第14話
「それじゃ、美樹は何ともないのか?」
「ああ、至って普通の女の子のままだ。もしかするとまだ、奴らの言っていた力とやらは目覚めていないのかもしれない。」
あれから美樹のことをジョウに調べてもらっていたが、異常は特に見当たらないとのことだ。
本人にも何か異常があるか聞いたらしいがいつもと変わらないと言っていた。
ジョウの言う通り、まだ美樹の力は目覚めていないのかもしれない。
だが、それがどんな力なのかは分からないがこのまま放っておくわけにもいかない。
「ジョウ、美樹のことはお前に任せる。何かあればまた教えてくれ。」
「その…少しはお節介かもしれないが、美樹と話したりはしないのか?」
あの子に話すことなんて何もない。
生きてさえいてくれればそれでいい。
「ああ、お前が見てやってくれ。」
俺はジョウの返事を聞かずに部屋を出て行った。
そして、ある部屋の扉の前に立つと扉を開け、中へ入る、扉が開かれたことで部屋の中に廊下の光が入り、部屋の中が少しだけ明るくなる。
部屋の真ん中にはベッドに横たわり、唸り声を上げている男が寝ていた。
「さてと…どこまで話したかな?」
「……助けてくれっ。なんだか顔が変なんだっ、感覚もないし。僕の顔はどうなったんだっ。」
男は口元から汚い汁を撒き散らしながら喋っていた。
「さぁな、包帯で何も分からん。それよりも仲間のことについて話してくれ。」
「…嫌だ…よっ。僕のことを助けてくれっ!!!」
「ったく、お前が話してくれたら助けてやるよ。だから、仲間について話せ。」
目の前のぐちゃぐちゃな顔に包帯を巻かれた男はスピードスターの変わり果てた姿だった。
あれからこいつは意識を取り戻したが、肌は火傷でただれ、元に戻すことが出ないほどボロボロになっているらしい。
ただ、彼の力は一応は作用しているみたいであれだけ酷かった傷口が治り始めている。
顔が以前のように元に戻るのかは知らんが、もうあの頃の面影は取り戻すことはないだろう。
「仲間…何を話せばいいんだっ。」
「美樹について知っていそうな仲間は誰だ。あの時にお前は名前を言いかけていただろう?」
「……そんなの覚えてないよっ。それよりも僕のことをここから出してくれよっ!!!」
まったく、騒がしいガキだ。
そんな姿で外へ出たところでもうかつてのような賞賛など浴びることはできないと言うのに。
「それは質問に答えた後でちゃんと考えてやる。だから今は質問に答えろっ。それであの時、お前のことを襲った相手に見覚えは?」
「…みっ見覚えなんて…ないよ。あんなの見たこともない…だけど、あの力はフレアの力と似ていたような気がする。ただ…フレアは数年前に居なくなったんだっ。だっだから、あれは…フレアじゃないと…思う。それにフレアは…刀なんて…使ってなかったし。」
「そのフレアという男はもしかして美樹のことを知ってそうな「そっそうだ。そうだよ、きっとフレアならあの子のことがわかるかもしれない。フレアは…リーダーの右腕って呼ばれてたから。今は、マインドがそう呼ばれてるけど。」
なら次はその男について調べる必要がありそうだ。
「フレアとはどんな見た目をしている?」
「それは……僕よりも君達といた彼女に聞くべきだと思うけど…。……ほらっ、話しただろっ。僕をここからっ。」
速水が喋り終わる前に俺は机の上に置かれた手鏡を速水へ渡した。
「これ…は…?」
恐る恐る鏡を自分の顔の前に持って行くと速水の顔が歪んで行く。
「なっ…うそ「叫ぶなよ。大声を出したら…殺すぞっ。」
「そっ…んぐっ…んな…こと言った…って…。」
相当、ショックなのだろう。
目には大粒の涙を溜めている。
「あれだけの炎が顔を包んでいたんだ。むしろそれだけで済んで良かったと喜ぶべきだな。」
「ふざけるなっ。元はと言えば君達がっ!!!」
「俺達の所為だと?笑わせんな。全てはお前達が始めたことだろうに…。ヒーロー活動と言う偽善行為を繰り返し、街を救うと言いながら、街を破壊し、見知らぬ人を巻き込んで……何が正義の味方だっ。」
「だけど、そのおかげで助けられてる人もいるんだ。それは事実だろっ。僕らはちゃんと…「362人…何の数か分かるか?」
