線を向けると、飛永さんがトリュフをつまんでいた。


それを口の中に入れると、

「思った以上の滑らかな舌触りだ」


飛永さんはそう呟いて指についたココアパウダーを舐めた。


赤い舌が指を舐めるその姿に、私の心臓がドキッと鳴った。


い、色っぽい…。


「もう1つ食べる?」


「あ、はい…」


私は返事をすると、トリュフをつまんで口に入れた。


「僕もいいかな?」


「ええ、はい…」


飛永さんにトリュフを差し出した。


差し出されたトリュフに、飛永さんは妖しく笑うと口に含んだ。


「――ッ…!?」


私の指が、トリュフごと彼の唇に含まれた。


ゆ、指が食べられた…!?


「――ああ、甘いね…」


何がですか?


飛永さんは妖笑を浮かべると、私と距離をつめてきた。


端正なその顔立ちは、後少しである。


トン…と、飛永さんの指が私の唇に触れた。


「――こっちは、もっと甘いのかな?」


「えっ…?」


聞き返す時間を与えないと言うように、飛永さんの唇が私の唇に触れた。


「――ッ、んっ…!?」


自分の身に何が起こったのか、全くわからなかった。


飛永さんが私にキスをしてる?


何で?


どうして?


飛永さんの唇が私の唇から離れた。


「――絶品…」


飛永さんは妖しく笑って、舌で自分の唇を舐めた。


それがエロチックで色っぽくて、私の心臓がドキドキとさらに加速する。


「もっといいかな?


