第4話水たまりをのぞいたらそこは異世界でした~金髪碧眼の王子様に一目ぼれしちゃいました・4

―レヴィン視点―



太陽が中天に近づいたころ。


「昼飯を馬車においてきてしまいました!」


湖のほとりから道に止めてある馬車までは、少し距離がある。


「すぐにとってきます!」と言って、ドミニクが走り出す。


ドミニクの背中を見送りながら、仮にも護衛が、主をおいてどこかに行くというのはいかがなものか? と小首をかしげる。


だからと言って、ドミニクと一緒に馬車まで戻る気はしない。


ここは亡くなった母の出身地のシェーンフェルダー公爵領、王都からかなり離れている。


兄の側室が懐妊でもしないかぎり、血のスペアであるボクの命が狙われることはないだろう。


最後に後宮(こうきゅう)入りした側室でも二年は子ができていないし、懐妊(かいにん)しても流産や死産、生まれてきた子が女の子である可能性もある。


たたりを恐れるようなやつらだ、子が生まれるまでは、王太弟のボクに迂闊(うかつ)に手をださないだろう。


ぼんやりと空を眺めていると、空がぶるぶると震えたような気がした。


空の一点が星のようにキラリと瞬(またた)き、何かが高速で近づいてくる。


近づいてくる、というよりは落ちてくる、と言った方が正しいだろうか?



「きゃああぁぁぁぁぁぁああッッ!!」



耳をつんざくような悲鳴とともに、空から何かが降ってきて、湖に落ちた。



バッッシャァ――――ン!!



という音とともに、盛大な水しぶきが上がる。


今のは…………人、であったような?


見間違いだろうか? 人に羽があるわけがないし、空から落ちてくるハズが……。


仮にあれがひとがたの何かだったとすると、天使…………だろうか? いや、もしかしたらそれよりももっと高貴な…………。



ザッッバァァン! 



という音がして、水の中から女が現れた。


「はぁ~~~~、死ぬかと思ったわ! なんなのよもぅ~~~~!」


肩まで伸びた黒い髪、黒曜石(こくようせき)のような黒い瞳、雪のように白い肌。


黒い髪に黒い瞳だと? まさかあの方は……伝説の!


「あっ、人がいた! よかったぁ~~! すみませ~~ん、ここって何県ですかぁ?」


くったくのない笑顔を浮かべ、少女がこちらに近づいてくる。


ボクは少女からさっと目を逸らした。


「聞こえないのかな? もしも~~し? はっ、もしかして金髪だから外国人! ここ外国なの!? えっと……、ハロー、ハロー?」


ボクの数メートル先まで近づいてきた少女が、意味の分からない単語を並び立てる。


天から落ちたショックで、混乱しているのかもしれない。


それから、気づいてないのだろうか? 自身が何も身につけていないということを……。


天界ではみなそうなのか?


ボクはマントを脱いで少女に差しだした。


「天界ではみなそうなのかもしれませんが、ここは地上です。どうかこれを……」


少女がポカンとした様子で差し出されたマントを見ている、それから自身の体を確認し……。


「いやぁぁぁぁあああぁぁぁッッ!!」


と悲鳴をあげ、その場にしゃがみこんだ。


どうやら自分が全裸であることに、気づいていなかったらしい。





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