「…いや…。」
口ではそう言うが速水は心当たりがあるのだろう。
数を聞いた途端に俺の目から目を逸らしいる。
「お前らは七年前に大都市でヴィランと大規模な戦闘をしていただろう。その時にその戦闘に巻き込まれ死んでいった死者の数だ。死者だけじゃない、怪我人を合わせたら何千人がその戦闘に巻き込まれ、怪我を負った。」
「……だけど、あの時…僕らはちゃんと避難命令を…。」
戦闘が行われている最中に出された避難命令が何の役に立つ。
あんなもの返って混乱を招くだけだ。
「出していたな…戦闘が始まった後に。何故、あの時、ヴィランが街に現れたと思う?」
「…僕達を誘き出すために街に現れ、無抵抗な市民を襲った……から。」
「ああ、お前達を誘き出すためにあのクソ野郎どもは関係のない人々を襲ったんだ。確かにお前達が来なければ沢山の犠牲者が出ていただろう。だけど、その時に俺は思ったんだよ。ことの元凶はお前ら…いや、力を持った人間だと。お前らもヴィランも俺からしたら変わりはない。ただの化け物だよ。」
速水は何も答えることができずに下を俯いていた。
「もう一度、聞くぞ。お前達の目的は?」
「……フューチャー・ヴィジョン。リーダーはそう言っていた。それが何なのかは僕には…分からない。だけど、それを使って…リーダーは犯罪を防ぐって…言っていたんだ。ただ、それを起動するには美樹と呼ばれる少女の力が必要だって。僕はその少女の居場所を知っていそうな人の元へ行き、居場所を吐かせようとしたんだ。だけど、その人は事故で死んだ、僕はそう思ってた。正直…今になって後悔してるよ。ちゃんと、確認するべきだったって。」
フューチャー・ヴィジョン、その機械には美樹が必要。
つまり、美樹が俺達の元へいる限りは彼奴らは手の出しようがないと言うことか。
心もこのことがわかっていたから美樹を渡すなと言っていたのかもしれない。
「だが、その詰めの甘さのおかげで俺は今ここでこうして生きていることができるわけだ。感謝してる。」
「嫌味な奴…それで…情報を全て話したら、僕をどうするつもり?殺す?」
「逆に聞かせてもらうよ。お前はここを出たらどうするつもりだ?」
鏡に写る自分の姿をチラッと見ると彼はため息を吐いた。
「リーダーの元へ…帰ろうかと思ったけど…。帰ったらまた君達から狙われてしまいそうだし、もし戻ったとしても君達に情報を喋っちゃったことをすぐにマインドに見抜かれてしまうだろうしね。もう戻る気はないかな、それでその…頼みがあるんだ。」
「頼み?」
「ああ、これから先リーダー達と戦うんだろ?それなら…僕の力は頼れるんじゃない?」
つまり、仲間に入れろってことか。
確かにこいつが仲間になればかなりの戦力にはなると思う。
「それはつまり仲間に入れて欲しいってことでいいか?」
「……償いとして…どうかな。」
だが、俺の答えは決まっている。
「残念だがそれは無理だな。簡単に仲間を売るような奴は仲間にできん。」
「結構、はっきり言うね…。けど…それもそうか。…これからどうしようかな。」
「…はぁ…仲間にはせんが、怪我が治るまではここにいたらいい。流石の俺でもそんなボロボロの怪我人をほっぽり出すことはできんからな。」
こいつは敵であることには変わりないが、それでもこんな痛々しい姿をしたまま、外へと追い出すことは流石にできなかった。
「助かるよ、ありがとう。」
礼なんて言われる筋合いはないが、ありがたく受け取っておくことにした。
「そうだ、それよりも僕のスーツは何処にあるんだい。あれには…GPSが…ついてるんだ…けど……まさか、外し忘れては…。」
「はっ?」
GPSだと、そんなものが付いているなんて知らないぞっ。
だが…ジョウならたぶん…気づいているはず…。
そう思った頃にはもう手遅れだった。
入口の方から大きな爆発音が響き渡る。
「まさかっ、本当に外してなかったのかいっ?」
「そんなものが付いているなんて知るわけがないだろうっ。」
言い争いをしている場合なんかじゃない。
今すぐにみんなに知らせなければ。
ドアを開けると俺はすぐにジョウと美樹の元へと向かう。
「ジョウっ、スーツの準備はっ?」