それどころか…」


飛永さんは私の頬に手を触れて顔を覗き込むと、

「今すぐにでも、君を食べちゃいたい」

と、言った。


シャンパントリュフに、酔ってしまったのかも知れない。


私は首を縦に振ってうなずいて返事をした。


返事をした私の唇を飛永さんがまた重ねてきた。


先ほどの触れるだけのキスとは違い、今度は深く重ねてきた。


「――んっ、ふうっ…」


「かわいい」


チュッと音を立ててキスされて、舌で唇を舐められた。


彼からのキスを何度も受けていたら、自分がベッドのうえにいることに気づいた。


キングサイズのベッドは、大人2人が横になってもまだ広かった。


「――心愛…」


飛永さんが名前を呼んで、私に何度目かのキスをした。


柔らかいマットレスのうえに優しく押し倒されたのと同時に、唇が離れた。


「――もっと欲しい…」


彼は妖しく笑って、首筋に顔を埋めた。


「――んっ、あっ…」


チュッと何度も音を立ててキスをされながら、彼はドレスを脱がして行く。


「着痩せするタイプなんだ…。


小ぶりなわりには、巨乳なんだね」


「ヤだ、見ないで…」


観察するように胸を見られていることに気づいて隠そうとした。


「もっと見たいから見せて」


「――あっ…」


隠そうとしたその手を止められたうえに、彼の手が胸を包んだ。


「――んっ、うっ…」


強弱をつけられて胸を揉まれているせいで、彼の手の中で胸の形が何度も変えられる。


「――美味しそう…」


「――ひゃっ…!?」


唇が胸の先に触れたとたん、私の躰が震えた。


強弱をつけて吸われたかと思ったら、舌でチロチロと丁寧に舐められる。


時には軽く歯を立てられて…ジンと、お腹の下が熱くなっていることに気づいた。


ショーツの中は洪水状態のはずだ。


ツツッ…と、それまで胸をさわっていた彼の指がショーツのうえをなぞっていることに気づいた。


「――あ、あの…」


「ここも欲しいんだね」


「――あっ…!」


ショーツ越しにさわられて、躰が震える。


「濡れてるせいで、何の役割も果たせてないよ…。


もういっそのこと、脱いじゃおうか?」


妖しく笑った彼がショーツに指をかけて、

「――あっ…」


ずるりと、脚の間から濡れたショーツを脱がせたのだった。


ドレスもショーツも全て脱がされて、これで躰を隠すものがなくなってしまった。


「――あっ…」


クイッと両足を大きく広げられて、自分でも見たことがないその場所を覗き込まれた。


恥ずかしい…。


足を閉じて隠したいけれど、大きな手に押さえられているせいで隠すことができない。


「見られて興奮してるの?」


「――ち、違っ…あっ…」


ツツッ…と、華奢なその指が割れ目の部分をなぞってきた瞬間、躰が震えた。


ただなぞられているだけなのに、お腹の下がジンジンとする…。


「あふれてる…。


そんなにもここがいいの?」


「――やっ…わかんない…」


フルフルと首を横に振っている私に、飛永さんは妖笑を浮かべた。


上から下へ、下から上へとなぞるその指先がじれったい。


「もっと気持ちよくなることをしてあげようか?」


「――えっ…?」


濡れた指が触れたその場所は、

「――ああっ…!」


何度も往復したせいですっかり敏感になってしまった蕾だった。


自分でも触れたことがないその場所に触れられて、躰が震える。


「ここ、いいんだね…。


中の方にも指を入れたらどうなるんだろう?」


「――あっ…!」


ツプリと中指を中に入れられて、抜き差しされる。


「ここに指を入れたのは初めて?」


妖しく笑いかけて聞いてきた飛永さんに、私はコクコクと首を縦に振ってうなずいた。


「――あっ…んんっ…」


「ここも固くなってきた…」


「――やっ、やあっ…!」


親指で敏感な蕾を押されて、左右に揺すられる。


それにあわせるように、中で抜き差しを繰り返している指の動きが激しくなる。


「――あっ、やだぁっ…!


な、何かきちゃうっ…!」


目から涙がこぼれ落ちる。


お腹の下が熱くてジンジンして、早く熱を放ちたくて仕方がない。


「どうぞ、お好きなように」


飛永さんが妖しく笑いかけたその瞬間、

「――あっ、あああっ…!」


ビクンと大きく躰が震えて、頭の中が真っ白になった。


荒い呼吸を繰り返してビクビクと躰を震わせている私を、

「――かわいい…」


飛永さんはそうささやいて、額に唇を落とした。


「――んっ…」


まぶたにも鼻先にも頬にも、彼は次々と唇を落としてきた。


「――もっと君を味わいたい…」


「――あっ…」


ペロリと舌で唇を舐められたかと思ったら、唇を重ねてきた。


口の中に舌が入ってきて本当に味わうかのようにかき回される。


「――んっ、ふっ…」


唇が離れて、飛永さんと目があった。


彼は目があった私に向かって妖しげに笑いかけると、

「そろそろかな…」

と、ささやいてきた。


「――えっ…?」


何のことを言ってるの?


そう聞こうと思って唇を開こうとしたら、先ほどまで指が触れていたその場所に熱いものが触れた。


指とは違う固いその感触に恐る恐る視線を落とすと、

「――ひっ…!」


それに驚いて、私は視線をそらした。


間近で見たそれは、予想以上に大きかった。


「ひどいな」


飛永さんはそう言って私の手を取ると、彼自身の灼熱に触れさせた。


「君のかわいいその姿を見たから、僕自身はこうなったんだよ?」


「――ッ…」


ツッ…と指で灼熱をなぞったら、

「――あっ、ヤバい…」


飛永さんは苦しそうに息を吐いた。


私の指に感じているみたいだ。


「できる限り優しくするから、早く入れさせて…。


もう君が欲しくて仕方がないんだ…」


灼熱から私の手を退けさせると、先ほど当てていたその場所に灼熱を触れさせた。


「――んっ…」


指とは違う熱くて固いそれが私の中に入るんだと思った。


「――ッ…」


飛永さんが唇を重ねてきたのと同時に、彼の灼熱も私の中にゆっくりと入ってきた。


「――いっ、痛い…!」


引き裂かれるようなその痛みに思わず唇を離したら、彼はまた唇を重ねてきた。


「――んっ、うっ…!」


ゆっくりと入ってくる灼熱がさらに大きくなったような気がした。


灼熱はゆっくりと、押し広げるように中へと入って行く。


どれくらいの時間がかかっただろうか?


