第13話王都への旅立ち~私は王様の花嫁になる運命なの?・3


―ヒロイン視点―





―一カ月後―





「いよいよ明日は王都に向けて出発ですね。王都とはどんなところなのでしょう? 大きな町ならおいしい食べ物もありますよね? 楽しみです」


明日はイオニアス王国の王都への旅立ちの日。


シェーンフェルダー公爵領は森と湖に囲まれた、とてものどかなところ。


お城の人たちも町の人たちもみんな親切でやさしかった。


レヴィン様は私のわがままに付き合って、お城や町の案内をしてくれた。


レヴィン様はお城の人たちにも、町の人たちにも愛されていた。


こんなすてきな人が未婚で、婚約者も恋人もいないなんて不思議。


レヴィン様はその辺のことを、何も教えてくださらない。


私、レヴィン様のことが好きになっちゃったみたい。


一目惚れというか、最初はただのあこがれだったんだけど。


いまはレヴィン王子様のシャイで、ときどきわがままでツンデレなところが大好き。


王都から帰って来たら、告白してみようかな?


身分違いの恋だけど、告白するぐらいいいよね?


「レヴィン様が一緒なので、すごく気強いです」


知らない世界でひとりぼっちの私を、レヴィン様はずっと支えてくれた。


レヴィン様がいなかったら、私はとっくに心が折れている。


「シェーンフェルダー公爵領を案内してくださったみたいに、王都のことも案内してくださるとうれしいです」


レヴィン様ににっこりと笑いかける。


「…………」


レヴィン様は沈んだ表情をしていた。


王都行きが近づいてから、レヴィン様はずっとこんな感じ。


「…………女神様」


「ほのかでいいって言ってるじゃないですか、レヴィン様」


レヴィン王子様→レヴィン王子→レヴィン様と段階的に名前の呼び方を変えることに成功した。


でもレヴィン様はずっと「女神様」呼びのまんま。


私がいくら「ほのかでいいですよ」と言っても、「女神様を名前で呼ぶことが許されているのは陛下だけです」とかたくななのだ。


陛下ってレヴィン様のお兄さんよね? そんなに偉い人なのかな?


陛下(王様)の弟であるレヴィン様だって十分偉いんだから、私を名前で呼んでもいいと思うんだけどな。


「王都に行くまえに、女神様にお伝えしなければならないことがあります」


レヴィン様がいつになく神妙(しんみょう)な面持(おもも)ちで、私を見つめる。


「なんですか? レヴィン様、あらたまって」


レヴィン様のいつもとは違うおとなしくかしこまった表情に、場の空気がピリリとする。


「あなたは…………王都に行き、王に謁見(えっけん)し」


「それは聞いてますよ、王様ってどんな方なのでしょう? レヴィン様の実の兄上なんですよね、お顔はやっぱり似ているんですか?」


レヴィン様が美形だから、王様もきっと美しいお顔のハズ。


確かレヴィン様とは十五年としが離れてるんだよね?


美少年というよりは、美青年って感じかな?


「あなたは王に拝謁(はいえつ)し………………王の花嫁になります」


「えっ……?」


レヴィン様の言葉に頭の中が真っ白になった。


レヴィン様……いまなんて……?


「あなたは王と結婚するのです」


再度伝えられた言葉に、目の前が真っ暗になる。


「そんな…………」


息ができない、酸素はどこ……?


「これは神話の時代からの我が国の決まりで……」


レヴィン様はなんでそんなことを、淡々と言えるの?


「聞きたくありません!」


聞きたくないよそんな言葉……!


「女神様……」


「どうして、どうしてそんなひどいことが言えるのですか……!」


涙で視界がにじむ。


レヴィン様、お願い、それ以上なにもおっしゃらないで……!


「兄上は聡明(そうめい)な方で、年は少し離れていますが、見た目よりも若く、何よりも美男子で……」


レヴィン様の口から、他の男性を推す言葉なんか聞きたくない!


「そんなこと言ってるんじゃありません……!」


「女神……様」


「どうして、どうして……レヴィン様の口から、他の人との結婚を聞かされなくちゃいけないんですか……? 私は私は……レヴィン様のことが好きなのに……!」


言ってしまった。


完璧な片思い。無表情で他の男と結婚しろなんて言う人を、好きになっても意味ないのに……。


「女神……」


「触らないで……!」


私はレヴィン様の手を払い、部屋を飛び出した。


知らない間に、涙があふれていた。





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