第3章

 救急車は去り、一旦静かな夜が戻ってきた。しかしすぐにそれは一変する。警察が訪れる。救急車は死亡していたら警察がくることを、千菜美達は忘れていたようで酷く動揺していた。先に主治医を呼んでいればその場で死亡診断書を書いてもらい、警察にお世話になることもなかっただろう。

 私は、昼ドラマの視聴歴が足らないのではないかと彼女達を傍観しながら思っていた。全員動揺している状況だったので、彼女達は目立つことはなかった。それから全員の事情聴取が始まった。持病のこともあったが、それにしても風邪が悪化して、最後は呼吸困難で死亡というのは怪しく見ることもできる。主治医の先生も呼ばれて1人ずつ聴取を受ける。

 私も受けたいと思いながら、お母さんの膝の上に乗って警察の邪魔にならないようにする。先に検視が必要か事件性を確認しているようだった。だが、急変の要因を調べるため父と母は、ぜひ調べてほしいという流れだった。これは犯人がいるとすれば、病死で終わらせたいところだったのに、怖い展開といえるだろう。

 千菜美達は疑いがかかる行動を恐れて、とても静かにしているようだった。全員の取り調べが終わり、特に疑いがあるようなことはないとのことだったが、検視の結果を待つことになった。偽膜形成や白苔があり、調査の結果ある感染症だったことが分かった。

 それはコリネバクテリウム・ウルセランス感染症というものだった。


 お母さんがそれはどのような感染症なのかと警察に訪ねた。警察官も資料を取り出して、それを読み上げる。

「コリネバクテリウム・ウルセランス感染症とは、細菌によって引き起こされ、ジフテリアによく似た症状を示す感染症。猫から感染することがあり、呼吸器感染の場合には、初期に風邪に似た症状を示し、その後、咽頭痛、咳などとともに、扁桃や咽頭などに偽膜形成や白苔を認めることがある。重篤な症状の場合には呼吸困難等を示し、死に至ることもある……そうです」

 まさか猫の話が出てくるとは思わなかった。つい、お母さんの後ろに隠れる。こういう場合調べられて殺処分とかになるのではないか。それにしても、感染症になった覚えはないし、間違いなくトバッチリで検査される。それも同じく怖い。何にせよ胸がざわつく。

 お母さんは、私の反応をみたからか、後ろ手に私を撫でながら、

「この子たちが病気を持っていてお婆ちゃんを殺したってこと?お婆ちゃんは何年も前から寝たきりで、この子たちは2階に上がれないように、柵があるから会ったこともないのよ?お婆ちゃんは降りてこられないし、ありえないわよ」

 お母さんは冷静に、そして強い口調で言ってくれた。警察の人は、困っているようだった。確かに、その感染症の説明だと普通は、家猫が疑われる。でも飼い猫は、定期的に病院に行く機会があり、野良猫との交流がないのに感染症にはなりにくい。

 野良猫でも飛び込んできたなら、まだしも。

野良猫?野良猫が家に来て、お婆ちゃんを感染させてしまえば可能かもしれない。それには、もちろん人の手が必要だが。それに気づいたからといって何ができるわけでもないが。

 そう、お母さんの抵抗虚しく、検査の為に動物病院行きとなった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る