公開講義録 訓示(出雲在籍校)

 我々技術師と他国の技術者・研究者、この二つを明確に分けるものはなにか。

 まず一つに国からその身分と特権等を保証されているかどうかということ。もう一つは、技術流派に属しているか否かということに尽きる。


 ではなぜ、我が国は他の国ではまず見られない技術師と技術流派という制度の確率に至ったのか。

 簡単な話だ。

 技術力の差が国力の差であるからだ。


 石によって遂行されていた戦争が、やがて鉄へと変わり、そして銃となり砲となり、騎士のような旧来の兵科を放逐し、発生する死人の数も格段に増えた。

 食料生産もそうだ。空気からパンを作る技術――即ち空中窒素固定法の確立によって化学肥料の大量生産が可能となり、結果として農作物の収穫量が増え、人口の増加並びに貧困と飢餓の軽減に貢献した。


 この二つに共通しているのは科学の存在だ。

 科学こそが人を救い、科学こそがさらなる繁栄を約束する。ならばこそ、高い技術力を擁する国家が情勢を制御するのは自明の理だ。

 故にこそ、すべての国家は科学技術の発展に全力を費やした。


 さて、ここで問題だ。

 科学技術において、最も少ない労力で発展を得られる手っ取り早い方法が存在する。それは何か。


 ――そう、盗むことだ。

 言い換えるなら産業スパイ。もう一つとしては技術者・研究者の引き抜き――いわゆるヘッドハンティングがある。

 この二つの手法は実際効果的だった。何しろ少ない労力で他国が全身全霊を以て築き上げた成果を得ることができ、その国に経済的・人的損害を確実に与えられるからだ。


 多くの国々がそれに対して多種多様な対策を講じていく中、我が国が採った対策が技術師制度と技術流派の設立だ。


 技術師とは何か。

 それは、技術流派に属する人間であり、我が国が所有する人的資産であり、個々人の研究・成果如何によっては戦略人的資産となりうる存在だ。


 技術流派とは何か。

 それは、流派と同様の結束と相互監視に基づく機密保持体制と独自の技術体系のもと研究者と技術者の互助育成を行う組織であり、いずれ君たちが属することになるネストでもある。


 世界の神秘と奇跡と恐怖に挑み、いずれ技術流派に、国家に、そして世界に貢献する希望と誇りを胸に学問に励み、また学生生活を謳歌することを期待する。

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