第9話

 春希は死神の視線には気づかない。

 普段となんらかわりのない授業風景だ。

 いや、少し違うことがある。


 死神が居ることだ。


 死神は死覇装しはくしょうを纏っていて、更に大鎌を持っているが、春希は最近、死神が『死神』だということを忘れかけている。


 まぁ死神が何一つ死神らしいことをしていないので、当然といえば当然なのだが……。死神は春希に死の素晴らしさをアピールするどころか、話し相手になってしまっているのだから。


 そんな死神が居るはずない、と春希は死神が『死神』だと言うことを考えなくなった。


 ――キーンコーンカーンコーン……。


 授業の終わりを告げるチャイムがなる。


 死神は春希のもとへと近づく。


「春希さん、授業はどうでしたか?」


 死神は聞いた。

 春希はこの質問を、授業が終わるたびに受けている。


 ――が、決まってこう返す。


「――別に……」


 と、まるで、心ここにあらず、といったふうに。


 そんな春希の返事に死神は


「そうですか」


 と、決まって言葉を濁らせる。


 ここまではテンプレだ。


 じゃあ続きは? と思う方もいらっしゃるだろう。


 ――残念だが、続きはない。


 春希はトイレに行くために席を立つ。


 死神はついていくわけにも行かずに、その場に取り残されてしまう。


 それか、春希はそのまま机に突っ伏して眠ってしまう。


 死神が学校についていってもいつもこんな感じなのだ。いつもと言ってもまだ学校は二日目なのだが。


 そんなことが五回か六回ほど繰り返され、その日の授業は終わった。


 春希はいつもどおり誰よりも早く帰る支度を済ませ、死神に声をかけずに教室を出ていってしまう。

 死神はそんな春希のことをのんびり見送ろうとして――慌てて追いかける。


 今日もあの景色を見に行くのだ。


 春希は死神と何も約束をしていないが、なぜかそういう空気になっていたのでしょうがなくである。


「……はぁ……」


 春希は思わずため息を吐く。

 断っても良かったのがだ、何故か春希は断らなかった。

 死神に悲しい顔をさせたくないと思ったのか、春希自身もそれを望んでいたのかはわからない。






 数時間後。

 太陽が徐々に落ちていき、段々と暗くなってくる時間帯になった。


 まだ星はほとんど視えていない。

 一等星なる、一番明るく見える星はすでに視え始めているのだが。


 死神は無言で空を見上げ、徐々に闇へと染まる空を眺め、楽しんでいる。


 春希はそれに気づいたが、気づいたという自覚はない。


 そして春希も死神と同じように星を眺める。


 そうしてそのまま時間の流れに身を任せ、星を眺め続けた。


「帰ろう?」


 死神が春希に言う。

 春希は腕時計をみて

 ――もうこんな時間か。

 と。



 そして春希と死神は家の方へと歩き出す。


 ここに来たときより少し早く歩いた。



 やがて家につく。


「おやすみなさい」


 そう言って死神は春希よりも先に眠ってしまう。

 春希は、今日の課題が終わってないことを思い出し、急いで取り掛かる――が。

 春希は相当疲れていたようで、ペンを持った10分後にはすでに夢の中へと意識を手放してしまっていた。


 ――そして三日目が終わった。

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