「出来ている。早くお前は着替えるんだ。それにしても何故、この場所が分かったんだ…。」
「スピードスターが言うにはあいつのスーツにGPSが付いているらしい。」
「なにっ!?まさかあれは…ダミーだったのか…。くそっ…私としたことが…。」
ジョウにはGPSに心当たりがあるらしい。
そのことについては後で問いただすとして今は問題を解決しなければ。
俺はスーツの入ったカプセルの前に立ち、スーツに着替える。
「くそっ監視カメラが壊されているな…これじゃ、誰が入ってきたかわからん。」
モニターには真っ黒な画面が映し出されていた。
「…入ってきたのは二人、一人は女性でもう一人は男性。年はわかんないけど、女性は胸にニコちゃんマークのバッジを着けてる。もう一人の男性はフードを被って刀を持ってる。」
「美樹…?」
美樹は目を瞑りながら、話している。
美樹には何か見えているのか。
「ニコちゃんマークのバッチ…、それはもしかしてスマイルかもしれないな。」
「スマイルってどんな奴だっ。」
「それが…何も情報がないんだ。ただ、人格が二つあるって噂だ。もしかすると新しく入った奴なのかもしれない。それともう一人の方はこのあいだの奴で間違い無いだろう。」
可愛い名前だが、何だか嫌な予感がする。
「名無しは何をしているっ。」
「知らんよ、私は美樹と一緒にいたからな。それよりも早く現場に向かってくれっ。このままじゃ、ここまで奴らがくるぞっ!!!」
「分かってるっ。お前達は先にここから逃げ出せ。逃げ出せたら無線で連絡してくれ、それまで俺がなんとか持ちこたえる。」
俺は二人にそう告げると部屋を出て行こうとする。
だが、後ろから呼び止められた。
「待ってっ。おじさん……気をつけて…。」
「ああ、心配すんな。すぐに戻る。」
美樹の様子がおかしかったが俺は美樹のことをジョウに託し、襲撃地点へと急いだ。
襲撃地点へと着くとそこには既に名無しが戦闘を始めていた。
「くっ…。」
「すまない…遅れた。」
「そんなことよりも貴方はあの女を相手してください。私はあのフードをやります。」
俺は頷くとレイを取り出し、目の前の女に構える。
「……抵抗は……やめて下さい。私達は……目的さえ、達成したら帰ります…から。」
「お前が誰だかわからんが、それは出来ん。お前達の目的は美樹を連れ去ることなのだろう。あの子は渡さんよ。」
「……どうして…言うことを聞いてくれないんですか…。私…嫌なんです。暴力を振るうのが…嫌だから…。」
彼女は辛そうな顔をして俺にそう言った。
見た目からでは何も感じず、俺だけでもなんとかできそうな気がする。
だが、油断は禁物だ。
「いいか、暴力が嫌なら大人しく帰れ。そうすれば、俺も何もしない。3秒だ、その間に俺の前から消えろ。」
カウントダウンを始めるが女は何もせず、逃げようともしなかった。
俺は躊躇うことなくカウントダウンを終わらせると引き金を引く。
「これが最後のチャンスだ。大人しく…俺の前から消えろっ。」
「…貴方は…何も分かってません。私は……逃げませんよ。」
「そうか…それは残念だ。」
引き金を離すとレイの弾が女に向かって飛んでいく。
女は避けようともせずに目を瞑るとそのまま弾を体に受けた。
「………なるほどな…。」
普通の人間なら今ので体が後ろへと飛ばされているはずだが、この女はビクともしなかった。
それどころか女は額に青筋を立て、近づいてくる。
容姿に変わりはないがさっきとは別人に感じる。
「あまり私を怒らせないほうがいいよ。そうしたら、少しは手加減してあげる。」
「図に乗んなよ、糞女が。」
「その口、二度と開けないようにしてあげる。」
俺とスマイルは拳を合わせ、互いに向かって走っていく。
勝たなくてもいい、時間さえ稼げればそれでいい。
「うぉおおおおおっ!!!」
突然、隣で戦っている名無しの方から叫び声が聞こえてきた。
そしてその瞬間、目の前が炎で包まれていく。
何が起きたのかわからなかったが、俺とスマイルは吹き飛び、俺はあまりの衝撃に耐えきれず意識を失った。
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