第10話

ゴーレムを倒したアキ達は街に戻って来ていた。


スライムの素材を売ろうとおっちゃんの店まで歩いているとその途中の広間で何やら人集りが出来ていた。


「なんか人集りができてるな」

「何だろうね」


気になった俺達はその人集りの一員となり、全員がみているものに視線を向ける。


するとそこには燕尾服を着た人影が写った。


「さぁさぁみなさぁん?この世界、お楽しみいただけているでしょうか?私悪魔でありこの世界の運営の一人である案内人、メフィストフェレスでございます」


メフィストフェレスの発言に周りのプレイヤー達は何やらザワザワとし始める。


「何故運営がここにいるのか、気になっていらっしゃるのでしょう?If's easy、ある耳寄り情報を皆さんに公表するためです。気になるでしょう?気になって来たでしょう?」


メフィストフェレスは目元を隠す仮面をしており全くと言って表情が見えないがその露出している口元だけは酷くつり上がっていた。


「ほーんと創造神様はこういうのが好きなんだから…………おっと、失礼何でもありません。えー、私共神……いえ、運営共はこのThorPhantomOnlenの誕生を記念して第一回目のイベント、PVP大会を実施しようと思います!!」

「「おおおおおおおお!!」」


メフィストフェレスが声高らかにそう宣言したその瞬間、広間のほぼ全員が湧き上がり雄叫びとも取れる叫びを上げる。


因みにサツキも例外ではない。


「まぁまぁみなさん落ち着いて、開催日を説明しますのでご静粛に」


雄叫びをあげるほど興奮しているもののその奥ではちゃんと冷静でいるのだろう、メフィストフェレスの一言に広間は一気に静まり返り荒い吐息がうるさく聞こえてくるほどだ………………ってマジでうるさい!!どこのどいつだ今の数秒でそんな息荒らげてるやつ!!


「おやおや、創造神様と似たような人がいますねぇ…………」


メフィストフェレスと名乗る悪魔は何かを呟くとこちらを一瞥し、説明に戻った。


「こほん、開催日は一ヶ月後の八月二十四日となります。当日には会場である闘技場が建てられている手筈なので皆様、参加の際はこの広間ではなく闘技場へと起こし下さい。それでは、アディオス」


メフィストフェレスは言うことだけ言うと広間にいるプレイヤー達に背を向け指をパチンと鳴らし一瞬にして消えていってしまった。


「随分とふざけた感じの運営だったな」

「ねぇアキ!!あれ出よう!!」

「わかった!!わかったから!!首をガクガクするな!!」


興奮未だに冷めやらずといった様子のサツキが俺の肩を掴んで前後左右にブンブンと振り回しMHYマジ・吐く・やめて値を上げていく。


このゲームの感覚は馬鹿にならない、気持ち悪ければちゃんとに吐くし噛まれた時の痛みも恐怖も心にも身体にも沁みるほどのものだった。


さっきのメフィストフェレスってのがこのゲームを作ってる運営の事を神と言っていたが本気で神なんじゃないか?


そんな事を考えながら揺さぶられていると喉元まで熱いものが上がってきたのを感じる。


あっ、限界…………


言うことを聞かないサツキにキラキラとしたエフェクトをぶちまけ涙目にさせると水浴びをしに行くこととなった。




~~~




「…………おい、水浴びって言ったよな」

「いいじゃん、折角なんだから」


サツキは嬉しそうにそう言うと俺をある建物へと入れようと背中をグイグイ通してくる。


まだ百歩譲って水浴びなら俺が周りを見張っていればサツキの姿を見ること無く済む話だ、だが、だが…………


「俺は温泉になんて入らないぞ!!」


そう、この世界は男は男のアバター、女は女のアバターしか作れないためこのような施設も用意されているのだ。


そして、俺は誤作動によって中身が男で外が女という立場にいるため入れるとしても断固拒否したいのだ。

俺はそんな趣味はないからな、もし……もしも、はいるんだとしたら俺は男として何かを失うことにな━━


「うるさーい!行くよ!!」

「待て待て待て!!かつぎ上げるな運ぶな俺を踏み外させようとするなぁぁぁ!!」


Strが低い俺は抵抗虚しくサツキに抱えられ更衣室まで持って行かれた。


「帰る」


━━ガシッ


俺が帰ろうと踵を返すとサツキが肩をへし折らんとばかりの力で掴んで離さない。


「さぁ?アキちゃん?おねーちゃんと一緒にお風呂入ろっか♪」

「あ、あぁぁ…………」


その日、街の温泉から一人の少女の叫び声が聞こえたとかいないとか。



PVPイベントまであと一ヶ月




~~~




「ふぅ、創造神様〜、ちゃんと説明して来ましたよ」

「うむうむ、ちゃんと見ていたぞ。いやぁ、こうやって見てると俺も参加したくなるなぁ」

「少し待ってくださいね、今アバター作ってますから」


メフィストフェレスは薄暗い一室にいる男に仮面を外し笑いながら言うと半透明の板を出し、創造神用のアバターを見せる。


「いや、俺は普通にこのゲーム……いや、この世界を楽しみたいんだが」

「ダメですよ、一般アバターだとあなたが入ると負荷がかかりすぎて誤作動が起きます」


創造神と呼ばれる男が専用アバターに物申すがメフィストフェレスはまるでそういうことがわかっていたように即座に否定する。


「うーむ、それなら仕方ないか…………メッフィー、早く完成させてくれよ?俺もお前たちが作った世界で遊んでみたいんだ」

「ええ、もちろんですよ。それと、今日見たプレイヤーの中に創造神様に似たプレイヤーがいましてね、どんな面白いことをしてくれるか楽しみです」


メフィストフェレスはそう笑うとアバター制作に戻って言ったのだった。

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