7sec 黒衣のウガルザード

「―――茶番はその辺にしていただきましょうか」



 冷たくいら立つような声が謁見の間に響くと、イットキ達3人の前に黒衣の男がどこからともなく現れた。



「き、貴様何者だ!」

最初に、王様が声を荒げて玉座から立ち上がり突然の闖入者を威圧する。



 だが、黒衣の男は王様の声などどこ吹く風とばかりに涼し気な顔をしながらツカツカと硬質のブーツの音を部屋に響かせてイットキ達の方へ歩み寄ってくる。




「私の顔すら覚えていらっしゃらないとは…、王族とはやり血も涙もないものですね。」



黒衣の男は口元にたくわえた長いひげを撫でつけ、苦々しく吐き捨てるような深いためいきとともに王様へと言葉を吐く。



「私の妻を見捨て、私を放逐した冷酷なカイロス王よ。貴方に罪を償わせ、ブロワーズとの思い出に帰るという私の計画は完璧だったのに、なぜ永劫の時のまどろみが解けてしまったのか答えて頂こうか。」



黒衣の男の言葉にイットキは思わず叫ぶ。



「時のまどろみ……、そうか!お前が…、お前があのわけのわからない呪いの元凶なんだな!」



 イットキは黒衣の男に向かい、探偵モノのゲームやドラマのようにビシィッ!っと右手の人差し指を差し向けて叫んだ。



 男は目を細めて冷たい眼光をイットキへ向けると、邪魔者を蔑むような声でうっとうしそうに答える。


「君は何者だ?チコリス姫とずいぶんくだらない茶番劇に興じていたようですが…。見た所この場にいるにはふさわしくない風体の人間、少し黙ってて頂きましょうか。」



 黒衣の男は言葉を言い終えると、鏡合わせのように右指をイットキへと差し向ける。男の指先に何か見えづらい靄(もや)のようなものがゆらめいて突如黒い光が放たれたかと思えば 、イットキは胸を思い切り殴られたかのような鈍い衝撃を受けて宙を舞っていた。


イットキはごろごろと床を転がるようにして倒れ、五メートル程も吹き飛ばされてしまう。



「イットキ!!」

チコリスが悲鳴を上げてイットキへ駆け寄る。



「……ぐえっ、ぐっ……ごほっ、…な……なにが……?」

「イットキ、大丈夫?」



 空気に喘ぐように言葉を絞りだしたイットキを黒衣の男はつまらそうに一瞥すると王様の方へと視線を戻す。


「では話を続けましょう、王よ。なぜ解けるはずのない時の呪いが解かれてしまったのか、あの麗しき魔道長官殿がこの場にいないとなれば王よ、貴方しかいない。いったどのようにして時の呪いを解呪したのだ、千人もの生贄を使った呪いをそう易々と解呪できるはずがない。」



 黒衣の男は冷たく王様に問いかけるが、少しづついら立ちがまぎれ、言葉の端々に熱がこもる。


「魔道……、そうか…、貴様、前任魔道副官のウガルザードじゃな?三年前に禁魔術へと手を染めた罪で投獄したあと逃亡したと思えば、城中を巻き込んだ呪いなどと大それたこと…、それも千人を生贄にした呪いなどという計画を練っていたとはのう。」



「城?ああ、動けるのが貴方がただけでは確認もままなりませんか。呪いが及ぶのは城だけではありませんよ、この国すべてが呪いの範囲です。私も見てきましたが城下へと降りてみれば道行く国民すべてが道に倒れ伏しているでしょう。」



「な、なんじゃと!?貴様…、よくも……。」




 イットキは自力で立ち上がることもできず、チコリスに支えられながら王と男の話を聞いていた。胸に受けた衝撃はかなりのもので、鈍い痛みが消えないのを考えればどこか骨が折れているのかもしれなかった。



 さっき撃たれたのは魔法なのか?まるで道端の石ころをけとばすように吹き飛ばされた。警察みたいなのいないの?あのオッサンが犯人なのにあんなの勝てるわけないじゃん。



「……ットキ。……イットキ。」

痛みを噛み殺すイットキの耳に自分を呼ぶチコリスのささやき声が聞こえた。


(続く)

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