閑話 賢者の粉。

 草の門。

 今日も今日とて、アルテの白布を見ようとするヴィートと本気で矢を放つアルテ、

 漁夫の利で眼福のむっつりビアンは草の門の櫓にいた。


 彼らの持ち回りとグループは月毎等で変わる。


 王の門はガッハが、森の門はルワース、草の門はヴィートが隊長で不定期で見回り、それぞれ団員のペアが見張りを行っている。

 数日に一度非番もあり、持ち回りで村の農業や、鍛冶、装飾や縫製などを手伝ったりしながら、ほぼ村の中での自給自足を行っている。


 ヴィートは暇な時がほとんどで、稽古をつけてもらいたい子供達や、まだ入りたての自警団員の稽古をつけている。


 自警団員のなかでもそれぞれ得意とするものを見出し、軽装や重装備、魔術や補給等の要員などに分かれる。


 自衛の面もかねて、最低限ヴィートの手ほどきは通らねばならなかった。

 かなり半端はないが、それだけ実力も伸びる。


 ヴィート曰く、ガッハの重装備部隊の訓練なんか大木担いで村外周数周とかざらだからな、それに比べれば軽いもんだよとはいうが・・・。


 木剣を持った子供数人とヴィートは片手に持った木の棒で巧みに避けながら受け流す。


 子供達も足元や目元などうまく分かれてヴィートに打ち込んでいるが、まるでステップをふるうかのようにヴィートはかわし、掠りさえしない。


「ヴィート兄ちゃん!」


 そんな中門の外から声がして、ヴィートは子供達の稽古を停める。


「どした?」


「ねぇちゃんが・・・白いおっきい馬におそわれたよぉ!」


 まだ五歳そこそこの子供が泣きだし始めた。


 ヴィートは鳴く子を腕に抱えた。


「どこだ?案内してくれ」


 こどもは目をこすりながら指で方向を指す。


 ヴィートがものすごい速さで走り出す。


 まるで馬だ。子供は大丈夫だろうか?


 アルテが何かつぶやきながら櫓から降りてくる。


 ヴィートの抱える子の周りにぼんやり光が現れる。


 アルテもヴィートに続いて走っていった。


 鳴く子が言うには、親の牧羊の手伝いをしながら遊んでいたら、突然大きい白い馬が現れたらしい。


 現場に着くとヴィートは子供をおろす。


「おいおい・・・」


 ヴィートの目の前に、女の子の膝に強引に頭を乗せる一角馬ユニコーンがいた。



 ***



「ヴぃーとにいちゃああん」


 泣きじゃくる女の子。


「ああ、わかったすぐ助けてやるからちょいと待ってろ。」


 ヴィートはそう言って女の子をあやす。


「アルテ」


「ああ、わかった、何も言うな」


「ここはしょじ「わかったからいうな」


 ヴィートの口に手のひらを押し当てて女の子の元に行く。


 ユニコーンは頭をもたげ、目を開けてアルテを見据える。


「その子の代わりに私でよいかな?賢い一角の馬よ」


 女の子をアルテは立たせ、男の子の方に体を向けさせる。


 少し足がしびれてるようだが何とか歩けそうだ。


 アルテは辺りの草を敷いて、そこに座る。


「おいで」


 アルテの声にユニコーンは頷きひざ元に頭をうずめる。


 途端に寝息を立て始め動かなくなる。


 ユニコーン。


 精霊の馬といわれ、額に伸びた一角の角を持つ白馬で、その角はあらゆる毒を治療、中和しするといわれる。

 かれらは日々狙われ、心休まる日々がなく、唯一まだ清い女性のみに心を許すと言われる。


「ヴぃーとにぃ、アルテねぇちゃんだいじょうぶなの?」


「ああ、大丈夫だ、あのお馬さんは兄ちゃんが近づくとおこるけど、おねちゃんやアルテねぇちゃんが近づく分にはなにもしないよ。

 あのお馬さんはユニコーンていう強いお馬さんなんだけど、あの角を狙って悪い人に良く襲われるんだ。

 多分疲れて、こころやすめたかったんだろうね、もう少ししたら自警団の人かお父さんたちが来るはずだから少し待ってようね」


 ヴィートは子供達にそういって、ユニコーンとアルテの所から少し離れて座って様子を見ている。


「ヴィートにいちゃんは近づいてダメなのに、アルテおねぇちゃんがちかづいてもおこらないのはどぉしてなの?」


「それはね、アルテおねぇちゃんは・・・」


 アルテは弓を持ってきていたがユニコーンが膝枕しているのでその行動が出来ない。


 矢だけでも投げるかと構える。


「清い心もっている女の子だからだよ。」


「そぉなんだ。私もきよいこころもってるんだね!」


 女の子も笑みでヴィートに返す。


 どうせろくでもないこと言うと思ったアルテは耳まで赤くなり、顔を俯ける。


「まぁほんとはしょじ「きよいこころだ!!!」


 ユニコーンがびっくりするほど叫ぶアルテだった。

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