「――ッ、入った…!」


唇が離れた瞬間、飛永さんは息を吐いた。


ひとつになったんだ…。


まるで対で作ったかのようにピタリとしていた。


「――気持ちよ過ぎて、どうにかなりそう…ッ」


飛永さんは何度も息を吐いて、潤んだ瞳で私の顔を覗き込んできた。


「――わ、私も…」


熱っぽい瞳に見つめられていることが恥ずかしくて目をそらそうとしたら、

「――ッ…」


逃がさないと言うように彼の指があごをつかんで、何度目かのキスをしてきた。


手でシーツをつかもうとしたらその手は取られて、彼の背中に回された。


両手で背中にしがみついている格好だ。


唇が離れて、熱っぽい瞳と目があった。


「――心愛、好きだ…」


形のいい唇が動いて、音を発した。


「――えっ…?」


ドキッ…と、私の心臓が鳴った。


私の聞き間違いじゃないよね?


でも確かに、彼は私に向かって“好き”と言ったのだ。


「――わ、私もです…」


初めて会って、初めて関係を持ったと言うことは関係ない。


今は彼のその気持ちに答えたいと、そう思った。


私が初めて出会った彼に恋をしたのは、事実なのだから。


私の返事に飛永さんはフッと笑いかけると、

「――嬉しいよ…」


チュッ…と、頬にキスをしてくれた。


心臓がドキッと鳴って、キュッと胸が締めつけられる。


「――あっ、待って…!


そんなに締めつけたら、ヤバい…!」


「――えっ、はい…?」


飛永さんは苦しそうに息を吐いている。


「――もう無理だ、動きたい…」


動きたいって、何がですか?


「――は、はい…」


訳がわからないけれど、首を縦に振って返事をした。


「――ッ、はっ…!」


「――ああっ…!」


ゆっくりとした動作で腰を動かされて、躰が震えた。


「――んっ、うっ…!」


ゆっくりと中で動いている灼熱に、ただ感じることしかできない。


忘れかけていた波が押し寄せてきて、躰が震え始める。


「――あっ…ひゃあっ…!」


「――んっ…」


ゆっくりと中で動いている灼熱は、だんだんと限界に近づいてきている。


「――やあっ…また、もう…!」


涙ながらに訴えた私に、

「――うん、僕ももう限界だよ…」


飛永さんは苦しそうに息を吐きながら返事をした。


「――今度は一緒に…ね?」


それに答えるために私はコクリと首を縦に振ってうなずいたとたん、灼熱が中を突いた。


「――あっ…ああああっ!」


悲鳴のような声をあげて、ビクンと躰を大きく震わせた瞬間、頭の中が真っ白になった。


「――うっ…!」


飛永さんは苦しそうに呻いた後で中から灼熱を取り出した。


「――ッ、はあっ…!」


お腹の辺りに熱いものがかかった。


「ああ、ごめん…つい…」


申し訳なさそうに謝った飛永さんに、私は首を横に振って返事をした。


眠気が襲ってきて、まぶたがだんだんと落ちてくる。


それに気づいた飛永さんは、

「いいよ、眠っても。


後は僕が片づけるから」

と、私が眠ることを許してくれた。


「心愛、好きだよ」


そうささやいて額にキスをしてきた彼に、

「――私も、です…」


私は返事をすると、目を閉じたのだった。



差し込んでくる光に目を開けると、飛永さんはそこにいなかった。


枕元に1枚の紙があることに気づいて手に取ると、彼からの手紙だった。


『昨日はありがとう


部屋代は払って行くから


飛永詩文』


名前の下に書いてあったのは、電話番号とメールアドレスだった。


「…また会いたいって、言うことなのかな?」


何となく捨てるのもおかしかったので、カバンの中に彼からの手紙を入れた。


ドレスを身につけて、乱れてしまった髪を手ぐして整えると、広過ぎるスイートルームを後にした。


「――夢じゃないんだよね…?」


ホテルを出たのと同時に私は呟いて、自分の頬をつねった。


痛かった。

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