第19話

うむ……ステ振りはどうしたもんか。


ナズナさんに鞍と壊れてしまった盾の変わりを売ってもらった俺は街のベンチに座ってステータス画面を見ていた。


まず方針としては耐久力を上げて盾になりつつ召喚したスケルトン達で叩く、ってところではあるんだが正直今までの戦いから考えてただ耐久を上げるだけだとその内戦えなくなる気がするんだよな。


まず第一の問題としてStrが指輪の効果もあって1イヤ0?になっている事だ。

推測であるがこのステータスの1や0は現実世界で一般人が出せる程度の力と考えると今までの戦闘の辻褄が合う。


Strの低い俺でもうさぎや熊のトドメを指すことは出来たからな。


つまりステータス値=能力の補助値ということになるのでは無いだろうか?


次の問題はAgiが足りない事だ、Agiが足りないと仲間をかばうにあたって敵と味方のあいだに割り込むのが間に合わない。


「守備に割けば攻撃速さが、攻撃速さに割けば守備が落ちる、そして三つを取るとそこまで強くなれない。悩むなぁ…………ん?」


ステータスのバランスに悩んでいると、ふとガーディアンの下に書いてあるジョブスキルが目に入った。


アサルトインターセプト?


そのスキルが気になったアキはアサルトインターセプトと書いてある場所をタッチし、詳細を映し出す。




アサルトインターセプト

Agi×2.5の速度で任意の場所まで駆けつけることが出来る、しかし使用後2秒のスタンが発生する。

もう一度使えるようになるまで15秒のクールダウンを必要とする。


仲間を守りに行くためのスキルというとらえかたでいいのかな?

これさえあればAgiに振る値は少数で済む、それならStrに2、Vitに4、Agiに2で振ればいい、都合がいいスキルだな。

やっぱり運営も俺と同じこと考えてたりすんのかな。


指を動かしStrAgi共に2、Vitに4をつぎ込むと決定を押しステータス画面を閉じる。


さて、スケルトンホースも仲間にして、盾も壊し鞍を買いを金を使ったところで金策でもしましょうかね。


アキが金策に走ろうとベンチから腰を上げた時、メニューが勝手に開き鈴の音を鳴らし始めた。


「うっるさっ……何事?」


表示された画面を見てみるとこんな事が書いてあった。


緊急クエスト発生


~第一章勇者誕生~


クエスト内容


世界が混沌に包まれる前触れが世界各地で起こりゆく中、一人の若者が勇者として目覚めようとしている。

しかしその勇者は未だ弱く、今まさにその道半ばにして消えようとしている。

ヒューメラン大陸のプレイヤーは直ちにダイ草原へと向かい勇者の卵である若者を助けよ。


緊急クエスト勇者の誕生か、このゲームは勇者になるんじゃなくて勇者と一緒にラスボスを倒す系のゲームなのか。


そのクエストは俺だけではなく他のプレイヤーにも表示されたらしく周りのプレイヤー達はその内容にざわざわとしていた。


あ〜、どうせ美沙希も圭太も参加するだろうし…………試しにナズナさん誘って行ってみるか。


俺はフレンドの欄からナズナさんを選ぶとフレンド間でのみ使えるフレンドチャットでナズナさんを呼び出す。


『はい?どうしたのアキちゃん』

「さっきの緊急クエスト見た?」

『うん見たよ?』

「なら一緒に行かない?」

『でもごめんね、私戦闘面ではあんまり強くないから一緒に行けないなぁ』


画面のから申し訳なさそうな声色の返事が聞こえ、俺は「大丈夫だよ、ちょっと行ってくるね」とナズナさんに残すと内心少し残念に思いつつ街を後にした。




~~~




街を出てセキトバで走る事数分、周りを見回すと緊急クエストに興味をそそられたのかやはり多くのプレイヤーが走っていた。


うん、ここで見る限りまだ馬とかの移動手段を持ってるのは俺だけっぽいな。


鞍を着け背骨がダイレクトアタックしなくなったセキトバの背に乗り、悠々と草原までの道を進む俺はその事に少し嬉しくなる。


「セキトバ、飛ばすぞ!!」


その感情に任せて叫ぶとセキトバはそれに呼応するように上半身を上げ、先程までのゆったりとした走りではなく風を切り裂くような速さで走り始める。


道に沿って植えられた木々が次々に後ろへと流れ、それと一緒に目を見開いて驚いているプレイヤー達も一緒に置いていく。


さて、今のうちに装備品の確認っと。


メニューの装備品一覧を開き、ナズナさんに売ってもらった盾の詳細を確認する。



鉄のタワーシールド 【Reality:プレイヤーメイク】

Weight3


製作者ナズナ


Vit+2


鉄で出来た頑丈なタワーシールド、重量が他の盾よりもあるため扱いには慣れが必要。



装備ボーナスにVitがつくのはありがたい、でも慣れが必要っていうのが少し怖いところだな。

もし強敵と戦闘になった時扱えませんでしたじゃあ笑えない。


助けよ、と書いてあったからボス戦が発生して倒さなきゃいけないって訳ではなさそうだし、どっちにしろ今回はこれでどうにかするしかないな。


などとセキトバに揺られながら考えているとダイ草原に差し掛かり、それとほぼ同時にさして遠くない位置から轟音が鳴り響いてきた。


「あ〜もう本当に休まる時間が無いなこれ!!セキトバ、全速力!!」


急ぎ轟音の響いて来た場所にセキトバを走らせると砂煙の中から巨大な影が映し出され、煙が霧散していくにつれ輪郭がはっきりと写し出されてきた。


「う、うわあああ!!誰か助けて!!」

「グルルアアァァァ!!」


目を細め砂煙の巻き上がっている場所を凝視していると、砂煙の中から一人の少女と俺なんぞ一呑みにしてしまえるほど御題なドラゴンが現れた。


「ウッソだろ運営さんよ」


その光景を目にした瞬間メフィストフェレスのムカつく笑みを思い浮かべアキは額に青筋を浮かべる。


「だぁあもうそこな少女、乗れ!!」

「はい!!」


俺は少女に、叫び手を差し伸べるとその手を握った少女を引き寄せセキトバの背に乗せる。


「セキトバ、黒馬の召喚よろしく!!『サモンほね太郎』!!」


その瞬間ゲートからほね太郎が飛び出し、そこにセキトバが黒馬を出現させ黒馬にほね太郎が乗る形となった。


しかし、黒馬とほね太郎は急に離れ睨み合い始めた。


「お前らそんなことしてる場合じゃない!いいから協力して付いてこい!!」


睨み合う一体と一匹に喝を入れると犬猿コンビは仕方なくといった様子で付いてきた。


「いいかお前ら、今回のクエストはこの勇者を助ける事だ。だからお前らには俺達が逃げるあいだあいつの相手をして時間を稼いでもらいたい。酷い役目だと思うが引き受けてくれないか?お前らしか出来ないんだ」

「カラッ!!」


ほね太郎は骨を鳴らし自らの胸にトンッと拳を当て、黒馬は大きく鼻息を吐くことで肯定の意を表す。


「よし、頼りにしてるぞ!!」


その時のアキはまだ気付いていなかった、このクエストの本当の脅威を。

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