死ななかった魔女 side男

『自分の妻を愛しているか?』と聞かれて、純粋に『愛してる』と答えられたのは、いつまでだっただろうか。


『自分の妻を愛しているか?』と聞かれて、純粋に『愛してる』と答えられなくなったのは、いつからだっただろうか?


 ●


 俺、神田進かんだすすむが、新妻聖奈にいつませなに出会ったのは、大学に入学してすぐのことだった。


 彼女は、日本では珍しい藤色の瞳を持った怪しい雰囲気を持つ、美人だった。

 何処にでもいる男だった俺は、皆がやっているように足を止めて彼女に魅入ってしまった。


 すると、ぱちりと目があった。藤色の瞳が俺を見ている。自意識過剰なんかではない。

 彼女は少し微笑みながら、俺を見ていた。


「見つけた」


 彼女がそう言った気がけど、周りの声にかき消され、よく聞き取れなかった。


 ●


 それから、聖奈のほうから話しかけてくれ、俺たちは仲良くなり、いつしか付き合うことになった。


 聖奈は見た目通り不思議な人で、あたまが良かった。

 ころころと笑う姿は愛らしく、何かを考え込んでいるときは美しかった。


 聖奈の不思議な魅力に、俺は自然と惹かれていった。


 告白をしたのは俺の方で、聖奈も『私も好き』と言ってくれた。


「俺の何処が好きなの?」

「何処とかじゃなくて、運命を感じたのよ」


 そんな不思議でロマンチックな答えを返してくれた聖奈を、俺は益々好きになった。


 付き合ってからも大きな問題もなく順調にいった。

 互いに知らなかったことを知り、共に穏やかな時間を過ごし、愛を深めていった。聖奈が嫉妬深かったのは意外だった。


 まあ、そんなこんなで俺たちは大学卒業して一ヶ月後に、籍を入れた。


 ●


 社会人になると、聖奈と一緒に過ごせる時間が少なくなった。

 寂しかったが、聖奈のために働いていると思うと頑張れた。


 –––––––だけど、いつからだっただろうか。聖奈の様子がおかしくなってきたのは。


「ねえ、進。私のこと愛してる?」

「愛してるよ」

「本当に?」

「ああ、本当だよ」


 毎朝、愛してるか確認される。酷い時には十数回確認された。

 仕事中に電話をかけてくることや、ラインを入れてくる回数も増えた。

 夜帰ると、会社で何をしたのか報告を求められるようになった。


 最初のうちはまだマシだったが、それは段々とエスカレートしていった。

 俺が会社のことを報告しなくても、何故か知っていて、俺が何処にいるのかも把握していいる。

 電話に出なかったり、ラインの返信が遅かったりすると、浮気を疑われた。


 そこまでする聖奈が、俺は怖くなった。

 愛が重くて、純粋に聖奈を愛してあげることが出来なくなった。


 毎日確認される『愛してるか』も業務的なものとなった。

 俺は聖奈を愛したい。でも、今の聖奈は愛せない。


 ●


 何の変哲もない日だった。

 家に帰るのが憂鬱で、ぼんやりと考え込みながら、歩道を歩いていた。


 聖奈はどうしたら、元に戻るのだろうか。


 ぐるぐると考えていて、周りのことなど目に入っていなかった。


「危ない!」

「きゃあああ!!」


 それでも、周りが騒がしくなってることに気づき、俺は顔を上げる。


 –––––––––そこには、猛スピードで突っ込んでくる車があった。


「あっ」


 そう思った時には手遅れで。

 俺、神田進は死んだ。


 ●


『神田聖奈を愛しているか?』と聞かれたら、今の俺は。


『愛することができない』と答えるだろう。



 何故かそんなことを思いながら、俺の意識は闇に沈んでいった。


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片恋の魔女は死ねない 聖願心理 @sinri4949

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